JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

解説記事

特別寄稿
21世紀初頭のJA・協同組合のあり方を考える−3
「組合員・地域」本位を再確認

― 21世紀のJAの当面課題 ―

桜井 勇(社)地域社会計画センター常務理事



 21世紀の初頭の大きな変化の時代、とくに今後10年をいかに乗り切るかがJAにとって重要な状況にある。

◆組合員の世代交代などへの対応

○次世代対策
 すでにJAグループでは、正組合員の減少も始まっており、組織基盤の弱体化が進行しつつある。それだけに次世代対策が重要である。JAの出資金の年齢別分布をみても、60歳代以上で6割以上となっている事例が多い。中山間地域のJAでは、組合員が高齢化して、農業もやめていることから、組合員を脱退し、出資金の返還を求められる事例も出ている。

○1戸複数組合員制度の徹底
 組合員家庭のなかでも財布は各個人に分かれており、女性が共済などでは実質的に加入するかどうかを決めている。それだけに、女性や子弟の組合員加入をすすめることが必要である。

○准組合員化などの対策
 総合規制改革会議では、員外利用制限について、上限2割が守られているかどうか、法令が遵守されているかどうか、調査をするとしている。員外利用組合員については、地域での協同(例えば、安心して老後を送れる地域社会づくりや地域の環境・景観保全、子どもたちの健全な育成など)を呼びかけながら、准組合員化をはかることが必要である。

○非農家の正組合員化の可能性検討
 鹿児島県JA南さつまでは、一昨年12月からJAが開設した直売所に農家だけでなく、非農家の公務員や会社員、団体職員の定年退職者などでオーナー制度などで栽培技術のある方を対象に出荷できるようにし、出荷して1カ月後に組合員になってもらう仕組みをつくっている。
 取り組みの仕方によるが、正組合員を増やすことも可能といえよう。逆説的に言えば、高齢化がすすむなかで耕作放棄地が増え、担い手がいない状況のもとで厚生年金以上の年金額を受給している年金受給者であれば、生きがいや仲間づくりの一環で取り組むことが可能であり、国際競争力のある農業になる可能性があるとも言えよう。
 また、定年帰農など、地域の消費者の農業への関心が高まっており、農業への参加を呼びかけることも十分に可能であろう。

◆女性組織や高齢者組織など、組合員組織の活性化対策

 女性組織や高齢者組織など、組合員組織について、自主性や一人一人の主体的なやる気の出る取り組みをすすめることが必要である。直売所や助け合い組織などでも女性部員を含めて自主的に取り組むことの方がやりがいがある。実利・実益のある取り組みをすれば、女性や高齢者も元気になることがファーマーズマーケット(以下、FMと略称)に出荷している人が元気であることで証明されている。また、女性組織などの目的別活動が、加工事業(惣菜を含む)、農家レストランなど新たな事業に発展している場合も多く見られるが、地域経済の発展の観点からJAとして融資や経営指導を行い、起業支援し、そのことを通じて、JAの融資などにつながるといった考え方をとることが必要である。

◆本格的なJAによる農業生産などへの関与

 農業生産法人の支援を含め、JA出資法人による農業生産や、認定農業者などの抱えている課題やJAに対するニーズをきめ細かく把握して対応することが求められる。山形県JAおきたまでは、認定農業者などを応援する支援対策室を設置して要望を把握し、具体化の取り組みを進めている。また、JA出資の農業生産法人においても各種の支援を行い、着実に成果をあげており、こうした各地のJAの取り組みを参考にして取り組むことが求められている。

◆集落などを基礎とした組合員・地域住民のニーズへの積極的な対応

 JAの存在は本来は、集落機能の上に各種の情報連絡、集落座談会などを通じて行われていた。しかし、近年では集落機能が低下するとともに、JAの合併と支所の統廃合でJAとしても対応ができない状況になっている。
 しかし、高齢化のもとで、農地の保全管理ができないとか、認定農業者への農地の集積などをどうするか、集落の生活環境の保全、一人暮しの高齢者や要支援高齢者などへの取り組みなど、農業と生活・助け合いなどの問題が一体化して現れる状況になっている。こうした状況にあるだけに従来の集落をやや広域にした、小学校区あるいは中学校区の単位でどのようにするかを検討することが必要になっている。
 JA役職員(住民として)が組合員(高齢組合員だけでなく、次代の組合員、女性など)とともに、話し合いを行い、農地の保全管理や耕作放棄地の管理、誰が農業を行うのか、一人暮らしの高齢者などへの支援など、農業から暮らしにかかる課題について地域で協同の輪を広げることが必要である。

