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解説記事

具体策づくりへ粘り強い運動を
―米政策改革大綱決定とJAグループの今後の取り組み―

冨士重夫 JA全中 食料農業対策部長

 JAグループは、米政策の改革案決定に向けて組織討議を行うとともに、11月からは全国代表者集会を開くなど要求実現に向けて強力に運動を展開した。今回の運動の経過と、今後の課題、JAグループとしての運動方針など、JA全中食料農業対策部の冨士重夫部長に解説してもらった。
1 取り組み経過のポイント

 米政策の改革に関しJAグループは、基本的な考え方の整理と具体的な制度・仕組みについて二度にわたる組織討議を行い、その内容の実現に向け、政府研究会に提案し、与党を中心に強力な要請を行ってきた。
 11月14日には、日比谷公会堂で米政策改革対策全国代表者集会を二千名規模で開催し、与党国会議員に対し強力な働きかけを行うとともに、山場の11月25日の週には連日、代表者集会を開催し、全国の代表者約四百名が徹底した要請運動を展開した。また、政府研究会のとりまとめに向けては、JAグループの重点事項を確認し、花元水田本部委員長を先頭に委員全員が一致団結して徹底した主張を繰り返し、我々の求める制度や仕組みが反映されるよう努力を重ねた。

◆宮田全中会長と大島農水大臣の会談

 
大綱決定前のヤマ場には
連日代表者会議を開いた

 11月24日には、国会開催中の合い間をぬって、大島農水大臣からの申し出により、宮田全中会長と水田本部役員とのトップ会談が行われた。
 大島大臣からは(1)米政策の改革大綱を11月末までに決定すること(2)期限を明示して、国による生産調整の配分を行う体制から、農業者・農業者団体主体による体制に移行することを前提に改革内容を決定したい旨の発言があった。
 宮田全中会長からは(1)米を取り巻く需給環境から早く決定したいが、その大前提として農水省案について大幅に見直し転換することが必要である、(2)自給率向上と主食たる米の安定供給を図るため、実現目標を明示して水田農業の構造改革に取り組むことは必要であるが、国が手を引くと受け止められる生産調整の配分の廃止の時期の明示は絶対認められない、(3)米政策の改革は、集落営農も含む担い手に対する経営安定対策を実現すること、生産調整のメリットは生産調整規模とリンクした仕組みとすること、過剰米対策は計画生産を崩さない公平なものとすること、(4)また、決定にあたっては与党の検討をふまえたものでなければならないことを主張し、両者の話し合いは平行線に終わった。
 大島大臣から、米は我が国農業・農政の礎であり、米政策全般に関し国が手を引くことはあり得ないことや、JAグループは重要なパートナーであり、改革に向かって共に歩んでもらいたい旨の話があった。

