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論壇―風 |
北東アジアの国際政治空間は、9月の小泉純一郎首相の訪朝によって、少なからぬ衝撃を受けた。といって、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)をはさんで、日・韓・米と中・露の両グループが複雑に絡み合う関係そのものに変化が生じるわけではない。 ◇ ◇ ◇
平壌(ピョンヤン)訪問者の多くが伝える「停電」のひん発は、北朝鮮の経済的苦境の深刻さを象徴するものである。第2次大戦まで、半島の北は工業、南は農業地域と称せられた。だが、1960年代、当時の韓国の朴政権は、対日基本条約の締結を足がかりに外資の導入によって、韓国経済を高度成長の路線に乗せた。 次いで、中国経済が改革・開放の掛け声で、80年代に、日韓両国なみの高度成長を実現し、人民公社時代の長期低迷にサヨナラを告げた。 ところが、北朝鮮は、周辺のこれら諸国とは反対で、80年代までは、建国の英雄(金日成)の威光でなんとか政権を維持できたが、ソ連邦の崩壊で、90年代に入ると下降カーブ。 世界銀行の各種の統計にも、「北朝鮮」という形では掲載されなくなった。 同じ社会主義を標榜しながら、ソ連も、躍進を続ける中国も、ほとんど振り向いてくれない。中国にすれば、「西部大開発を抱えるわれわれは、北朝鮮どころではない」というわけだろう。 むろん、大国中国だけに、ある程度のことはしているが、理論面でも、「主体」(チュチェ)思想を掲げ、ひと味異なる路線でやってきた北朝鮮には、中国としても、もうひとつ近づき難い面があったとの指摘もある。 ◇ ◇ ◇
結局、経済再建には、日本・韓国・米国グループに依存するほかない。だが、韓国の場合は、ドイツにおける西独と違って、力量に乏しい。米国とは、「核」、「ミサイル」問題があって接触自体容易ではない。残るは、日本との国交正常化のほかに考えられないと、「拉致」をも思い切って表に出して、対日接近を図り、一応、橋頭堡の確保はできた。問題は、マレーシアでの国交正常化交渉を、対米関係を含めていかに手際よくこなすかであろう。 小泉訪朝以後のわが国メディアの報道ぶりをみると、「死者8人」という調査結果への反動で、やや「情緒過剰」に陥っているが、世論調査では、国民大衆は小泉首相に予想以上のポイントを与えている。 大衆受けのする行動を、テレビ画面は増幅しがちな弊もあるが、情報はわずかでも、大衆は北朝鮮の行動の背景にある状況をきちんと見ている。それゆえ、NHKの世論調査でも対北朝鮮の経済協力に、反対も4割余あったが、賛成もほぼ同数に上った。 ◇ ◇ ◇
映像報道がもてはやされ、地味な記事が片隅に追いやられがちなことも、わが国メディアの重大な欠陥。FAO(国連食糧農業機関)日本事務所(横浜市)が、北朝鮮の食料事情調査結果を8月7日付で発表し、今年11月末までの不足量は、「38万2000トン」と出しているのに、そして、「食料不足の影響は、特に子供、妊婦、授乳中の女性、高齢者」とこまかく記述しているのに、どのメディアも記事にしていないも同然。「拉致」の真相究明は当然だが、日本人らしい、キメのこまかい報道を期待したい。 |