16年産米の生産目標数量の都道府県別配分が11月末に決まった。配分には、今年の作柄も反映されたが、売れる米づくりに向けて需要動向をふまえたものとなった。配分決定の経過と今後のJAグループの水田農業の取り組み課題について、JA全中・食料農業対策部水田農業対策課・馬場利彦課長に解説してもらった。 |
◆16年産生産目標数量の決定の経過と今後の取り組み課題
―現行の生産調整面積と同じ規模―
15年産米においては、北海道・青森・岩手・宮城が作況80を下回る大凶作となるなど、全国での作況は90の大不作となった。このため自主流通米の13・14年産在庫は完売となり、政府備蓄の古米も大きく販売がすすんだ。
このことにより、8月に政府が公表した「米の需給と価格の安定に関する基本指針」の16年産以降の需給見通しについては見直さざるを得なくなった。8月時点の基本指針では、15年産米の作柄を平年作として前提をおいたうえで、自主米在庫の削減を2年かけて行うため、16・17年の生産調整目標を110万ha、18年には112万haとする一方で、政府が8・9年産米の販売凍結で3年後には適正在庫100万トン水準にしようというものであった。15年産の不作を受けてその前提が崩れたからである。
しかし、在庫が激減し、価格が上昇したからといって、消費者の需要量が増大したということではなく、逆に消費減退が心配されるところである。また政府備蓄が10月末で131万トンあり、来年10月にも85万トンの備蓄が見通せるなかでは、平成5年の大凶作の際の需給逼迫という状況までには至ってはいない。
となれば、平成5年の後の6年のように一気に生産調整の緩和・復田が可能かといえば、そうした状況にはないし、かといって当初予定の4万ha強化ということにはならないと判断された。
とりわけ、5年から6年産への復田の教訓から、営農の安定という面も考慮することが求められた。とくに16年産は米政策改革初年度である。大きな変動はさけつつ、地域水田農業ビジョンの着実な実践こそ念頭におく必要があった。
こうした議論が全中・水田農業対策本部委員会で行われ、この考え方を政府、さらには自民党基本政策小委員会(松岡利勝委員長)に表明した。党でも、また政府の食糧部会での検討を経て、16年産は現行水準の生産目標857万トン(生産調整106万ha)と決定された。
◆需要見込みも要素に都道府県別に配分
初年度は現行実績や転作率是正に配慮
全国の生産目標数量より、都道府県別の目標設定をどうするのかが大きな議論となった。全体目標数量を変更しないなかにあって、営農の安定という観点からも、県別目標は15年産目標と同じとすべきという意見が太宗であったのも事実である。
しかし、米政策改革大綱の考え方である「需要に即した米生産」をすすめていくうえでは、8月以降食糧部会や各県ヒアリングで検討されてきた客観的な需要動向にもとづき設定すべきだとする意見が、主産県を中心に組織の中から出てきた。また一方で、過去30年の経過の中で形成されてきた転作率の格差について、この改革にあたって是正が必要という要望もあった。
こうしたなかで、JAグループとしては、「米政策改革の移行初年度である16年産の県別生産目標数量の配分については、需要動向を反映する仕組みを基本に、営農の安定、公平性の確保を踏まえ、15年産の生産目標数量ならびに転作率の県間格差の是正を考慮したものとする必要がある」「なお、需要動向を反映した仕組みにおいては、これまでの豊凶や計画生産の達成・未達成を反映したものとする必要がある」「また、15年産が著しい不作となった地域に対しては、災害であることをふまえ、特例的な配慮を行う必要がある」と整理し、党へその考え方を表明した。
党でも、米政策改革大綱の考え方を基本にしつつ、需要動向の反映が基本、現行実績を考慮すべき、転作率格差の是正が必要、というそれぞれの意見が出されたが、11月27日、JAグループの考え方にほぼ沿った形で整理された「平成16年産米の需給安定に向けた取り組みについて」が、党として確認された。
なお、各県への目標数量の算定は、需要実績に基づく需要見込みを5割(過去の豊凶や生産調整の達成・未達成を補正)、移行に際して考慮された要素として、15年の配分実績を4割、転作率の平準化要素を1割として算出され、さらに15年産の著しい不作道県には減収分の一定数量を補正する等の調整を行ったものである。こうした算定について、28日の食糧部会で協議・了承され、同日に農水大臣から各県知事へ、全中から県中央会へそれぞれ通知された。また、これとあわせて各県へ産地づくり交付金の交付額が通知された。
