農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

地域水田農業ビジョンは米改革の羅針盤

「地域水田農業ビジョン」実践強化全国トップセミナーを開催−JA全中


 JA全中が4月28日に開いた「地域水田農業ビジョン」実践強化全国トップセミナーには、JA組合長ら約400人が参加し集落での話し合いの進め方や売れる米づくりに向けたマーケティング戦略などをめぐって事例報告やパネルディスカッションで認識を深めた。また、この種のセミナーでは異例のセミナー参加者一同でビジョン実践強化に向けた決議も採択、JAグループの取り組みを内外にアピールした。

◆水田営農実践組合づくりを

トップセミナー・パネラー
 JAグループでは、今回の運動目標を(1)水田農業の構造改革、(2)多様な水田の利活用による生産振興、(3)販売を起点とした米事業方式への転換、(4)主役となる需給調整システムの構築、(5)持続型・環境保全型農業の推進の5点を掲げている。そのうえで、こうした目標を実現するため、全国の水田集落を基本に、地権者・耕作者による農地の利用集積や担い手の特定などについての合意形成、話し合いの場としての「水田営農実践組合」づくりを進めることや、売れる米づくりなど「生産・販売戦略」の策定と実践、全JA段階での米の生産調整方針の策定など主役システムの構築に向けた体制づくりなどを具体的な取り組み課題としている。
 運動期間は当面16年度から18年度までの3年。この日のトップセミナーを皮切りに全国段階では担い手育成研修会やマーケティング研修などを行うほか、都道府県段階、JA段階でも運動の推進体制を整備し現場での着実な実践を図る方針だ。

◆基本は集落での話し合い

森澤重雄 JA全中食料農業対策部長
森澤重雄 JA全中食料農業対策部長
  「地域水田農業ビジョン」は、産地づくり交付金の交付要件となっていることからほぼ全国の市町村で策定される見込みとなっている。ただ、すべてが集落段階での話し合いや合意が得られているとは必ずしも言えないのが現状だ。
 セミナーで強調されたのは集落段階で農業の将来を描き集落で合意し、それを積み上げて地域水田農業ビジョンとすることの重要性。そうした取り組みと実践によってこそJAグループが掲げた水田農業の構造改革などの目標も実現するとし、現在、策定されているビジョンの「見直し」も可能だという認識をJA段階で持つことだった。
 セミナーではJA全中の水田・営農ビジョン対策室が、集落での話し合いを通じた水田営農実践組合づくりについて説明。
 まず集落全体に集落の将来を考える「明日を語る会」の立ち上げを集落リーダーともに呼びかけることが取り組みの一歩となると強調した。とくに大規模生産者や法人も含め集落の構成員全員の参加が重要だとした。
 そのうえで農業センサスなどを利用して集落の現状を分析、集落の今について認識を共有して将来像を描く。また、将来についてのそれぞれの考えをすくい上げるために、世帯別ではなく男女別、年代別、農作業の受け手と出して別などを対象にしたアンケートを実施、こうした集落の「健康診断」をもとに「等身大」の将来計画として集落ビジョンをまとめて、実践していくことが大切だと強調された。

◆問われる「産地力」

藤澤研二 藤澤流通・マーケティング研究所代表
藤澤研二 藤澤流通・マーケティング研究所代表

 藤澤流通・マーケティング研究所の藤澤研二代表は講演で「需要者起点の米づくり」への頭の切り替えが大切だと訴えた。
 地域水田農業ビジョンには、米の需要をめぐる環境変化をふまえているかどうかが問われると指摘した。若者の米離れと少子化が進み、人口減から2025年には米の消費量は500万トン近くまで減少すると予測。消費拡大への取り組みは重要だが、産地として将来像を描く際には、「外部環境の変化を厳しく受け止めておく」必要があるとした。
 現在でも家庭での購入を中心として「米」から外食、中食の「ご飯」へと消費形態が変化していることなどをふまえ、売れる米づくりのためには「自分の産地の米がどのような流通経路で誰が売り、誰が食べてどう評価されているのか」を知らなければ「売れる米づくりはできない。作る力と売る力がどれだけ強化できるか、産地力が問われる」と強調した。

