◆規模拡大する養豚経営−子豚の育成率改善で生産性を向上
海外でのBSEや高病原性鳥インフルエンザなどの発生によって食肉輸入が停止するなどの食肉の状況や国民の畜産物への安全・安心への関心が高まるなかで、豚肉は、国民の食生活の安定をはかるうえで欠くことのできない重要な動物性たんぱく質源として、食肉のなかで大きな役割を果たしている。また、食肉としてだけではなく、ハム・ソーセージなど加工食品としても広く利用される重要な素材でもある。
しかし、国内の豚飼養農家は、平成2年には4万3000戸だったが、小規模飼養農家を中心に年率1割を超える割合で減少してきた。ただし平成10年以降は減少率が鈍化傾向で推移し、現在は約9000戸(16年2月1日現在)となっている。
1戸あたりの飼養頭数は、平成2年の272頭から14年には961頭に増加。さらに、15年以降はBSEの影響もあって豚肉需要が増えたため、大規模飼養者を中心に規模拡大がなされ、現在は1095頭(16年2月現在)と着実に増加。国内における飼養頭数は970万頭強となっている。このうち子取用雌豚は91万8000頭で、1戸当たり平均は118頭強となっている。
豚は通常、一度に10頭前後の子豚を産み、1年に2回分娩するので、1頭の母豚は年間20頭の子豚を産むことになる。そういう意味では牛などに比べて、きわめて生産性の高い家畜だといえる。しかし、多産のためか未熟な状態で生まれてくることが多いのも豚の特徴だといえる。そのため、養豚経営の生産性の向上や経営改善のためには、体重30キロになるまでの幼齢期をいかに管理し、子豚の育成率を向上させることが重要な課題となっている。
◆子豚の成長に合わせて的確に栄養素などを給与
−哺乳期子豚用人工乳体系を一新
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こうした養豚経営の課題に応えて、出産時の体重約1.5キロから30キロになるまでの幼齢期の発育を促進し、丈夫な子豚の成長を実現するために、JA全農は哺乳期子豚用人工乳体系を一新し、10月から「哺乳期子豚シリーズ」として発売している。
この新人工乳シリーズは、国内でのBSE発生よる血漿タンパクなど特定の動物性原料の飼料への使用規制を受けて、JA全農飼料畜産中央研究所(飼中研)が3年ほど前から開発に着手し、子豚に最適な人工乳の切替え時期や栄養成分を研究・開発したもので、(株)科学飼料研究所が製造を担当している。
従来体系を一新したこのシリーズは、子豚に最適な切替え時期や原料、栄養成分を見極めて、哺乳期を4段階に分けた体系で、「子豚えつけ」「子豚すこやか」「子豚はつらつ」「子豚げんき(地域により名称が異なる場合がある)」の4種類で構成されている。
子豚が大人の入口である体重30キロにまで成長するのにはおおよそ70日かかるが、そこまでの成長がその後の発育を左右するといわれるように、この時期の飼育管理が重要だ。
この時期は、ほとんどすべてのタンパク質の構成成分となるリジン(アミノ酸)の要求量や消化酵素の質が劇的に変化する時期でもある。体重30キロまでに必要な飼料中のリジン要求量の目安は、体重6キロ、8キロ、12キロで変わるので、それに合わせた飼料が必要となる。
また、消化酵素の変化も重要で、出生直後の子豚はラクターゼという乳糖を分解する酵素を多く分泌するので、哺乳中や離乳後1週間(体重8キロ程度)は、脱脂粉乳などの乳製品が飼料として適している。生後4週間ごろからは、アミラーゼ、マルターゼ、プロテアーゼが活性化してくるので、トウモロコシや大豆かすなどの穀類を消化することができるようになる。
こうしたことから、新人工乳シリーズの給与体系は4段階になったという。
この新人工乳シリーズを給与するときのポイントは、子豚の体重変化に合わせて、人工乳を切替えることにある。
小さな子豚をなくすために、各ステージの推奨給与量を確実に食べさせていく「フィードバジェット方式」が推奨されている。つまり、子豚が1部屋に20頭いる場合、「子豚すこやか」ならば1頭当たり2キロが目安となるため、20キロ袋を2袋与え、それが食べ終わったら次のステージである「子豚はつらつ」に切り替えるという飼料給与量の決め打ちだ。