平成16年産米の都道府県別の生産目標数量 (単位:トン) |
都道府県 |
生産目標数量 |
都道府県 |
生産目標数量 |
北 海 道 |
622,320 |
滋 賀 |
181,020 |
青 森 |
297,000 |
京 都 |
84,470 |
岩 手 |
308,420 |
大 阪 |
29,540 |
宮 城 |
407,700 |
兵 庫 |
199,590 |
秋 田 |
500,270 |
奈 良 |
46,500 |
山 形 |
398,040 |
和歌山 |
38,800 |
福 島 |
398,330 |
鳥 取 |
76,130 |
茨 城 |
375,660 |
島 根 |
103,760 |
栃 木 |
342,100 |
岡 山 |
177,220 |
群 馬 |
86,530 |
広 島 |
142,600 |
埼 玉 |
171,110 |
山 口 |
125,660 |
千 葉 |
283,040 |
徳 島 |
65,390 |
東 京 |
1,030 |
香 川 |
78,570 |
神奈川 |
15,730 |
愛 媛 |
84,030 |
新 潟 |
587,320 |
高 知 |
56,550 |
富 山 |
208,050 |
福 岡 |
204,410 |
石 川 |
137,160 |
佐 賀 |
152,530 |
福 井 |
143,730 |
長 崎 |
69,760 |
山 梨 |
30,600 |
熊 本 |
212,010 |
長 野 |
219,570 |
大 分 |
133,010 |
岐 阜 |
131,250 |
宮 崎 |
108,990 |
静 岡 |
92,420 |
鹿児島 |
128,390 |
愛 知 |
155,370 |
沖 縄 |
3,500 |
三 重 |
158,770 |
全 国 |
857万トン |
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◆JAグループ米改革戦略の実践 中央会・全国機関会長会議で決議
全中では12月2日、都道府県中央会・全国機関会長会議を開催し、「JAグループ米改革戦略の実践に向けた取り組み方針」の決定と、「16年産の計画生産の確実な実施とJAグループ米改革戦略の実践に向けた決議」を行った。
取り組み方針のなかでは、地域水田農業ビジョンの策定に向けた取り組みを早急にすすめることとし、行政との役割分担の下に協議会での立ち上げとビジョンの柱である産地づくり交付金の活用方法や担い手リストの策定をすすめるとしている。
とりわけJAグループとしては、面的なまとまりの下に担い手作りと計画生産を実践する「水田営農実践組合」づくりを推進することとしており、この実践方策を含めてビジョンや生産調整方針について総会・総代会決議をすることとしている。
また、16年産は改革初年度であり、今回決定された生産目標857万トン(生産調整106万ha)の確実な達成に取り組むとともに、全JAでの生産調整方針の策定や、「集荷円滑化対策」を活用した豊作分の過剰米の区分出荷の取り組みを推進するとした。
この取り組みのため、生産調整のメリット交付要件である水稲10aあたり1500円拠出をすすめる一方で、JAグループ独自に10a当りで500円の基金により、豊作以外の在庫対策などの需給安定と需要拡大への取り組みをすすめることもあわせて決定した。
水田農業の構造改革とならんで、米改革戦略のいま1つの柱であるJAグループ米事業の改革については、需要に応じた計画生産、「JA米」の確立など安全・安心への取り組み、共同計算の標準化・細分化、機能分担の再構築による販売力強化など、JAのシェア拡大に向けたこうした取り組みを徹底するとした。とりわけ、安全・安心なトレーサビリティシステムと検査・認証体制の構築と段階的拡大をはかることとした。
また、改革実践に向け、各段階での推進体制を確立することとし、全国段階では水田農業対策本部委員会を「米改革戦略実践推進本部」として、今後の推進にあたることとなった。なお、「決議」においては、これら重要な実践項目とあわせ、15年産米の価格高騰と集荷の低下を背景に、「15年産米の消費者への安定供給に組織の全力をあげて取り組むとともに、政府備蓄の適切な運営など必要な対策を確立する」とした。 (2003.12.16)
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