◆全職員の支援活動で策定

熊谷健一 JA岩手中央常務理事
熊谷健一 JA岩手中央常務理事
 事例発表したJAいわて中央の熊谷健一常務は「JAの役割は組合員の抱えている課題に応えること」と話し、ビジョンの策定にあたっても、JAが販売をしっかり担うという役割を改めて明確にして、集落段階でのビジョンづくりに取り組んだと報告した。
 同JA管内には205集落があるが、最低で5、6回、多い集落では20回もの話し合いによって全集落での策定を実現した。
 集落での話し合いでは、説明役や進行係としてJAの職員が支援する体制をとった。「全職員の支援活動のよるビジョンの策定と実践」が同JAのキーワードだ。
 担い手は、大規模生産者や法人だけでなく、集落営農組織も育成。集落営農組織づくりもJAが農産物を「売り切る」ことをバックにしたため協議をまとめることができたという。
 今年度からは「担い手の特定」「米以外の作物づくり」「担い手への所得保障の仕組みづくり」などの視点で集落水田農業ビジョンの見直し支援も行っていくことなどを紹介した。

◆均質化で「売れる米」づくり

山本篤 JA山口美袮代表理事組合長
山本篤 JA山口美袮代表理事組合長

 JA山口美祢の山本篤組合長は、同JAが実践している「金太郎飴戦略」について報告した。
 この戦略は管内で生産される米を均質化することで売れる米づくりを実現しようというもの。一等米比率が低く、食味値にもばらつきがあったことから始まった取り組みだという。
 ターゲットを量販店、外食産業の要望を満たす米と定め、農家へ栽培技術を守るよう呼びかけた。それを土づくり、田植え期間、防除法など「5つの約束」として分かりやすく示し参加農家を増やしてきた。15年では500戸が参加。生産部会もできた。山口県のオリジナル品種「晴るる」について5つの約束を守って作られた米を「金太郎飴晴るる」として地域の量販店で販売している。
 「参加農家に仲間意識が生まれている。量販店の担当者から市場ニーズについて直接聞く機会も設定、生産者の米づくりに対する姿勢も変わってきた」と山本組合長は話し「小規模の農家がほとんどの地域でどう水田を守っていくが知恵を出すことが求められた」取り組みでもあることを強調した。

◆データを示して合意形成

森本秀樹 兵庫県立農林水産技術総合センター部長(普及担当)付専門技術員
森本秀樹 兵庫県立農林水産技術総合センター部長(普及担当)付専門技術員
 兵庫県立農林水産技術総合センター専門技術員の森本秀樹氏は「現場からみた集落営農づくりのポイント」を報告した。
 森本氏は「なぜ集落営農が必要か」を理解してもらうことが重要で、そのためにはデータによって自らの姿を知ることが必要だと強調した。
 兵庫県内のある市ではそうした分析によって、実際に将来に担い手がいない農地が300ヘクタールにもおよぶことが明確になった実例などを紹介し、集落での座談会など通じて集落営農組織を形成していった例を報告した。
 また、集落営農組織を法人化することなど発展させていくことや、こうした活動を自ら行う集落リーダーの育成も課題だとした。
 「現状に危機感を持ち、第2の農地改革として農地利用を集落全体で考えていけるかどうかが問われている。JAにとっては支所の営農指導員が農家を支援する体制が求められているのでは」などと述べた。

◆生産者、集落と同じ目線で

 パネルディスカションで強調されたのはJAの役割。集落段階での話合いがスムーズに行われビジョン策定が進んだ集落では、JA職員が農家や集落の立場に立って同じ目線で説明したことが要因との指摘もあったほか、生産者自ら課題認識をもって考えてもらうようリーダーの育成も大切なことが改めて強調された。
 売れる米づくりなど意識改革の点では、たとえば、実需者の声を聞く機会などをJAが設定するなど「動きながら意識を変えるしかない。動かなければ意識は変わらない」と実践が重要と強調された。
 先進的な事例が報告されたセミナーだったが、そうした事例との違いを見つけだすのではなく「まず取り組めるところを見いだす」、「最初から立派なものはできない」などの指摘もあり、「ともかく実践を」と参加者に呼びかけた。
 今後の各JAの実践が期待される。 (2004.5.11)



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