岩手県では現在15JAがガス事業を展開している。各JAに1〜5の販売所があり、県全体では31の販売所がある。供給戸数は6万8245戸で、単純計算による利用率は、取扱JAの正組合員戸数の73.4%になる。
JA全農いわては、供給センターとして、盛岡(滝沢村)、岩手(花巻市)、県南(一関市)の3ヶ所のクミアイプロパンセンターを設置し、年間約1万4000トンを6万1242戸に供給している(供給センター加入率89.7%)。また、安全化システムの普及率は48%と全国平均の40%を上回り、なかでもJAいわて花巻は71%と高い普及率となっている。
県内JAグループの単位消費量は13kg/月だが、最近は「家を増改築すると灯油に切りかえコンロだけがガスという家庭が増え、また、食の外部化により、単位消費量の減少傾向がみられる」と岩手クミアイプロパンセンターの老川幸則所長。
◆「ふれあい訪問」で事業を推進
こうした傾向に歯止めをかけ、「安心と信頼」のJAガス事業を確立し、事業を拡大するために、全国的に展開される「ふれあい強化訪問」活動にあわせて、9月から「ふれあい強化訪問点検」(11月まで)と「ガス器具普及促進活動」(12月まで)の2つのキャンペーンを展開している。
具体的には、各センターごとに研修会を開催し、商品知識と組合員を説得できる話法を習得し、計画的に組合員宅を訪問。燃焼機器の無料点検とクミアイガス機器の推進を行うことで、ふれあい活動を強化し、組合員との信頼関係を構築していこうというものだ。また、各機器の販売促進については、JAごとに昨年の台数実績の110%を目標に取組まれている。
全体的な事業推進については、毎年各センターごとに開催される「LPガス防災訓練及び事業推進会議」で、事故防止など保安体制の徹底をはかるとともに、事業推進のあり方について意思統一をはかっているが、さらに個別にJAと協議検討して推進を行っている。
◆JAいわて花巻
融資や宅建事業とも連携し、40%のシェア確保
JAいわて花巻は、岩手県中央部に位置し、宮沢賢治のふるさとで高村光太郎や萬鉄五郎のゆかりの地・花巻市を中心に、稗貫郡石鳥谷町、大迫町、和賀郡東和町の1市3町からなり、平成10年に花巻市・石鳥谷町・大迫町・岩手東和町の4JAが合併して誕生した。東北を代表する河川である北上川が流れ、流域の肥沃な沖積層の大半が農地として利用され、耕地面積の82%が水田という稲作地帯だ。
JAのガス事業は、販売拠点である花巻と石鳥谷の両LPGセンターとそれを統轄するJA生活推進部自動車燃料課LPGセンター(LPGセンター)からなり、管内1万970戸へ年間約2067トンを供給、商系を含めたシェアは40%と高い。
利用者はJA正組合員が7750戸で、正組合員世帯の74.7%が利用しているが、員外利用者が2508戸と利用者の約23%を占めていることが、JAいわて花巻のガス事業の大きな特徴だといえる。員外利用者が多いことについて伊藤肇LPGセンター長は「アパートなど集合住宅が多いので、融資や宅建事業と連携して、JAで土地提供や融資をした新規物件はJAでガスを供給するという方向づけ」をしているからだという。総合事業を展開するJAの優位性を活かした成果だといえる。
◆担当者を減らさず、4販売所を2つに統合
ガス事業は購買事業総利益の約20%を占め「収益性もよく、JAを支える重要な事業だ」(伊藤憲彦生活推進部自動車燃料課長)が、合併当時にはいくつかの問題点があった。
合併当初、ガスの販売所は図1の左側のように、花巻、石鳥谷、大迫、東和と旧JAごとにあり、花巻を除く3ヶ所では、改正液石法の規定からみると資格者が不足していた。花巻では利用者が7000戸を超える見通しだったため当時の資格者6名では、法定資格者が1名不足することが予想された。また、東和には設備工事資格者がいないために、設備工事ができない状態にあった。さらに、専任者1人あたり供給戸数が1000戸を超える販売所もあり、消費者へのサービスや営業が十分にできない状態があったこと。事務員がいないために未収金回収の管理が不備だったり、他の部署職員に事務処理を依頼する販売所がある、などの問題点があった。
法的基準をクリアすると同時に、利用者サービスの向上、営業力強化を行い、一部地域での利用者戸数・販売数量減少に歯止めをかけ、事業の拡大と効率的な運営体制を確立するために、石鳥谷・大迫・東和の3販売所を統合し、2販売拠点体制にすることを平成12年4月に決める。統合した新販売所は、支店統廃合によって使われなくなった施設を改修して使うことにした。
伊藤LPGセンター長は、「法改正もあり、ガス事業の環境も厳しくなっていますから、一定の方向性をもって計画的に統合しなければいけない」と考え「統合計画案」を練り上げたという。特に経営トップには、事業所の統合というと「人員を削減して経費を落す」と考えられがちなので、「そうではなく、いままで以上の事業をやっていくためには、これだけの人数が必要だ」ということを強く訴えたという。その結果、統合後もトータルでの人数は変らずに移行できた(図1)。
◆職員のモチベーションが高まり着実に伸びる実績
図2はJA合併以降のガス事業の実績を示したものだが、11年に落ち込んだ実績が、販売所統合の12年以降は着実に伸展している。これは、統合によってガス事業を担当する職員のモチベーションが高くなったことの表れだといえる。
統合前は嘱託やパートを除けば1〜2人という販売所だったため「保安も事業も現状を維持できればいいという感じで、計画もつくれず、上で立てた計画を落すしかなかたので、計画に対する責任感も薄くなり、バラバラで事業が進まなかった。統合後は、伊藤LPGセンター長のもとにそれぞれ責任者をおき、自ら計画し推進しているので、事業の進め方が前向きになり、センター同士で競い合うなど充実している」と伊藤課長。
JAでの事業所統廃合では、組合員・利用者の理解をいかに得るかも大事な課題だ。とくに地元から事業所がなくなる組合員のなかには「足(距離)が遠くなるから使わない」という人も出てくる。そうしたことが起きないためには「統合によって、工事体制や保安体制を万全にして、対応をもっともっと良くしていきますということを、早い時期から組合員に知らせて、理解していただくこと」が一番大切なことだという。
◆給湯器設置拡大で家庭消費減少に歯止を
販売所統合で順調に事業が伸展しているように見えるが問題がないわけではない。その最大の課題は、家庭用消費の減少だ。トータルの供給量は11年を除いて着実に増えてきている。しかし、図2でその内訳を見ると、家庭用が供給戸数は増えているのに、供給量が10年の1687トンから13年の1604トンへ5%減少している。業務用需要の拡大で、家庭用需要の落込みをカバーしているのが現状だといえる。
「スーパーの惣菜売場が拡張されているように、食卓までの流通が変化している。共稼ぎ家庭では、ガスはお湯を湧かすくらいしか使われず、数量がどんどん減っている。戸数を増やすことも大事だが、1戸あたりの消費量を増やしていくことが大事だ」と伊藤LPGセンター長。JAの13年度のガス器具販売高は約2400万円だが、供給戸数からみればまだ少なく「倍は売らなければいけない」という。
そのポイントとなるのが給湯器だ。伊藤LPGセンター長は無料で給湯器を提供してもいいという。しかし、無料だと「ガス代に上乗せしているのでは」とか、無用な不信感をもたれるので、「保守・メンテナンス付5年リースで、月1000円、追炊き付は2000円」にしてはどうかと考えている。
当面は、9月からの「ふれあい訪問強化活動」で、1日の訪問件数など自己目標を設定し、これを推進のベースにして事業拡大に取組んでいく。また、春の電化ショーと秋の農業祭り来場者を対象に「ガス器具利用実態調査」を行い、このデータを推進に活用していくことも実施している。
◆1万件の利用者情報をデータベース化して活用
事業拡大のために、いま1日も早い実現を目指しているのが「OA化」だ。
JA全農いわてでは「消費者保安情報システム」を開発し、県内利用者の情報をデータベース化する取組みを進めてきている。一方地域の防災センターでは、地域のLPガス利用者の情報が蓄積されている(新規は毎月、戸別情報の更新は3年ごと)。この防災センターの情報のうち、JA利用者情報を消費者保安情報システムに移行し、JAに端末を設置して訪問活動のつど、戸別情報を更新しようというものだ。
これが実現すると、工事や修理などの業務が発生したときに、その利用者の器具の履歴が分るので、それにあわせた提案活動を行うことができるようになる。あるいは、器具購入後5年を経過した利用者をピックアップして訪問販売することもできるなど、「可能性のある利用者にあった提案活動ができ、販売戦略が容易にたてられる」ようにもなる。1万件を超えるデータから手作業でこうしたことをするのは、実際問題不可能に近いので、1日も早くこの「OA化を実現したい」という。
◆事業飛躍へさらなる挑戦がはじまっている
そして「安心と信頼」をベースに事業基盤を拡大するために担当職員が「ガス器具設置スペシャリスト」や将来を見据えての「第2種電気工事士」などの資格取得することも事業計画のなかで策定し、積極的に進めている。
販売所統合で、事業を効率的に推進する体制は整った。これをベースにさらに事業を飛躍させるためのさらなる挑戦が、JAいわて花巻でははじまっている。