JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

論壇
農業解体に追いやる制度改革


 “改革なくして成長なし”をスローガンにした小泉政権の下で、米政策改革をはじめ、農地制度の見直し、農協改革、農業委員会制度の見直し、農業災害補償制度、農業普及制度と戦後農政の骨格をなしてきた諸制度の見直しが相次いでいる。
 農業基本法から食料・農業・農村基本法へと衣替えして、農政の土台がゆるぎ始めた。それに加えてWTO農業交渉が大詰めをむかえており、BSE(狂牛病)問題を契機に食と農の再生をめぐって農政の軸足が農業・農業者から消費者へと移りつつある。
 なかでも小泉内閣の構造改革、規制緩和路線に便乗し登場したのが「構造改革特区」なるもの。
 これは、民間活力で経済を活性化させるべく、特定地域で大幅に規制を緩和するというもので、“一国二制度”的な発想でもある。財界や財界寄りの学者らによって推進されているもの。

◆「農業特区」が突破口

 農業の分野でも、株式会社の農地の取得、農業経営への参入と文字通り財界主導の農業「特区」構想である。
 さっそく臨時国会に法案が提出され、あっという間に成立した。この農業特区制度によって、農地法をはじめ農振法など農地関係法に特例を設け農地制度を骨抜きにし、この特区が拡大すると、農民的土地所有、家族経営を支えてきた農地制度が崩壊へと追いやられることになる。
 ところが農林水産省は、この構造改革「特区」にもろ手をあげて賛成している。それだけでなく、農林水産省内に2つの有識者懇談会を設けて農地制度そのものの見直しについて検討してきた。
 この有識者懇談会なるものはすでに昨年末に論点整理を行っている。ところが農林水産省や財界が期待したようにスッキリ農地改革への結論をまとめることができず、農地制度をめぐるさまざまな課題について、賛否両論を併記するにとどまっている。
 農林水産省はこの2つの懇談会の論点整理を受けて、通常国会に関係法の改正を提出する準備を進めている。
 大島農相は省内であらためて、農地制度のあり方を幅広く研究するよう指示し、抜本的見直しへ時間をかけて論議するようハッパをかけている。
 農政の根幹ともいうべき農地制度の見直しは、もともと株式会社の農地取得、農業経営への参入という財界主導のものであり、食料・農業・農村基本法制定のさいも、大きな論点となり長時間かけて意見調整をしてきた経過がある。

◆何を狙うのか財界

 財界の根強い要求があることはいうまでもないが、一体農地の所有によって財界は何を狙っているのか、高度成長の時代ならともかく、今更、もうからない農業をやるわけではあるまい。そうすると農地を取得して、一定期間がすぎれば転用することは明らかだ。
 当面は、産業廃棄物の捨て場とするなどが考えられる。それに農地法の規制をはずせば乱開発は必至で、東京、大阪、名古屋といった大都市圏では、いまでさえ土木業者の不法投棄が問題になっている。野放しになれば、農村は産廃・建設残土の捨て場所になることは必至だ。

◆農業は撤退へ追いやられる

 今でも減反による荒廃した水田、労働力不足による耕作放棄地などは大手ゼネコンの狙いどころである。株式会社の農地取得、農業への参入が実現すると地域におけるさまざまな秩序が崩れ、地域社会が崩壊することは必至だ。
 農林水産省が育成をめざす認定農業者や農業法人に農地が集中しなくなる。農地は農業の基本的な生産手段である。限られた農地が虫喰い転用され、絶対量が少なくなると、日本農業の生産力、自給率は低下する。そして日本農業は解体・撤退へと追いやられる。そうなれば農協や農業委員会はもちろん農林水産省だって生き残れるとは断言できないのではないか。

(2003.2.12)



農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp