「基本計画」の見直しを議論している食料・農業・農村政策審議会企画部会では4月26日から主要3課題((1)品目横断政策への転換、(2)農業環境・資源の保全策、(3)担い手・農地制度)について2回目の議論に入る。
これまでの部会の議論では、早急に品目横断政策の導入に向けた議論をすべきなど現場の意見がある一方、「政策転換の具体的なイメージが湧かない。スピード感が感じられない」、「3課題を分けて議論することは困難。まず日本農業の将来象についての共通認識が必要」などいまだ焦点が明確になっていないとの意見も多い。今後は、新たな政策の姿が浮き彫りになるような議論が期待される。
◆基本問題の議論が不可欠
4月に入って企画部会は9日にフリートーキング、21日には有識者ヒアリングを行った。
企画部会でJA全中の山田俊男専務が再三主張しているのが、「わが国の農業の将来像をどうイメージするか、共通認識を持つこと」。国土条件からすれば米国のような新大陸型の農業をめざす道はないはずだから、その認識のうえで担い手像とその育成策を考えるのが道筋との主張で、主要3課題の議論の前に掘り下げるべき課題だとしている。
21日の有識者ヒアリングに出席したJA全青協の次期会長、三上一正氏も「国として農業の将来展望をまずきちんと描くべき。国民には食料安全保障への危機感がある」と訴えた。
同時に今回の政策転換について、農業についての国民的な関心を高めるべきとの指摘も多い。
経団連の立花宏常務は「後継者がいない集落が全国に広がっている。このままでは農業がなくなってしまう。国民が健全な危機感を持って全体で支援を」と主張。元JA全青協委員長の森本一仁氏は「補助金ではなく、将来の食料確保のための投資と考えるべき」と政策の基本的なあり方についての提言もある。
また、JA遠賀郡の安高澄夫組合長は「手段の議論が先行している。何のために政策を転換するのか目的が十分に議論されていない」と主張している。
これらの点について十分に噛み合った議論がされてはいないのが現状だ。
◆「担い手」像が焦点
担い手について農水省は「プロ農業経営」という考えを打ち出し、そこに施策を集中するという方針を打ち出した。
「プロ農業経営」についてはいまだ具体像がはっきりしないが、3月には支援の対象として認定農業者だけでなく、「特定農業団体」も対象とする方針を示した。
JAグループが主張してきた集落営農を一定の要件で認める方向は打ち出したが、本紙前号(4月22日、1911号)で谷口信和東大教授は「認定農業者への過渡的形態としてしか位置づけられていない」と批判、集落営農が農村社会活性化の力も持つことに着目すべきと提言している。
農業の構造改革では水田農業がもっとも課題を抱えており、JAグループでは米政策改革にともなって、集落営農を含め集落段階から担い手の特定と農地利用集積に合意形成をつくる「地域水田農業ビジョン実践強化全国運動」を展開している。
これが米改革への具体的な取り組みであり、企画部会の議論でも水田農業ビジョンの実践をふまえて、担い手像を考えるべきというのがJAグループの主張だ。
◆農地制度と自給率議論も
同時に、担い手の議論と農地制度の議論は切り離せない。
担い手像の議論では、新規参入を促すべきとの観点から農地の利用、取得について弾力的に規制緩和し、事後チェック規制を強めればよいとの議論もある。
だが、そうした方向でかりに担い手が育ったとしても「農業は残っても農村は残らないことになるのではないか」と農村の将来像についての視点が欠けているとの指摘が出ている。
また、産業廃棄物の不法投棄の場所として利用され、農地として復帰が困難な事例も現実には多いことから、事後チェック規制強化で農地が守れるのかという点が当然懸念される。農地問題について農水省が今後どんな案を示すのか注目される。
自給率についてはそれ自体を課題とした議論はほとんど行われていないが、今後は「国内農業の振興策を議論をしそれが自給率向上につながるという視点が必要」(JA全中山田専務)と指摘されている。
とくにこれまでは農業振興策として水田をどう活用するのか、その誘導策として政策はどうあるべきかの議論がなされていない。「品目横断的な政策」といっても、生産者、あるいは農村にどのような品目で今後の日本農業の振興を図ってもらうかというイメージはない。
このためJA全中の山田専務は「麦、大豆、ホールクロップサイレージなどのほかに、水田地帯への大家畜の導入など、本格的に考えるべき」と主張している。
品目横断政策で想定されている直接支払い制度導入は、WTO交渉などで高関税の維持が難しくなる見通しのなかで打ち出されてきた面もある。
しかし、現在では米、麦など高関税を維持しており、今後、国境措置が引き下げられても生産が維持できる対策がこうした品目には求められる。品目横断的な支援策への転換だけで国内農業の振興が図れるのかどうかも、十分に視野にいれた議論が必要だ。 (2004.4.23)