◆自民党「米政策改革大綱骨子」
  ―農業基本政策小委員会、委員長とりまとめ―

 JAグループは、11月25日から4日間連続で全国代表者集会を開催し、(1)国による生産調整の配分廃止は認められない。主食たる米の安定供給をはかるため、生産調整等における国の役割と責任を法制度で明確にすること(2)集落営農も含めた担い手に対する経営安定対策を米政策改革とセットで実現すること(3)産地づくり交付金は生産調整面積規模と麦・大豆・飼料作物等の本作化の取り組みとリンクしたものとし、現行水準を基本に財源を確保すること(4)過剰米対策は生産者拠出と豊作分の区分出荷を可能とする仕組みを確立し、補償水準は政府助成を行い、現行手取りを基本に設定すること(5)表示や農作物検査を強化し、安全性を確保する制度的仕組みと対策を確立することなどを柱とする重点事項を決め、徹底した要請運動を展開した。
 一方、政府研究会は11月26日、これまでの議論経過を踏まえ、大枠ではJAグループの主張を反映し、従来の農水省案を修正した具体案を提示した。しかし国による生産調整の配分廃止に関する改革に向けたステップの部分については空白とし、棚上げにして与党の検討結果を待つ形をとった。
 自民党基本政策小委員会(松岡利勝委員長)も11月25日以降連日、山場における詰めの議論を行った。
 11月29日、これまでの党での議論を取りまとめる形で「新たな米政策改革大綱骨子―農業基本政策小委員長まとめ―」が党の基本方針としてまとめられた。
 その内容は(1)国民的観点にたって新たな米政策の構造改革に向けて、過剰米の抜本解消、自給率向上施策への投資の重点化・集中化、(2)移行期間は5年。3年を経過した時点で条件整備への状況を検証し、可能であればその時点で判断する、(3)国民食糧の確保は国の基本的責務であり、かつ今日までの経過ならびに法的な面から国の関与は必要。今後の方向としては農業団体のより自主的、主体的な取り組み強化を目指しつつ国の関わりの程度については経過を見極めながら判断する、(4)主食である米の安全確認の検査は必ず実施、手法及び技術的な点は充分検討、(5)自給率向上のため重点作物の本作化のためのメリット措置について思い切った重点化集中化、(6)他作業並みの経営所得安定対策の確立、対象、水準は充分検討(7)団体の自主性、主体性を高めるためには、その条件のひとつとして在庫圧力が市場に及ばないよう移行前に備蓄は棚上げ等の措置を取る、などを骨子とするものであった。
 この大綱骨子については、党の基本方針と位置づけ、これに基づいて政府として、できるもの、できないものを含めて整理すること、そしてJAグループと調整し、双方納得と理解が得るようなものにするよう指示がなされた。
 この指示を受けて、特に政府研究会における改革のステップとしての国の関与のあり方についての調整が29日行われた。
 JAグループは水田農業対策本部委員会を開催し、党のとりまとめと指示を受け政府研究会に盛り込む内容として、移行期間や国の関与などについて議論し原案をとりまとめた。
 そしてこの原案をもって政府研究会における改革のステップとするよう食糧庁長官に申し入れた。

◆政府研究会のとりまとめと大綱の決定

 JAグループの原案を受けて食糧庁長官は大島大臣と相談したが、大臣からは移行期限を明らかにすること、党の5年という移行期間を踏まえたものにすることが必要との強い意向が示された。
 これを受けて最終的には「22年度の農業構造の展望と米づくりの本来あるべき姿の実現を目指しながら、20年度に農業者・農業者団体が主役となるシステムを国と連携して構築する。この間、農業者・農業者団体の自主的・主体的な取り組み強化を目指すものとし、18年度に移行への条件整備等の状況を検証し、可能であればその時点で判断する。農業者・農業者団体が主役となるシステムにおける国の役割を食糧法上明確に位置づける」となった。
 そして研究会のとりまとめにあたって、座長より今後、国の役割を食糧法上明確に位置づけるうえでの具体的内容の検討について農業団体と連携した協議を行うよう食糧庁へ指示がなされた。
 JAグループは12月2日緊急の中央会会長・全国機関会長会議を開催し、こうした取り組み経過を報告し、了承を得るとともに、大島大臣及び自民党農林幹部への申し入れを決定した。申し入れは(1)国が策定する基本計画にもとづき、国・県・市町村・団体が一体となって円滑な推進に取り組むことができるよう措置すること(2)構造改革を実現するための政策の現状について十分な検証を行い、徹底した対策を講ずること(3)16年度予算は現場の理解と納得が得られるよう画期的なものにすること(4)移行前に適正備蓄水準である100万トン程度に政府米在庫を棚上げ等により縮減すること、などを内容とするもので2日の午後ただちに大島大臣に申し入れるとともに自民党農林幹部へ提言した。
 12月3日、自民党基本政策小委員会が開催され、「国及び地方公共団体の役割を食糧法上明確に位置づける」と修正され、豊作による過剰米対策や、集落営農も含む担い手への経営安定対策も盛り込んだ政府・与党一体となった米政策改革大綱が決定した。

