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解説記事

自ら行動を起さなければ何も変らない
県内SSの黒字化めざして結成された
「岩手県JA-SSチェーン」

 厳しい環境下にあるSS業界では、セルフ化の動きが加速化するなど生き残りをかけた激しい競争が展開されている。JAグループも収支改善運動など、JA―SSの生き残りをはかるための諸施策を展開している。そうしたなか岩手県では「自分たちで行動を起さなければ何も変らない」とJAの部課長と全農県本部が一体となって、今年4月に県内JA―SSのチェーン化を実現し、チェーンとしてSS経営改善、運営改善から統一的な販促活動まで取り組んでいる。そこで、全国で初めてのこの取組みと油外収益アップを中心に収支改善計画に取組むJAいわて南の一関バイパスSSに取材した。

◆本部、会員一体で黒字化へ
  チェーン結成

 DWSはまず「声かけ」から始まる。一人ひとりが目標意識を持ち、SSに活気が。
DWSはまず「声かけ」から始まる。
一人ひとりが目標意識を持ち、SSに活気が。

 本州の北東部に位置し、東西約122キロ、南北約189キロと南北に長い楕円の形をした岩手県の面積は1万5278平方キロメートルで、北海道よりは小さいが、神奈川・東京・千葉・埼玉の面積を合わせた(1万3554平方キロメートル)よりも広く、日本の面積の4%を占めている。
 岩手県には現在、19のJAがあり、その内18JAで石油事業が展開され131の固定式JA―SSが運営されているが、小規模SS(30kl/月未満SSが30%強)が多い、赤字SSが多い(12年度52%、13年度40%)などの課題がある。しかし、いま、この岩手県内JA―SSが活気に満ち、元気になっている。それは、14年4月1日にスタートした「岩手県JA―SSチェーン」(チェーン)によるところが大きいという。
 チェーンは経営責任を負わないボランタリーだが、岩手県JA―SSグループの「組織力強化と組合員の利便施設としての機能を高めるとともに、会員SSの経営基盤の強化をはかる」ために、
1、相互給油を基軸として、会員相互の連携意識を高め、協同活動を強化する(協同活動の強化)
2、DWS(ドライブウェーサービス)の統一により、組合員(利用者)は県内JA―SSにおいて同一のサービスを享受できるようにする(DWSの統一)
3、会員JAとチェーン本部の間で機能の分化と専門化をはかり、JAとJA全農いわての業務運営の一体化をすすめ、会員SSの運営効率化をはかる(機能分化と運営の一体化)
4、SV(スーパーバイザー)の養成や経営指導体制の確立などチェーン本部の機能強化により、会員SS経営の健全化をはかる(会員SS経営の健全化)
ことを目的として結成された(規約より)。
 つまり「県内JA―SSの黒字化をめざして」(伊藤憲彦本部委員長・JAいわて花巻自動車燃料課長)、会員SSの経営改善・運営改善・職員の教育研修、SSの整備・新設、統一的販促活動などを本部と会員SSが一体となって進めていこうということだ。

◆本部委員はJAの部課長が中心

 チェーン化の検討は12年6月から始まるが、実現までの約2年間にわたって設立の準備がされてきた。この間、奈良ジェイエーサービスや鹿児島経済連への視察研修。重点JA部課長・SS所長会議や購買対策委員会での検討を経て、13年2月、岩手県SS連絡協議会で「チェーン化検討委員会」が設置される。検討委員会(JA代表8名)は、チェーン化の目的、SS運営手法・統一サービス、規約、専門部会の設置などを検討し、同年11月の連絡協議会に提案。翌12月から14年1月にかけて全JA役員への巡回説明会を実施し了解を求め、14年2月のJA全農岩手県本部理事会で了承後、2月19日に設立総会(連絡協議会解散総会)を開催した。
 チェーンの組織は、図1のように、本部委員会の下に経営改善部会・企画推進部会・教育指導部会の3つの専門部会が設置されている。
 本部委員会は、図2のように、伊藤憲彦委員長をはじめ、JAの石油事業を実際に担っている人たちが中心になっている。各専門部会の部会長・副部会長は上記本部委員だが、メンバーは、SSの所長や職員で構成され、各部会に1〜3名の女性が参加していることが注目される。

◆JAへの改善提案もチェーン本部委員が

 経営改善部会は、SS経営分析、SS経営改善提案、SS運営形態の見直し、業態化研究を行うが、14年度の主な内容としては、13年度SS経営分析の集計と運営形態別分類、そして収支改善計画(全農東京支所ではオセロ計画)による基幹SSの経営改善がある。
 チェーン会員資格(月30kl以上)を満たさないSSの経営改善計画書は、当該JAと事前協議しながら策定してJAに提案。改善実施期間までに計画通りに実行していない場合には、本部委員会による資格審査で、チェーン会員資格を失うことになる。チェーン会員資格を喪失しても、JAが必要と認めればSSとしては存続するが、チェーンとしての活動や恩恵を受けることはできない。
 オセロ計画(収支改善計画)は、現在、15SSで実施されているが、この提案の説明会も、及川隆義チェーン本部事務局長(JA全農いわて)らが同席するが、基本的にはチェーン本部が行うことになっている。JAの部課長が、他JAの役員に経営改善の提案を行うわけで、それだけチェーン本部の責任が重いと同時に、信頼が厚いといえる。

