無登録の農薬を使っていたりんご、梨、ラフランス、メロンなどが行政の指導や農協の指示で出荷停止となり大量に廃棄された。農家によっては今年の販売がゼロになった人も出ているという。
産地にとっては問題のリンゴやメロンだけでなく、そこのブランド全部がダメージを受けるので止むを得ない処置ではあるが、農家の中には使用してはいけないことを知らされず業者や、一部には農協から、よく効く薬として勧められて使ったのではなかろうか。
疑わしきものは、消費者が選択する以前に小売の段階で拒否をされる事態となっている。
販売の現場ではバイヤーから安全の証明を求められ、生産、流通のどこの段階で誰が安全を証明するか、が大きな問題となっている。
ひと昔前であれば、生食用でダメなら加工原料という方法もあった。
洗浄したり、皮をむいたり、加熱処理で安全性が科学的に証明されれば、たとえ価格は安くとも加工向けに販売できた。
現在では、加工メーカーの方がむしろ神経を尖らせている。
安全が証明できなければ売れない、というきわめて判り易い事実を目の前にして対策を立てることになるが、ここで大切なことは「何故売れないようになったのか」を生産者が充分に理解し、納得をする説明がないと、売れさえすればよいという短絡の受け止めとなる危険性がある。
さらに安全・安心のコストは高くつく。例えばBSEに端を発して農水省が進めている牛の全頭検査や、トレーサビリティ・システムも莫大なコストがかかるが、いったい誰がこのコストを負担するのかが必ずしもハッキリしないまま、当事者の責任逃れの色彩が強いままにすすめられている。
農協組織もコンプライアンスだ、安全・安心だと担当部署を設けたり、お得意の対策委員会や指導基準を作っているが、安全な農産物作りを生産者・組合員に「指導」という方法は的はずれである。
これを契機に「国産の農・畜産物は、このように安全に作りました。安心して食べて下さい」という運動をすすめることである。
日本のような気候、土地条件の農業で厳しい基準を守りながら、商品価値のあるものを作るのには技術と手間隙と経費がかかる。
単に損得勘定だけで、今流行の「市場経済」競争に勝つという考え方では長くは続かない。効率中心の生産性の数字が優先をすることとなると、安全・安心も利益を出すための手段となる。
農家の人達が信念を持って取り組んでいる努力を評価する消費者の支えと流通の仕組みがなければ事業としての発展はない。
例えばコープこうべの「フードプラン」は、「生産者・消費者双方にとってより安全な生産物を作ろう」という共通の目標に向かって、生産者と消費者がそれぞれの立場で汗をかき、収穫の喜びを共に分かち合う。このような仕組みを生協の役員が先頭に立って運動として進めていることで、事業として成功をしている。
損得勘定だけなら株式会社方式の方に軍配が上がる。が、生産者と消費者が共通する目的のために汗を流そうとなれば協同組合運動の出番だ。