◆4段階飼料体系で豚の生理に適した給与−シリーズの特徴
各段階に対応した新人工乳の特徴をみてみよう。
【子豚えつけ】(出生翌日から離乳3日後まで1頭1キロを給与)
粉餌に慣れさせ摂食行動を確立させる、いわゆる餌付けを目的とする人工乳だ。哺乳中の子豚の消化生理に沿った原料組成にするために、脱脂粉乳を主体にし、消化性を最大限に追及している。さらに、新規原料として酵母抽出物を採用し、発育、嗜好性の改善をはかっている。
【子豚すこやか】(離乳3日後から約1週間、1頭2キロを給与)
子豚の体の生理作用が大きく変化する離乳後に使用する人工乳で、餌付け用人工乳「子豚えつけ」からスムースに移行し、離乳ショックによる各種のストレスを緩和し、順調な発育を促すための飼料内容となっている。脱脂粉乳を主体とし酵母抽出物を採用することで、「子豚えつけ」に近い消化の良い原料組成となっている。離乳後の消化能力に合わせた栄養によって、成長が順調に進むよう工夫されている。
【子豚はつらつ】(体重8キロから約12日間、1頭5キロを給与)
離乳後の成長が軌道にのった子豚に対して、発育に弾みをつけ、哺乳期後期飼料へスムースに切替えることを目的に給与する人工乳。消化性の高い加熱処理穀類や粉砕穀類を中心に、ホエーや脱脂粉乳などの乳製品も使用している。
【子豚げんき】(体重12キロ以上から30キロまで)
哺乳期後期の飼料で、1日当たりの増体重をピークに引き上げることを目的に給与する。タンパク源は大豆かすなどが中心となっている。
◆優れた嗜好性で63日で体重30キロをクリア
飼中研の農場とコンベ農場で、新人工乳シリーズと従来品の発育成績を比較したところ、図1のように期間増体は大幅な改善が認められた。飼中研農場の子豚は、63日間で体重30キロをクリアし、コンベ農場の場合も、「子豚すこやか」「子豚はつらつ」の給与の段階で大幅な体重アップをはかることができた。
どんなに栄養的に優れた人工乳であっても、子豚が摂取しなければ何の意味もないことになる。新人工乳シリーズは、子豚の嗜好性にこだわった原料を厳選することで、子豚が摂取しやすいよう工夫されている。
従来品との嗜好性を比較した試験によると、図2のように子豚は圧倒的に新人工乳を選んで摂取していることが分かる。この嗜好性の高さが、親から離されるときにもっともストレスが高まり、成長率が下がる「離乳ショック」の緩和に大きな効果を発揮し、順調な発育を促しているといえる。
また、豚は1度に10頭前後出産するが、そのすべての子豚が同じような体重で生まれてくるわけではない。大きな子豚は母豚の乳をしっかり吸うことができるが、小さな子豚は十分に吸うことができず、発育に差がでてしまう。新人工乳は、小さな子豚の発育を底上げする効果が顕著だった。
また、消化の良い原料を使用しているために、下痢を起こしにくいこと。毛づやや肌がきれいになるという効果も確認された。これは、必要な栄養を十分に摂取できていること。便性状が良好であること。糞の付着による汚れが少ない、ことなどによるものだ。
◆豚にやさしい人工乳で養豚経営に貢献
出生から体重30キロに成長するこの時期にシッカリした管理を行い、成長に合わせた適切な飼料を与え、ていねいに育てれば、後は順調に成長していく。新しい人工乳体系である「哺乳期子豚シリーズ」は、ここまでみてきたように、豚が本来もっている能力を十分に引き出すことができる飼料体系だといえる。このシリーズは、子豚の消化に最適な栄養であり、まさに「豚にやさしい人工乳」ではないだろうか。
そのことで、養豚農家の生産性向上や経営改善をはかるための最重要課題の一つである「子豚の育成率の向上」をはかり、養豚経営に大きく貢献するものだといえる。まだ、発売されたばかりだが、多くの養豚農家でこの「哺乳期子豚シリーズ」が活躍し、元気な子豚が育って欲しいと思う。
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