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解説記事
宮城米 現地ルポ
火災盗難予防・品質管理の基本は見回りと清掃!
農業倉庫火災盗難予防月間スタート
(14年12月15日〜15年2月15日)
 いま全国には約8400棟の農業倉庫があり、その収容能力は655万トンにおよび、JAグループコメ販売の重要な拠点となっている。この倉庫にはいま、生産者が精魂を傾けて生産・収穫した14年産米がギッシリと収容されている。このコメの品質を保持し、火災や盗難などの事故から守ることが倉庫担当者の使命だ。JAグループでは毎年この時期に「農業倉庫火災盗難予防月間」運動を実施し、事故防止に万全を期しているが、これに加えて品質保持管理にも力を入れた運動を展開していくことにしている。そこで今年は、古くからの米どころ・宮城県に取材し、農業倉庫の保管管理のあり方について聞いた。

とれたての味のまま消費者に届ける
―農業倉庫の役割

◆江戸時代初期から日本を代表する米どころ・宮城

 西には蔵王・船形・栗駒の山々が連なり、東は太平洋に面し、風光明媚な松島や豊かな漁場に恵まれた宮城県の中央部は、国内有数の穀倉地帯だ。経営耕地面積の81%が水田で、平成14年の稲作作付面積は約8万ヘクタール、収穫量は約30万トン。県内農業粗生産額のほぼ50%(12年度)をコメが占めている。
 宮城米がその名を知られるようになったのは、江戸初期の江戸(東京)に出荷されてからだが、その後、江戸市中米の3分の1を仙台(宮城)米が占めるようになり、江戸で本場米といえば仙台米をさすようになってからだろう。現代になっても、戦後の1反当たりの収量が4〜5俵という時代に、7俵以上の収量をあげ、しかも食味にも優れた「ササシグレ」(昭和27年命名登録)、昭和40年代半ばに自主流通米制度がスタートし、そのときにコシヒカリとともに日本一の銘柄米といわれた「ササニシキ」(昭和38年誕生)が有名。平成3年にデビューし、この年の流行語大賞銀賞を受賞した「ひとめぼれ」。この「ひとめぼれ」を父に、「チヨニシキ」を母に、平成10年にデビューした「まなむすめ」と、日本を代表する銘柄を次々と生み出している。

◆石巻に1万トンの低温連合倉庫を建設

14年10月から稼働を開始したJA全農みやぎ石巻連合農業倉庫
14年10月から稼働を開始したJA全農みやぎ石巻連合農業倉庫

 こうしたコメを保管管理する農業倉庫は、16JAとJA全農みやぎ(県本部)で、378カ所(倉所)に461棟あり、その収容能力は32万6800トン余ある。その内訳は、低温倉庫が99カ所102棟で13万2300トン余。準低温倉庫が18カ所18棟で1万7700トン余。常温倉庫が261カ所341棟で17万6700トン余、となっている。
 この内、県本部が運営する連合倉庫は10カ所あり、その収容力は約4万8000トンだ。この連合倉庫はすべて、自主流通米制度がスタートした昭和44年に、県本部(当時は宮城経済連)によって建設された。それは、JA農業倉庫の収容力が不足していたこと。自主流通米がスタートし、保管管理の重要性が認識され、キチンとした倉庫でキチンと管理したコメを出庫したいという、JAからの要望があったからだという。
1万トン収容の倉庫内には14年産米が整然と収容されていた
1万トン収容の倉庫内には14年産米が整然と収容されていた
 建設当時は、すべてが常温倉庫だったが、消費者の良質米志向や健康志向に応えるために昭和50年代に入り逐次改修工事をし、現在はすべての連合倉庫が低温倉庫となっている。しかし、建設から38年を経過しているために、老朽化が目立ち、低温倉庫としての機能が低下してきている。
 そのため県本部では、長期計画で県内数カ所に連合倉庫を集約化する予定にしているが、その第1号が14年10月に完成した「石巻連合倉庫」だ。敷地面積7510坪・建坪1595坪、収容能力は1万トン強あり、穀温、室温、室内湿度などの保管管理に必要なデータは、庫内各所に設置されたセンサーから事務所内のパソコンに送られ、大きなタッチパネル式ディスプレーで随時監視し、プリントアウトできるようになっている。

◆衛生・品質確認に米卸業者が毎月倉庫を見に来る

倉庫内の温度・湿度・穀温はすべて事務所で管理できる
倉庫内の温度・湿度・穀温はすべて事務所で管理できる

 同倉庫の役割について、JA全農みやぎの島崎幸雄米穀部付技術主幹は「消費者の安心・安全ニーズが高まっているなか、とれたての味で消費者に届ける“売れる米づくり”のための保管管理をキチンとする」ことだという。そして、いままでは「田んぼを見にきていた卸」が、これからは、消費地に届けられるコメが「衛生的で清潔な環境で保管されているかどうか確認するために、毎月、倉庫も見に来る」という。
 ある卸に納入されたコメの紙袋の一つに、雨の日に作業したためか足跡がついていて、1車分全部返品されたこともあるという。虫やカビが発見されれば損害賠償を請求されることもある。いまの時代、コメも生鮮食品と同じように、消費者の口に入るまで産地が責任を持つことが要求されているということだ。
 最近は、品質保全のために低温倉庫が増え、庫内温度や湿度、穀温管理が機械化されている倉庫が多くなってきている。そのこと自体は決して悪いことではないが、「機械頼りになり失敗する例も多い」と島崎さんは指摘する。それは、常温保管の時代には、空気調整など夏場の保管管理に苦労していたし、JAも倉庫事業は大きな収入源ということで関心が高かったが、低温化・機械化されたことで保管管理への関心が薄れているためではないかとも。島崎さんは長年の経験から「経験を積んだ人間の勘や目の方が正確な場合」も多いと、「機械頼り」の最近の傾向に警鐘する。

管理の基本を実地に学ぶ
「倉庫管理審査競技会」

◆耳学問では身につかない管理の基本

真剣な表情で審査する「保管管理審査競技会」の審査員
真剣な表情で審査する「保管管理審査競技会」の審査員

 宮城県でも保管管理の研修会を階層別・ブロック別に毎年実施してきている。しかしそれは「一方通行」的で、必ずしも倉庫担当者の身についていくとは限らないこと。JAの人事ローテーションで担当者が変るために、保管管理の要綱・要領が十分に理解されず「基本が分かっていない」人が多いという悩みがあった。
 そこで「耳学問よりも、身体で覚えてもらう」ために、14年8月に「JA農業倉庫保管管理審査競技会」を実施した。この競技会の目的は「いつも食糧事務所の検査を受けているJAの倉庫担当者が、他JAの倉庫の実際の現場を見て保管管理状況をチェック・採点することで、望まれる管理や管理の基本事項を、身体で覚えてもらおう」ということにある。競技会の内容は、参加した各JAの倉庫担当者35名が、審査対象となる農業倉庫の設備、保管技術、日常管理などを採点し、予め審査員(食糧事務所2名、県本部1名)が採点した「模範回答」に近い採点をした参加者を表彰するというもの。
 採点項目は「倉庫の部」と「保管技術の部」に大別されている。倉庫の部は、倉庫施設に関するもので、立地・壁・屋根・床・扉・低温設備・防犯設備・防火設備・防水設備・その他設備の10の基準項目・24小項目で50点。「保管技術の部」は、清掃・はい付け・管理器具・日常管理の4基準項目・23小項目で50点。参加者の採点終了後、審査員が「模範回答」の採点内容を項目ごとに説明するという方式となっている。

◆「1回の清掃は、100回の薬剤散布に勝る」

清掃の重要性を訴えるポスター
清掃の重要性を訴えるポスター

 審査員の「模範回答」で目立ったのは、保管技術が50点満点で30点だったことだ。とくに、清掃が10点満点の3点、はい付けが8点満点の3点と低かった。
 「事故が起きた農業倉庫を見に行くと、必ずといっていいほど清掃が悪く、汚い」と島崎さん。ホコリやゴミは、虫・ネズミの餌となり、病害虫の温床となる。また、低温倉庫の場合には、空調設備など電気製品が多く使われており、万が一漏電した場合に、このホコリやゴミから出火する危険性がある。
 品質保持と火災事故から大切なコメを守るために、農業倉庫の清掃の徹底は、倉庫管理者の基本中の基本だといえる。いま宮城県のJAグループ農業倉庫には「保管管理の基本は清掃にある」ということを徹底するために写真にあるように「一つの清掃は、百回の薬剤防除に勝る」という標語を印刷したポスターが貼られている。
 競技会もこのポスターもその目ざすところは、とれたてのままの美味しいおコメを、安全・安心に消費者に届けるのが倉庫業者の責任であり、そのために、買い手・消費者の気持になって、どうすればいいかを、自ら考え、実行することが必要だということだ。そうでなければ、生産者がどんなにいいコメをつくっても、管理が悪ければ消費者は買ってくれない時代になっているということを、農業倉庫の担当者だけではなく、JAのトップも肝に銘じて認識しなければいけないということでもある。


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