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論壇―風 |
本紙では今号から「風―論壇」を開設します。農政、農協、経済などをめぐる時事問題について原則として本紙論説委員が執筆します。今回は、開設にあたって特別に梶井功東京農工大学名誉教授に寄稿していただきました。 |
食料・農業・農村基本計画は、“食料の安定供給の確保”を“食料、農業及び農村に関する施策”のトップに据え、“国民の多くが我が国の食料事情に不安を抱いていることを踏まえれば、基本的には、食料として国民に供給される熱量の5割以上を国内生産で賄うことを目指すことが適当である”としつつ、“計画期間内において・・・実現可能な水準”として2010年カロリー自給率45%を引上げ目標として掲げている。
2001年3月に策定されたこの基本計画は、まだ改訂されていない。したがって、農政はこの基本計画達成のために組み立てられなければならないはずである。政府の経済財政政策の基本方針を明示したものとされている「経済財政運営と構造改革にかんする基本方針2002」いわゆる「骨太方針第二弾」のなかの“食料産業の改革”という章の書き出しも “我が国の将来の食料供給に対しては、国民の相当程度が不安を有している。さらにBSE問題等を契機に「食」の安心・安全性への国民の不信が高まっている。(中略)農業、食品産業等のいわゆる「食料産業」は国民経済上も重要な産業であり、今後は食料産業全体を視野に入れた政策運営を通じて、国民の期待に応えうる食料産業の活性化と農業の構造改革を推進する必要がある。” となっている。この文章からは、“将来の食料供給に対”する国民の“不安”に“応えうる”政策を「骨太方針第二弾」も求めていると読めよう。 しかし、BSE問題で“重大な失政”ありときめつけられてからの農政は、“消費者に軸足を移した農林水産行政を進める”ことには熱心だが、自給率の維持向上などは見向きもしないという状況になっている。これでいいのか、である。 “「食」と「農」の再生プラン”(2002年4月)、“再生プラン工程表”(2002年6月)、総理指示事項「国民の期待に応える食料産業の活性化と農業の構造改革を推進する制度・政策改革」(2002年8月)のどれにも、食料自給率向上はおろか自給率という言葉も出てこない。「基本方針2002」を先取りし、「総理指示」に沿って、「食」と「農」の再生に向け、自ら改革に着手するのだと謳っている最後の2002・8文書でも、柱として立てられているのは「食の安全と安心の政策」「農業の構造改革の加速化」「都市と農山漁村の共生・対流」の3つであって、基本法に基づいて制定された基本計画が重視している自給率向上施策など、まったく無視されている。 自給率問題を無視しているということは、現内閣の財政経済施策の基本を示した「骨太方針第二弾」の指摘をも無視していることになると思われるのだが、それで“「基本方針2002」を先取りした”といえるのだろうか。経済財政諮問会議では、農相説明に格別の異論も出なかったというから、「骨太方針第二弾」のあの文章を“将来の食料供給に対する”国民の“不安”に“応えうる”政策を求めていると読んだのは、誤読だったのかもしれない。 「工程表」に盛られた施策では、食料供給の安定化どころか、こんなことをやられたのでは逆に不安定化が加速される危険性がある。「工程表」以来、“米政策の大転換”を生産調整研究会の検討に基づいてやると強調していることなど、その最たるものだ。研究会の提案は、効率的かつ安定的な経営が米生産の太宗を担うようになれば飼料用生産もできるようになるという夢想の上に立っている。夢想の上に立つ提案に基づく施策は、米生産体制、そして日本農業それ自体の崩壊をもたらしかねないと私は思う。 効率的かつ安定的な経営体が農業生産の太宗を担う農業構造の実現を農政が目指してから、もう10年になる。それは基本法でも確認されている構造政策の方向ではある(第21条)が、農業構造の動きは極めて鈍い。 鈍いのは、効率的経営が安定的経営になるためには、一定の価格・所得支持政策が不可欠なのに―― 一旦はやめた不足払い政策を、作付制限なしに復活させたアメリカの2002年農業法が最もよくこの不可欠性を示している――それを怠ってきたところに最大の原因がある。生産調整は選択制にし、過剰処理は生産者の自己責任でやれという研究会の米政策転換提案は、それとまったく逆のことをやるべきといっているのである。そんな政策では望ましい構造の実現ではなく、現実の生産体制をこわすことにしかならないだろう。 自給率向上など、農政が取り上げるべき課題ではないと小泉内閣は考えているのだとしたら、まずは食料・農業・農村基本法の改正から始めるべきだろう。改革を呼号するのもいいが、その改革も法に基づいてやってほしい。政策方向を定めた基本法が生きているのに、それを無視することは、内閣として許されることではない。 |