2 現段階における要求の実現内容

 平成16年度から20年度までの移行期間における米政策のシステムとして、我々JAグループが具体策で要求していたものの相当部分が骨格として盛り込むことができた。
 具体的な要件や基準、単価や財源などは来年8月末の16年度の政府予算概算要求までに決定することになっており、これからが勝負となるが、(1)認定農業者制度を見直しさせ、個人、法人以外の集落営農を「集落型経営体」として担い手として認めさせることができた(2)そして要件等の課題を残してはいるが、生産調整メリット対策として、2階建ての経営所得安定対策を構築することを実現した(3)水田における麦・大豆・飼料作物等への助成は地域の実態に応じて地域ごとにメニューを選択し単価を自主的に決められる仕組みとしての産地づくり交付金の仕組みを構築できた(4)大きな課題であった豊作分の過剰米処理に伴う経費負担の公平性ある仕組みについても、拠出金負担をすべての生産調整メリット対策とリンクさせることと、豊作分を主食用と区分することもメリット対策とリンクさせる仕組みの大枠を確保することができた(5)生産調整を実施しないで需要先と結びついた米生産を行う者を積極的に位置づける「安定契約生産者」については撤回に近い形で見直しでき、強制感のある地区達成要件を廃止し、生産調整実施者集団による面的・団地的な水田農業確立への取り組みの形を認知させることができた。
 そして、最大の争点となった国による生産調整の配分廃止問題は、米政策の改革や水田農業の構造改革は、自らの課題でもある中で、農業者・農業者団体が主役となる新たなシステムの構築については、国と連携して作り上げることを盛り込み、18年度に移行にかかわる条件整備の状況を検証すること、米の需給調整における国及び地方公共団体の役割を食糧法上明確に位置づけることとし、その具体的検討は今後の食糧庁との協議とすることなど、これからの取り組みの足がかりをつけることができたと考えられる。

3 今後の取り組み課題とスケジュール

 (1)米政策改革大綱の決定を受け、12月20日に水田農業対策本部委員会を開催し、「JAグループ自らの今後の取り組み方針」をとりまとめることにしている。水田農業の構造改革では、集落・地区等を単位に水田営農実践組合(生産調整実施者集団)を設置し、参加者の合意のもと集落営農も含む新たな担い手を地区で明確化する。そして担い手に対する農地の利用集積をすすめ、地域の農地を面的に計画的かつ有効利用する取り組みを推進して行くことが大きな柱となる。
 そして麦・大豆の本作化、地域戦略作物の位置づけなど水田を利用した特色ある地域農業を展開する。特に飼料生産の抜本的推進、コントラクター、受託組織などによる自給飼料の安定生産・利用の取り組みが必要となる。
 各JA単位で取り組み方針や目標を決議し、実施者集団作りや、JA出資法人の取り組み、集落営農の組織化や経営一本化の指導、農地保有合理化事業や作業受委託の斡旋など利用調整の推進、経済事業の大口利用対策、信用事業面での担い手支援など、様々な手だてを具体化し、着実に取り組んで行かなければならない。
 (2)20年度以降の新たなシステムについても、食糧庁とのワーキングチームを立ち上げ、具体的な内容を詰め、そのうえで、国及び地方公共団体の役割を食糧法、政省令、関係通達、事業要綱などに位置づけて行く検討作業を12月から始め、来年1月末から2月上旬にかけて、まとめなければならない。食糧法の改正を次期通常国会に上程するとすれば、3月10日前後が提出期限であり、そうすると与党での法案審査は、2月中下旬となり、原案はそれまでにとりまとめる必要がある。
 (3)過剰米対策における豊作分の区分出荷の具体的手法や、メリット対策とのリンクのさせ方などについても政府研究会での専門委員会で検討することになっており、この点についても年明けから検討作業が始まるものと考えられる。
 (4)生産調整メリット対策や、担い手に対する経営安定対策を柱とした、米政策改革の具体的制度の内容、要件・基準、単価や財源は15年8月末の16年度政府予算の概算要求までに決定することになっており、まさにこうした項目については、JAグループとしても再度具体的内容の検討をすすめ、来年7月には要請内容を決定し、強力な運動を展開することになる。
 米政策改革対策は引きつづき来年の8月まで、大綱をふまえた具体的内容・水準の検討と運動展開が必要となっている。


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