農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

小売にもウィングを伸ばし競争力を強化
新たな展望を拓くJA全農自動車燃料事業


 JA経済事業の改革、とりわけ生活関連事業のあり方についてさまざまな論議がされているが、約30万キロリットルの貯蔵能力をもつ9つの沿岸基地網をベースに自主配送体制を確立し、国内最大の独自流通チャネルを確立している石油事業。坂出輸入基地、福岡沿岸基地をもち、県域における充填所網を確立して320万戸以上に供給し、業界No.1の双方向通信システムによる安全監視を誇るLPガス事業は、農家・組合員の営農・生活にとって不可欠な事業だといえる。しかし、両事業とも規制緩和・自由化の進展によって厳しい競争にさらされている。そこで、山田宣夫JA全農自動車燃料部長に新「3か年計画」におけるポイントを聞くとともに、石油事業、LPガス事業の今後の事業展開について取材した。

山田 宣夫
山田 宣夫氏
「3か年計画」のポイント
JAと一体となり「もっと近くに。」を実践
山田 宣夫 JA全農自動車燃料部長


 「中期事業構想」の基本事項である「5大改革」の断行と「もっと近くに。」の基本理念の実現をめざし、自動車燃料事業の将来展望を切り拓くべく策定した新「3か年計画」においては以下のような重点実施策を着実に実践していく考えです。

 【石油事業】 
半数近くのSSの収支が赤字になっており、これの解決が最大の課題です。そのために、JAエリア戦略を見直して基幹SSとそれ以外のSSに明確に区分し、基幹SSを中心に新たなJA―SSネットワークを構築します。その場合、現行のフルサービス型SSに加えて、今後はセルフ型が中心となっていくのではないかと考えています。
 新たなネットワークでは、統一した運営システムによって、統一したサービスの実施や収支改善による経営の安定化をはかれるような措置を講じていきます。そのために、連合会のスーパーバイザーの育成と計画的な配置によって、運営指導を強化していきます。
 また、ネットワーク構築の一環として、運営・立地診断、経営分析などを行い、受託条件などを明確にしたうえで、連合会によるJA―SSの運営受託を行うことも考えています。
 なぜ、運営受託をするかといえば、最近は元売においても直営店を中心にした運営を展開しています。そういう意味では、連合会は大卸という従来の位置づけでは競争力を保つことは難しくなっていますので、連合会も小売分野にウィングを伸ばしていく必要があるからです。

 【LPガス事業】
 推進力が商系に比べて落ちているために、取扱数量が伸び悩んでいます。それを克服するために、顧客接近型販売事業の展開を行います。そのために、JAにおける専任部署の設置、専任担当者の配置、LPガス販売所の集約など、JAが消費者への有効な営業推進活動ができる体制を整備するための運営指導に計画的に取り組んでいきたいと考えています。
 JAでそうした体制が整備できなければ、石油事業と同様に、連合会が補完機能として小売業務の受託を行うなど、JAと一緒に推進していく仕組みを検討していく必要があると考えています。その具体策については現在検討しているところです。
 二つ目は、コストが電力など競合エネルギーと比べて割高という問題があります。これに対抗するためには、物流を含めてコストを見直していく必要があります。県域の充填所の統廃合や共同利用化、あるいは商系を含めた業務提携など、タブーをもうけずコストダウンをはかっていきます。
 システム面では、現在、県単位で実施している供給センターシステム(LTOS)の運用を、全国統一で運用できる新しいシステムを16年度導入をめざして開発を進めています。
 LPガス事業の付加価値を高めることと、高齢化社会に対応した「あんしんコールサービス」の普及推進にも引き続き積極的に取り組みます。

 【次世代エネルギー】 
石油にもLPガスにも共通問題として、燃料電池など次世代エネルギーがあります。こうした新しいエネルギーを農家・組合員のために、どのように供給していくかについても、4月から新しい部署を設置し、情報を収集しながら研究しています。
 【自動車事業】 総合事業を行っているJAでこそ機能発揮できるということで、15年度末で全国本部は事業を終えます。それに向けたJA体制整備のためのコンサルの実施や全国本部で行っていた購買の成果をJAへスムースに移行できるような対策を講じているところです。 (談)

SS淘汰の時代を勝ち抜く新たな
JA―SSネットワークを構築

石油事業

◆圧縮される小売マージン

 石油元売各社は規制緩和を契機に業界横並び体質から競争体質へ変貌し、物流・販売・管理コストの削減を進めるとともに、業務提携や経営統合によって、新日本石油・コスモ石油、エクソンモービル、昭和シェル・JOMO、出光の4グループに再編され、寡占化が進んだ。その一方で、元売の販売戦略に与さない商社系販売会社や大手特約店などの独自の販売勢力が台頭し、新たな販売ネットワークが形成されつつある。そうした中、戦略的な展開ができない中小規模販売事業者の淘汰が進むとみられ、SS数は現在の約5万ヶ所から3万ヶ所程度まで減少すると予測されている。
 特石法廃止前(平成7年度以前)には32円/L程度あった原油精製段階から製品小売段階までのマージンは、現在は約21円/Lに低下、今後は14円/L程度にまで圧縮されるといわれている。特に、小売と卸段階を合わせた流通マージンは、地域差はあるが8円/L程度となり、流通業界はこのレベルでのSS運営を余儀なくされると予測される。そのため、元売、商社系販売会社、大手特約店は、自社系列SSのセルフ化や燃料油以外の付加収益の拡大を積極的に展開してきている。
 こうした中、JA―SSの多くは揮発油販売数量、労働生産性、油外収益などで業界平均を下回り、半数程度が赤字経営に陥っている。この赤字解消のために、毎年度200SSを目標に「収支改善運動」に取り組んでいるが、13年度は285SSを対象に取り組み187SS(68%)で収支改善がはかられた。14年度は192SSを対象に取り組み、セルフSS急増による市況低迷や手数料圧縮のなか、82SS(43%)で収支が改善された。15年度も200SSを目途に収支改善に取り組んでいく。

◆基幹SS中心に事業運営方式を統一化
―エリア戦略を見直し、セルフを積極的に導入

 JAグループでは従来から沿岸基地網・自主配送体制の整備、統一塗装、相互給油などJA―SSブランド構築を進めてきたがほぼ13年度末に完成し、プライベートブランドとしては国内石油流通業界最大の規模となった。しかし、SS淘汰の時代を勝ち抜いていくためには、これまで築いてきたJAチャネルブランドの資産を最大限に活用し、JA―SSネットワークとしての販売競争力、SS運営力をさらに強化し、組合員・ユーザから選択される魅力ある事業基盤を確立する必要がある。
 そのため、これまで進めてきたJAごとのエリア戦略を見直し、
1.JA石油事業の継続発展のため販売・運営面でエリアの中核となる基幹SSとそれ以外のSSを明確に区分、
2.広域的な視点からのSSの再配置、
3.セルフSSの積極的な導入(現在32SS、今年度中100SSを目標)
を柱に、図1のような新たなJA―SSネットワークを構築する。

◆JA―SSネットワークの構築

 新たなJA―SSネットワークは、JASS―NETをベースに迅速で効果的なSS運営指導・経営管理を行い、事業運営方式の統一をはかることによって、JA―SSの経営の安定化をめざしていく。また、販売施策・サービスの統一化・均質化(価格、営業日など)や空白地帯へのSS設置により、JA―SSブランドとしての訴求力を高め、集客力を拡大する。
 また、JAの事業継続が困難なケースやJAの新規投資は可能だが運営が困難なケースについては、収支採算が見込めることを条件に、JA―SSの運営受託も行うことにしている。
 そしてネットワーク構築の支援体制としてスーパーバイザーを養成していくが、会内の資格制度を設けることも検討している。

◆上半期に全JAごとにマスタープラン・エリア戦略を提案

 基幹SSとならないSSの内、配送燃料(灯油)型と位置づけられたSSは、配送業務の集約化によって配送拠点化される。それ以外のSSは「利便型SS」として位置づけ統廃合を前提に整理していくが、組合員生活に必要なSSや地元の要望で存続するSSについて、徹底したコストミニマム運営を行い、必要な運営コストについては、組合員に情報公開し理解を求めていくことにしている。
 基本的な考え方は4〜6月にかけてセミナーや機関会議で説明されていくが、今年度上期までに、全県全JAごとに新たな石油事業マスタープランを提案し、JAとの相互理解のもと早期の実現をめざしていくことにしている。


顧客接近型事業で競合エネルギーに打ち勝つ体制を

LPガス事業

◆電力料金自由化でLPガス小売価格が下落

 LPガス事業をめぐる状況としてはまず、ガス体エネルギーや電力の規制緩和・自由化が本格化しようとしていることがある。電力会社は、電力料金の自由化を見こして料金引き下げやオール電化住宅・電気温水器などの分野で攻勢を強めている。都市ガスでも電力自由化を意識した段階的な自由化が進むことが確実視されている。
 こうした他エネルギーとの料金比較から、LPガス小売料金も引き下げを余儀なくされることが予想され、とくに電力料金引き下げは、農村部を主たるマーケットにするJAグループにとって直接の脅威となることは間違いない。
 LPガス業界では、大都市圏から始まった新規参入販売事業者による無秩序な消費者の切替えは常態化し、さらに全国的に波及し始めている。さらにスーパーディーラーと呼ばれる広域卸事業者の小売への進出や系列化の動きも活発化しており「強者集中」の動きが加速することは確実だ。卸事業者間の業務提携もその提携範囲が広がり、卸コストの削減と業容拡大による小売料金下落に対応する仕組みづくりが着々と進められている。

◆JAの体制整備で取扱量を拡大

 JAグループLPガス事業は、老朽設備への再投資が困難、資格者の確保難、「JAバンク自主ルール」の影響から事業存続が困難となるJAも出現し、事業を撤退するJAもある。このまま推移すれば、JA経済事業の大きな収益源であるLPガス事業は、20%以上と予測される小売価格の下落にともないJA段階での収益確保が難しくなる事態も予想されている。
 そのためJA全農では、顧客接近型販売事業の展開、購買力の強化と小売料金下落に対応するためのコスト削減、JAと連合会が一体となった推進体制の構築などの施策を進めている。
 顧客接近型事業としては、専任部署や専任担当者の配置、LPガス販売所の集約など、JAの体制整備を進めるとともに、安全化システムの普及促進、あんしんコールサービス事業の拡大をはかっていく。さらに「ふれあいキャンペーン」など消費者への訪問活動による単位消費量のアップ、業務用需要の獲得など取扱量拡大に取り組む。

◆県本部間連携などでコストを削減

 購買力強化では、坂出LPガス輸入基地での産ガス国からの直接輸入を基盤に安定的な供給に努めるとともに、結集力を背景とした国内玉の購買力強化について引き続き取り組んでいく。また、コスト削減については、容器配送合理化、容器の大型化、バルク供給(14年度累計2700基)拡大などに取り組むほか、県本部間事業提携はもとよりJAグループや県域にとらわれない元売・大手卸業者との充填所、配送の共同化も検討していく。昨年度、容器配送合理化の提案会を千葉・栃木・福井で実施しているが、今年度も6〜8県で提案していく予定だ。県本部連携としては、広島・山口(14年8月)、富山・石川(同9月)、青森・秋田・宮城(15年4月)で容器検査場の共有化が実施されたが、これをさらに広めていく予定だ。
 小売販売能力の強化と、連合会におけるJA小売業務受託体制整備のために、昨年8月、6県本部と合同でLPガス直売事業運営研究会を立ち上げ、JAからの事業受託の課題整理、自立JA向け運営改善メニューなどを検討してきたが、引き続き販売施策のあり方や運営指導の方向などを検討する。
 これらによって、LPガス業界内だけではなく、電力など他の競合エネルギーにも対抗できる事業者となり、将来にわたって組合員・利用者の信頼を勝ちうる事業としていこうと考えている。

(2003.5.23) 

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