農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
特別寄稿
地域水田農業ビジョンの検証と実践強化を
−ビジョンに魂を入れる−
松岡公明 JA全中食料農業対策部水田・営農ビジョン対策室長


 今年のJAグループの重要な運動が「地域水田農業ビジョン」の実践強化だった。なかでも重視されたのが、集落段階から地域の合意で担い手づくりや農地利用、栽培作物を決める取り組みだ。今年の取り組みの成果と17年以降の課題について、JA全中食料農業対策部の松岡公明水田・営農ビジョン対策室長に解説してもらった。

◆ビジョンは羅針盤

 16年度から米政策改革がスタートし、JAグループでは地域水田農業ビジョン実践強化全国運動を展開しています。地域水田農業推進協議会が核となり、ビジョンを地域農業の「羅針盤」として、担い手の明確化・育成、需要に応じた「売れる米づくり」、生産調整方針に基づく多様な水田の効率的利用など、地域の主体的な取り組みのもと、スピード感を持って水田農業の改革をすすめていかなければなりません。
 早ければ、19年度には、いわゆる「主役システム」への移行、品目横断的経営安定対策の導入が検討されているなか、スピードに関する組織カルチャーを最初にリセットしないと改革の方程式は動き出しません。
 ビジョン実現の最大のポイントは、生産者自身が地域の水田農業の抱える問題を自らの課題と受け止め、集落をベースとして地権者・担い手が徹底して話し合い、合意形成を図り、ビジョンを課題解決型の地域運動として実践できるか否かにかかっています。
 このビジョン運動は、水田農業の制度・施策が大きく変わり、JA組合員の多くが水田農業に多様な形で関わるなかで、まさにJAの組織・事業・経営基盤をどうするかという問題でもあります。足元の地域農業とJA経営が厳しさを増すなかで、時代の変化に対応した生産組織活動や営農指導体制、経済事業方式、JA経営戦略の再構築に向けて、トップマネジメントはもとより、JAグループ役職員をあげた取り組みが必要です。
 また、ビジョン運動は、自らの地域農業改革のための運動であるとともに、これまでの「制度依存」から自立性・経済合理性・持続性を旨とした「自ら考える水田農業」への意識・知識・組織の「三識」改革の運動であることも認識しておくことが重要です。こうした改革運動の着実な成果が、次なる農政運動の土台なり発言力ともなっていきます。

◆地域ビジョンの検証・見直し

 平成16年度の地域ビジョンへの取り組みは、改革初年度ということもあり、これまでの市町村農業振興計画やJA地域農業戦略の焼き直し、あるいは交付金をもらうための「事務局の作文」に留まっているケースが多く見られます。全中が4月に行った調査によれば、「集落ビジョンを踏まえて地域ビジョンを策定した」が17%であり、「集落段階からの意見を聞かなかった」が25%もあり、集落段階からのボトムアップ型のビジョンとなっていない実態が浮かび上がってきました。農家が地域農業への心を束ねるための共有すべき「戦略」としてのビジョンとなっていません。
 地域ビジョンは、一旦策定したら、3年間固定的に継続するというものではありません。米政策改革大綱においても「各年度ごとの取り組み内容は合意形成の状況や、改革の進捗状況に伴って、より高度なものへ発展していくことが望ましい」とされています。マネジメント活動は、計画、実行、検証、改善のPDCAサイクルからなるといわれます。まさに、ビジョン実践運動もこのPDCAサイクルをワークさせることが、特に、「改善」が次の「計画」に展開していく形で、継続的に循環させ、ローリング・プランとしていくことが肝要です。あるいはその一方で、計画責任・実行責任・結果責任が問われているといってもいいでしょう。
 このため、<表>にあるように、ビジョン運動の10の重点課題についてポイントを整理し、17年度は「目標管理」の手法を用いて運動に取り組むことにしました。全国・都道府県・地域の各段階で、17・18年度の2か年で達成すべき目標を具体化し、その達成のための手法、手順、スケジュールを明確化したアクションプランを組織決定し、その実施状況を点検していくこととしています。
地域ビジョンの検証の視点、重点課題のポイント

◆地域の健康診断と情報力

 「仏作って魂入れず」といわれるように、地域ビジョンにも魂を入れる必要があります。すなわち、ビジョンに対する主体性なり内発的エネルギーを、どのように引き出し、また、どう具体的実践に結び付けていくかが課題となります。
 問題解決は、問題意識を持つか持たないかで決まります。水田の構造問題は地域ごとに多様です。産地には産地の、集落には集落の構造問題があります。
 生活習慣病は、日常のアタリマエの生活の連続性のなかで、取り返しのつかないような病気に侵されていきます。我々人間も健康診断で血圧や血糖値、肝機能などを測定し、データによって健康状態を認識し、食生活をはじめ予防医学的な生活改善を行います。
 農家に問題意識を持ってもらうためには、農業センサスやアンケート調査の分析データに基づき、「現状」と「将来」について「このままの生産構造や経営スタイルで大丈夫なのか」という問題意識と課題認識(リスク)の共有化を図ることが第一歩です。また、「売れる米づくり」について、用途別・価格帯別・銘柄別の需要情報や産地米の市場評価をデータ分析に基づいて提示し、「井の中」から「大海」を知らせることが必要です。孫子の兵法の如く「敵を知り、己を知らば百戦危うからず」であり、外部と内部の両方の情報が不可欠です。情報力が弱いと、そのプランは抽象的になってしまい、現場での意識改革も観念的に終わり、成果もあがりません。
 問題意識ばかりでは何も解決しません。担い手がいない、このままでは耕作放棄地が増える、といった問題について、その解決方法の「考え方」を考えること、つまり、「この問題はどのように考えることによって答がでるのか」を考えることが重要です。「わが家の水田はわが家で守る」ことに限界感がみえてきた現在、「地域の水田は地域で守る」という意識改革と地域営農(1集落から複数集落、共乾施設・JA支所単位の広域タイプも考えられる)の課題解決型のビジョン策定が必要です。
 水田農業は面的まとまりのなかで、「共益」づくりのなかに「私益」も見い出されるはずです。地域営農の組織・運営・経営管理をどうしていくのか、その際、地域資源・経営資源をどう活かしていくのか、地域の話し合いのなかから地域の解決策や知恵も生まれてくるものです。集落の健康診断結果をもとに、世代別、男女別に、5年後、10年後のムラをどうしていきたいかを「明日を語る会」で話し合います。そして、何から手を付けていくのか、優先順位をつけて、その合意ができた取り組みから、地域のマニフェストとして共有化し実践していくことです。
 聖書には「ビジョンなき民は滅ぶ」という言葉があります。織田信長や豊臣秀吉も「天下統一」という明確なビジョンを持っていました。21世紀の日本農業と定住する地域社会、JA運動の「この国のかたち」を描くうえで、ビジョン実践運動は正念場の取り組みです。

(2004.12.22)


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