◆一体感、生まれSSにも活気が

 企画推進部会は、統一キャンペーン企画、イベント企画、実績進行管理、PR活動を受け持つ。14年度12月までのキャンペーンは図3の上段の通りだ。先着1万名に花をプレゼントするJAらしさキャンペーンは、女性客を中心に好評だったが、冬場は県内で調達ができないため継続できず「残念だ」と及川事務局長。
 また、車内清掃用タオルの提供は、来店客とのコミュニケーションをはかり、油外へつなげる意味からも継続実施されている。
 教育指導部会は、図3下段にみるように、DWSやSS美化などの水準向上をはかり、県内のどのJA―SSでも、同じサービスが提供できるようにすることで、チェーンSSへの信頼度を高めることが、一番の仕事だといえる。
 こうした各種の企画は、各部会で提案され「もんでみんなで決め、一緒になって実施」していく。従来のトップダウン方式ではなく、自分たちで決めたものだから、それだけその実施にも熱がこもることになる。及川事務局長は、チェーン化も「県主導ではなく、JAの部課長さんたちが一つになって、悩んでつくりあげてきた」という。
 いま、116のJA―SSがチェーンに参加しているが、それぞれのSSで蓄積されてきた経験やノウハウが、チェーン全体の財産となり、さまざまな企画のなかで活かされれば、大きな力となることは間違いない。
 チェーン化して何が一番よかったのか。「隣のJAが見えるようになった」ことだという答えが返ってきた。そして「DWSが統一されてきている」とも。チェーン化で、他SSとの交流が盛んになり、一体感が生まれ、スタッフの意識が変わり「元気で、活気がでてきた」と、JAいわて南の佐藤廣行一関バイパスSS所長。JAいわて花巻では、SSの女性職員による勉強会も自主的にできた。

◆品目別担当制でスタッフの意識が変った
  JAいわて南・一関バイパスSS

油外収益アップ中心に収益改善に取り組むJAいわて南・一関バイパスSS
油外収益アップ中心に収益改善に取り組む
JAいわて南・一関バイパスSS

 JAいわて南・一関バイパスSS(佐藤所長)の13年度月平均実績は、揮発油が80kl、軽油45kl、灯油157klと、灯油のウェイトが高く、収支は黒字だが、「さらにこれを拡大したい」と14年度の収支改善計画(オセロ計画)に取り組んでいる。
 同SS周辺には競合店が多いこと、隣接する宮城県北地域の価格が安くそちらへ客が流れていることなどから、揮発油のボリュームアップは厳しいと同JAの千葉博燃料課長はみている。さらに、灯油については、冬場の最盛期には配送に人をとられ、DWSが十分にできなくなるので、SSから切離すことを検討している。ボリュームが現状維持で灯油が切り離された後、収支を確保するためには油外収益アップが至上命題だ。
 そのため、オイルやバッテリーなど品目ごとに担当責任者を決め、事前準備のミーティングをしっかり行い、目標設定をして取り組んでいる。オイルの責任者であっても、バッテリーやその他の油外商品を販売するわけで、自分の責任品目の目標を達成するために、商品知識の吸収やお客へのアプローチの仕方などを考えなければならないので、一人ひとりが目標意識をもち、県内の優良SSへ見に行きたいと、自ら申し出てくるなど、意識が変り積極的になったという。

◆DWSの充実で油外実績が大幅アップ

 DWSが良く、お客の信頼がなければ油外商品は売れない。DWSはまず「声かけ」から始まるが、記者が2年ほど前に他の取材でたまたま同SSを訪れた当時に比べて、格段に活気にあふれていた。それは、「スタッフが一丸となってドライブウェイで声を出している」(佐藤所長)からだ。そして必ず車内清掃用タオルを渡し、その時に前回オイル交換時に貼ったシールをチェックし、交換時期ならばその旨をお客に伝えることにしている。
 こうした努力によって、5月の全国マッチレースでは、オイルFO比で優良賞(1737l)、10月の県内マッチレースでは、オイルを1847l販売し76SS中第1位となった。また、8月の東北6県マッチレースではバッテリーを32個/月販売し第1位に、さらに今まではできなかった水抜500本も6月に達成するなど、着実に油外での実績を伸ばしてきている。
 佐藤所長は「初心に返り、お客の立場にたって」いくことが大事だ。だから「油外はもちろんだが、これからは美化にもっと力をいれていきたい」と今後の抱負を語った。

◆これからの課題
  本格的な増客増販活動

 一関バイパスSSが活気に満ち、元気になった背景には、チェーン本部のSV(スーパーバイザー、3人が地域別に担当)の臨店指導やチェーン化によって他JA―SSとの情報交換など交流が盛んになったことなどがあげられる。
 この間を振りかえり、伊藤チェーン本部委員長は、今年は本部と専門部会の体制を確立し、チェーンのイメージアップをはかるために集客へのPR、DWSなど店頭受入体制に力を入れ、従来のキャンペーンを基準に内容を充実させて活動してきた。その結果、SSスタッフの意識は少しづつ変ってきており、油外収益も伸びてきている。しかし、まだ新規顧客の獲得までにはいたっていないのではないかと思う。15年度は、従来の「ものくれ」キャンペーンではなく、本格的な増客増販活動をどう展開するかが課題だと考えている。
 そして取巻く環境が厳しくなるなかで、「手を拱いていては何も変らない。自分たちで行動を起さねば」というのがチェーン化の原点だから「ボランタリーチェーンだけれども、116SSの社長になったつもりで」先頭にたって運営し、黒字化を実現したいと、決意を語ってくれた。
 JA―SSのチェーン化の試みは、岩手県が初めてだ。まだ、スタートして1年にも満たないが、県内どこに行ってもやや大きめの同じ名札をつけたスタッフが、どこでも同じサービスを提供しようと頑張っている。そのことで、わずかづつではあるかもしれないが、確実にJA―SSの姿が変ってきているのは事実だ。全国どこでもということにはならないかもしれないが、これからのJAグループ石油事業を考えるときに、一つの方向性を示しているのではないだろうか。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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