◆求められるJAとしての地域政策の確立・実践

○市町村・商工会など地域の関係諸機関への住民の立場からの
  政策提案能力・協同の取り組みを

 地方分権のもとで、財政面での地方自治は国や都道府県の反対もあって徹底されていないが、各種の施策については、市町村長の意欲で行える部分が広がっている。同時に町村、特に中山間地域においては、従来のような手厚い地方交付税措置はなくなること、さらに平成17年3月末の市町村合併の特例があるものの、合併しない人口1万人以下の町村は行政の権限自体も縮小し、県や他の市に委託させられるなど、地方の切捨てが起きる状況にある。それだけに市町村長にとっても人口減少のもとで、地域の生き残りをどうするかが、大きな課題となっている。
 こうした中で、JAは高齢者福祉活動や事業を通じて農業以外の分野で地域で重要な役割を果たしつつある。今後、行政としても積極的な健康づくりなどで、国民健康保険税の引き下げや元気な高齢者対策などで要介護の高齢者を減らす取り組みを行うことがきわめて重要になっている。農業面でも地域の農地の管理保全、耕作放棄地の解消、FMの取り組みや地産地消など、広範なテーマで、組合員・住民の立場で政策提案することが求められている。広域合併JAにおいては、役員などの市町村担当制や支所長(支所運営委員会メンバーを含む)への権限委譲などにより対応することが求められる。

◆部門収支への対応と信用・共済事業

 地域経済がきびしくなる中で、JAの部門別収支のあり方が問われている。1つは、JAバンクの発足に伴い、経営健全化の観点から2年続けての赤字部門については事業の撤退を含めて、経営改善が義務づけられている。販売事業や生産資材の購買事業でも収支の改善が求められている。従来のように、信用事業や共済事業の収益から補填するということは出来ない状況にある。販売事業については市場への出荷手数料だけでは、赤字にならざるを得ない状況にある。それだけに直販、FM(一般的には手数料は15%)など、多様な販売方法の確立により収支の均衡をはかることが必要である。 
 他方、組合員組織に関わる業務については、管理部門の共通経費でみることになろう。ただし、ここでも組合員の主体的な取り組みによりJA職員の関与を減らすことが考えられよう。生活事業についても生産資材の購買事業と同様に、収支の徹底をはかることが求められる。
 信用事業について言えば、他の金融機関との決定的な違いは、貯貸率がきわめて低いことである。JAの信用事業においても他の金融機関と同様に個人や地域への融資を出来る審査体制の整備が不可欠であろう。同時に、高金利の消費者ローンで、組合員や家族が大きな負担を強いられている状況があるだけにJAの低金利での取り組みなどが課題と言えよう。いずれにしても、商品開発を含めてJAの体制の整備が必要である。共済事業もJAの収支面でその貢献度はきわめて高いが、事業環境が他の生損保と同様に困難になる可能性があるだけに、各部門の収支改善が必要である。

◆JA役職員の課題

 ある意味で当然であるが、JA役職員は、組合員・地域本位の取り組みが基本であることを再確認することが求められる。ちょうど地方公務員が住民に対する奉仕者としての役割と自覚が求められているのと同様に、JAの役職員についても組合員および地域社会への奉仕者としての姿勢が求められよう。特に地域が大きく変貌するなかで、JA役職員が集落に入り、そこで住民の一員としてもどのような地域をつくるか、農地をいかに守るかという点から取り組みをすすめることが求められる。JAえちご上越では、役職員によるボランティア活動などの取り組みを行い、意識改革を働きかけており、こうした取り組みが今後、いっそう重要になるとみられる。

― おわりに ―
 総合規制改革会議の答申は、JAの基本に関わるものであり、JA役職員が緊張感をもって、組合員・地域本位を基本に自らの職場を守るための取り組みをすすめることが求められる。(2003.3.11)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp