農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

JAと全農が一体となって石油事業を活性化
−JA豊関&JASS‐PORT下関

JAグループ石油事業に新たな道を拓く「受委託方式」


 いま全国のJA―SSの半分近くが赤字であり、これの解決が大きな課題となっている。JA全農では従来からの「エリア戦略」を見直し、セルフSSを核とする基幹SSによる「新たなJA―SSネットワーク」を構築することにしているが、その一環としてJAにおいてSS事業の継続や拡大が困難な場合、一定の条件で全農が運営を受託し、その地域における石油事業の再構築をはかることにしている。その先がけとしてこの4月にJA豊関(山口県)から受託したJASS―PORT下関がスタートし、好調な実績をあげている。そこで、JAが全農へ委託した考え方と成功の鍵はなにかを現地に取材した。

◆セルフなのにドライブウェイに常にSS職員が

平日の昼間から給油レーンが満車になるJASS−PORT下関
写真1 平日の昼間から給油レーンが
満車になるJASS−PORT下関

 平日の午後3時、まだピークには早い時間なのに次つぎと車が入ってきて、6レーンあるセルフの給油ゾーンが満車になり、レーンが空くのを待っている車もある。若い人もいるが、中年の主婦やお年寄りの姿が多い。「○○さん5レーンのお客様をお願いします」と事務所からワイヤレスでドライブウェイの職員さんに指示がだされると、機械操作にとまどうお客のところに職員さんが走りより、操作方法を説明する。車が入ってくれば空いているレーンに誘導するのも彼らの仕事だ。通常のセルフSSでは見られない光景だが、ここ山口県下関市の「JASS―PORT下関」では、ごく当たり前の日常的な光景だ(写真1)。
 10月の来店台数は1万7438台。単純平均で1日563台。1日15時間営業だから1時間に約38台。1レーン当たりの平均は6台強、つまり10分ごとに車が入ってくることになる。給油機の前に車を駐車して、紙幣かカードを入れて給油し、その後で軽く窓でも拭けば10分はすぐに経ってしまう。だから、空いている時間がほとんどない状態だといえる。これは平均でみての話だから、ピーク時にはもっとすごい状態だといえる。
 14年の12月までここはフルサービスのJA豊関下関SSとして営業していた。昨年の実績(4月〜12月)は、多いときでガソリンが65kl、軽油、灯油を加えた燃料油合計で167kl。燃料油合計の平均が134klだった。しかし、15年4月にセルフのJASS―PORT下関に衣替えしてからは図1のようにガソリンを350kl/月以上販売している。
 それはなぜか? 一言でいえば、JA豊関がSSの運営をすべてJA全農(実際の運営は全農燃料テクノ〈株〉)に委託し、石油事業改革にJAと全農が協力して取り組んでいるからだということになる。

◆JAと全農が卸と小売りからグループとして一体化

辻久男 JA豊関常務理事
辻久男 JA豊関常務理事

 全国にあるJA―SSの半数近くが赤字になっていて、これの解決がJAグループ石油事業の最大の課題となっている。そのためJA全農では、15年度からの3か年計画のなかで、従来から進めてきたJAエリア戦略を見直し「新たなJA―SSネットワーク」を構築していくことにしている。そのときに、JAの事業継続が困難な場合やJAの新規投資は可能だけれども運営が困難な場合、収支採算が見込まれることを条件に全農がJA―SSの運営をJAから受託することにしているが、JA豊関はその先駆けといえる。
 JA豊関は、日本海と瀬戸内海に三方を囲まれ、西は響灘、南東に周防灘、南は関門海峡を間に九州に接する本州最西端に位置し、下関市と豊浦郡の菊川町・豊浦町・豊北町・豊田町の1市4町をエリアとする広域JAだ。石油事業にも早くから取り組んできているが、事業を取り巻く環境が厳しくなり、下関市内46SSのうち10SSがセルフ化し、販売量の半分近くをセルフが占めるなど競合が激化するなかで、施設の老朽化や運営力が低下し取扱量が減少し、収支がここ数年1500〜2000万円の赤字と悪化。組合員の負託に応えられなくなり、経営的にも維持することが難しいという「石油事業存亡の危機」に陥った。
 JAでは石油事業から撤退しその敷地をCVS(コンビニ)に転換することも検討したが、この事業は組合員にも地域にとっても大事な事業だということで存続方法を模索する。株式会社化については、同じ職員が移行しても厳しい環境や競合に対応するには意識改革が必要であり、これには時間がかかり難しいということから、市内の石油事業業者への委託を検討する。
 だが「せっかく系統の事業として位置づけられているのだから、全農と相談してはどうか」と兒嶋綱雄組合長が提案。13年10月から全農と協議し、総代会の了承を得て、14年11月に基本契約書を締結。12月に下関SSを解体し、セルフSSを建設し、15年4月から受委託事業がスタートした。
 辻久男同JA常務は「石油事業の競争力を高めるためには、JAは“小売”、連合会は“卸”という従来の事業運営ではなく、JAグループとして一体化した事業運営を行い、グループをあげて組合員や地域を守ることが必要だ」という判断にたって「受委託方式」に踏み切ったという。

◆事業を継続し、赤字解消・経営安定化に貢献

 受委託の主な内容は、
(1)施設(セルフ改造費用)・土地は、JA豊関が投資・所有し、全農燃料テクノ(株)(以下、全農テクノ)賃借する。SS内に設置する機器類は全農テクノが投資・所有する。
(2)SS運営責任は全農が負うが、組合員に対する代金決済・広報・推進機能はJAが担い、JAと全農が密接に連携した事業を展開する。
(3)SS要員の一部は、JAから意欲ある職員を出向で受け入れる。
(4)燃料油配送業務は、全農テクノが受託し地元業者に再委託する。
(5)小規模利便型の1SSについては、JAから全農テクノが無償貸与を受け、徹底したローコスト運営を行う。
というものだ。
 このことで、(1)SSは地域における生産・生活資材の供給拠点としての重要な機能をもっているが、これを継続し強化することができる(2)年間1000万円を超える赤字負担を解消することで、経営の安定化に貢献することができる、というメリットがJAに生じることになる。
 しかし、市内にはすでに10ヶ所の商系セルフSSがあり、そちらに行ってしまった人たちをどうやってJAに取り戻すのか。セルフに抵抗感のある高齢者や女性層にどうやって利用してもらうかなどの問題を解決しなければ「JAと全農が一体」となっても成功はしないだろう。

◆「ふれあい」と「温かみのあるサービス」を基本に

65歳以上の高齢者や自分で給油できない障害者はこのカードを示せば職員が給油してくれる
写真2 65歳以上の高齢者や自分で給油できない障害者はこのカードを示せば職員が給油してくれる。大きさは横256×縦182mm

 全農・全農テクノには草加(セルフ)や所沢(フルサービス)などで蓄積されたノウハウがあるが、それを「パッケージ化してそのまま下関で使おうとしてもうまくはいきません。それをベースにしながら、ここの実状に合わせた工夫をしなければね」と萱島吉信全農テクノ下関事業所長。
 JASS―PORT下関の運営コンセプトは「簡単・清潔・安心」そして「楽しい」だが、何よりも大切にしていることは「温かみのあるサービスの提供」と「お客様とのふれあい」だ。その具体的な表れが冒頭でも紹介したように、セルフでありながらドライブウェイ(DW)に常にSS職員がいてサポートしていることだ。機械操作が不安だったり苦手な人のサポート、敷地内での車の誘導はもちろんだが、22時まで営業しているので夜間でもSS職員がDWにいることで、女性やお年寄りが安心して利用できることがある。
 もう一つは「給油してください」(写真2)というカードだ。このカードは65歳以上の人と障害者など自分で給油できない人のためのもので、JAの各支所を通じて該当する組合員に配布されている。SSに来店しこのカードを示せばSS職員が給油をしてくれる。これなら、高齢者でも安心してここを利用することができるわけだ。

◆地域・組合員に支持され販売量は5倍に

 また、JAメリットカード・現金会員カード・JASSクレジットカードによる利用者には、表示価格より2円/l値引きをしているが、さらにこれらカード利用者にはポイントを付与し、一定ポイントが貯まるとプリカやギフト券と交換できるようになっている。さらに毎日、任意の割合で領収書に「当たり」を印字し、旬の景品をプレゼントするという「当たりくじ制度」で楽しさを演習しているのも特徴的な取り組みだといえる。
 JAメリットカードは、JAが地域内の電気店などと提携して、このカードを提示すると割引などのサービスを受けられるものだが、認知度があまり高くなく、複合化もされていなかった。それを同SSオープン時に磁気化し利便性を向上させたもので、SSでポイントが付与されるようになり、認知度も上がり、最近は申し込みが増えている。
 無料で使えるタオルも窓拭き用の青色タオルとその他用の赤色タオルに区別して提供している。窓を拭いたタオルで車体も拭いてしまう人もいるようだが、別々のタオルが用意されているという気配りは、利用者に好感をもたれている。
 セルフでありながら「ふれあい」を大切にした「温かみのあるサービス」と細やかな気配りは、「農協のSSに行ったら、安いしサービスがいいよ」と組合員や地域の人から好感をもって受け入れられている。それが、フルサービス時代の5倍という販売量に明快に表れている。

JASS-PORT下関実績

◆SSが「JAの顔」に地域でのJAの役割・地位を高める

 辻常務は「効率が悪い給油所が、市内でももっともランクが上の給油所になった」と喜ぶ。さらに「委託事業としてだけではなく、JAと全農が卸と小売りという関係ではなく一体となり、その地域と農家を守るためにはJAグループあげてやっていくことが必要だと考え実行してきた成果であり、それが支持された」。そのことがJA豊関の理念である「組合員の暮らしと地域社会を守る」ことにつながり、利用者に喜ばれるSSとして生まれ変わり、SSが「JA豊関の顔」としてJAの存在感を発揮し、地域におけるJAの役割・地位を高めることにつながったと評価している。SSの成功によって、JA内に新たな気運が生まれ組織の活性化や職員の意識改革もはかられるなど、JAにとっては有意義なこととしても評価されている。
 そして「信用・共済事業だけでは農協は勝てません。営農や石油を含めた経済事業を活性化させ、総合事業として農協の事業が回転してこそ地域密着が成り立つのだから」これは経済事業改革ではなく「農協改革」なのだと位置づけている。
 そしていまは「資材を安くすることも大事だが、連合会とJAがお互いに反省すべきことは反省して連携を強化して、地域においてグループとして、どのように地域の皆さんの役に立てるのか、地域のなかで必要性を感じさせるような事業を積み上げていくのか、それの機能分担が問われていると思う。そこをキチンと整理しないと残れないと思う」とも辻常務は語った。そういう意味では「全農の判断は早かったし、担当者が意欲的に取り組んでくれた」ことを評価している。
 いま全農にはいくつかのJAから受委託の申し入れがあり、ほぼ基本的な合意に達しているところもあるという。JA豊関が全国の先がけとなったこの「受委託方式」は、JAグループ石油事業の今後のあり方として真剣に考えてみる価値のある方法だといえる。 (2003.11.20)


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