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解説記事

特別寄稿
21世紀初頭のJA・協同組合のあり方を考える−2
総合規制改革会議の答申などと農業・
JAの見直し・解体の動きと問題点

桜井 勇 (社)地域社会計画センター 常務理事


(1)総合規制改革会議の答申の内容

 総合規制改革会議は、規制改革をつうじた民業拡大をはかるとして、各種の規制緩和を進めてきている。昨年、12月12日の第2次答申では、特に官製市場として、1)医療、2)福祉、3)教育、4)農業などを上げ、株式会社への全面開放を掲げ、平成15年度末までに実現をはかるとしている。さらに第2次答申では、大半の兼業農家や土地持ち非農家などの農地を大規模農家や農業生産法人などに集約し、農産物の生産コストを引き下げ、国際競争力の向上は十分に可能としている。このため、転用規制を含む農地利用規制を行うほか、株式会社による農業参入をいっそう推進するとしている。また、JAに対しては、JAの運営が多数の零細農家の利益が重視される傾向があり、それが大規模農家のJA離れの原因にあるとしている。また、12年度の農協の正組合員戸数が農業センサスの農家戸数を145万戸も上回っており、真に組合員資格を有する者のみが組合員になっているかどうか、疑問とし、実態調査を行うよう、要求している。 さらにJAグループが肥大化する一方、農業の零細な生産構造から脱却できない深刻な状況があるとして、JAの事業運営やJAに対する行政関与などの抜本的な見直しが必要としている。具体的には、1)JAの収益構造に関して信用・共済事業の依存体質を変える必要があること、2)JAを事業主体とした補助金のあり方や農家個人への補助金の窓口とするなど、の農政の運営でのJA依存の見直し、3)JA間競争の促進、4)独禁法の適用除外の見直し、5)生活関連事業や信用・共済事業の員外利用の実態把握などが必要としている。具体的な施策として、ア.JAが真に担い手たる農業者の利益を目指し、事業運営・経営の健全性の確保など抜本的な見直しを行うこと。また、組合員制度の実態、員外利用率の調査を行い、違反のある場合に是正指導を行うこと。イ.農協系統事業の区分経理の配分基準の策定と15年度以降区分経理の徹底。ウ.JAに対する行政関与として補助事業の実施、各種施策の推進等、JAを通じた行政運営を網羅的に検証し、適正化を図るべきとしている。エ.公正な競争条件の確保として協同組織に対する独禁法適用除外に関する制度の検証を行い、違反の取締りの強化をはかるとしている。特にJAの正組合員資格や員外利用の現状については、14年度中に調査を行うこととしており、全JAを対象とした調査が予定されている。

(2)答申の問題点

 総合規制改革会議の問題点は、民間の自主的な協同組織であるJAを官製市場にあるものとして、組織としての自主性とJAの歴史的な取り組みの経緯を無視して、JAの存立目的を担い手農業者のみとしていることである。歴史的には、戦前の産業組合を含め、地域社会を維持する取り組みをJAは行ってきている。近年では組合員・地域住民の高齢化に対応して、高齢者福祉活動・事業に取り組んでおり、農村地域の高齢化に対して、住民が安心して老後を送ることができる取り組みを進めている。JAの存在は、この点では組合員・地域住民が安心して生活できる地域社会づくりをすすめている現状からみて農業の範囲だけでなく、福祉、教育、まちづくりなど広範なエリアをカバーしている。この点から言えば、総合規制改革会議のように、単純に農業のみの視点でとらえるのでは、組合員や地域のニーズにも合わない。さらに、財政危機のもとで各種公共サービスが減少するなかで、JAをはじめとした協同組合セクターの公助と自助の中間で役割を果たす共助が今後、重要になるなかで、答申はまったくその役割を理解していないものである。 市場経済の弊害を防止し、是正する役割が協同組合の本来の使命であり、この点を答申は無視している。この点について言えば、総合規制改革の答申は、JAのみならず、生協、漁協などを含めた協同組合セクターそのものの存在意義を否定するものである。しかも、農業に即していえば、WTO体制下の農産物・加工品の輸入拡大などで、農産物価格は低下し、認定農業者など担い手の所得減少など経営が悪化している。大規模化をすすめても際限なく輸入が増加するのであれば、対応はきわめて困難といえよう。総合規制改革会議の答申は、地域の実情を無視して、民間企業に市場を開放するものにほかならない。営利のみの一方的な取り組みでは、条件の良い農地だけが利用され、条件の悪い農地は放棄されることになり、地域を守ることはできない。結論的に言えば、総合規制改革会議の答申で信用事業・共済事業などの分離が行われた場合、営農事業(販売・購買)だけでは経営を成立させることは困難であるほか、信用事業を含む総合事業のもつ総合力の発揮ができなくなり、そのことは、組合員にとっても利益にならないといえよう。

(3)問われるJAの協同の内実

 他方、JAとしても地域で協同組合としての性格がどうなっているかが問われている。1戸1組合員あるいはみなし組合員で運営が行われてきていることから、組合員の高齢化のもとで、次世代のJAへの結集などの取り組みが十分に行えていない。また、組合員の子弟が他産業に就業し、農業との関わりがなくなる中で、しかも農村の都市化が進行しているなかで協同の内実が問題である。農業の衰退が続く中で、組合員・地域住民を含めて協同をどのように築いていくかが、真剣に問われている。員外利用制限の問題について言えば、JAが地域に対して組合員とともに、どのような協同を呼びかけ、運動・事業として組み立てて行くかが、問われている。この点では、JA女性組織や高齢者、青年組織の地産地消の取り組み、学童農園、ファーマーズマーケット、地域での助け合い活動などが重要なポイントになるものと言える。こうした点をきちんと位置づけ、さらにある種の閉鎖性を打破して、協同活動を呼びかけ、地域住民も仲間として参加を呼びかけることが求められるといえよう。さらには、地域経済の疲弊が強まっているなかで、商工会をはじめ地域の諸機関とも連携して、地域の自立と活性化への取り組みを行うことが求められる。 (2003.2.20)


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