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論壇―風 |
これまでの米生産調整の経過をみると、わが国では一定の期間を設定して実施されてきた。しかし96年度から開始された新生産調整推進対策以降は期間が短くなるだけでなく、実施期間中に新たな政策が実施されるなど、政策変更が激しくなっている。
例えば2000年度から5カ年の予定で開始された水田農業経営確立対策でも、初年度の9月には「緊急総合米対策」が決定され、翌年度からの生産調整面積は963千ヘクタールから1,010千ヘクタールに拡大された。さらに2年目には「米政策の総合的・抜本的見直しの大枠について」が発表され、最終的には生産調整に関する研究会が設置された。そして3年目の昨年にはその研究会の報告とそれに基づいた米政策改革大綱が決定されたのである。 問題はこうしためまぐるしい政策変更はなぜ行われたか、である。いろいろあるが最大の理由はWTO体制に即応すべく、米政策の一層の規制緩和と自由化を促進するためであった。そして研究会報告も含め今回の大綱はそうした一連の政策を集大成するものといえるのである。 大綱などは農業者・農業者団体主役の米需給システムの構築、第三者機関による米需給予測、計画流通米制度の廃止と米取引の場の育成、などを提示している。その一方で農業者・農業者団体には「米づくりの本来あるべき姿」を強調し、家庭用、業務用など「様々な需要に応じた」しかも「需要ごとに求められる価格」による供給を要求している。そこでは「財政負担の軽減」が改めて強調され、「産地づくり推進交付金」や「担い手経営安定対策」の創設が提示されているが、現行の対策に比べ農業者負担は増大するが、助成措置は後退した内容となっている。さらに生産目標数量を上回った米は区分処理するとはいいながら、現行の5分の1程度の低価格での処理が考えられている。しかも需給不均衡と価格低下の主な要因であるMA米には一言もふれていないのである。 こうした内容は、これまで不十分ながらも一定の責任で行ってきた米政策から政府が手を引き、一層の「民営化」を目指したもので、生産調整や価格および計画流通米制度に顕在化している諸矛盾のすべてを農業者・農業者団体の責任に転嫁して解決しようとすることを意味する。大綱では、「国及び地方公共団体の役割を食糧法上に位置づける」としているが、米政策で国の役割を重視するのであれば、すくなくとも現行食糧法をわざわざ改定する必要がないのである。 もちろん、現在のわが国の農業政策において農業者・農業者団体の自主性や主体的取り組みを強調することは重要である。経済界などからの農協批判が強まっている現在、そのことはいくら強調してもしすぎることはない。 しかしそのことと米政策を農業者・農業者団体主役に転換することとは意味が異なっている。明治以降の米政策の歴史をみると、1921年の米穀法ではじめて米の需給を調節するため、政府が「米の買入、売渡、交換、加工または貯蔵」ができるよう法律上明記された。しかし独自の価格規定がなかったため、1931年には法律の目的にわざわざ「市価の調節」を付け加え、米の需給と価格の安定における政府の責任を一層明確にしたのである。これは自由流通のままでは米が投機の対象として買いだめ、売り惜しみが行われ、需給と価格が不安定となったからである。 わが国における米をめぐる状況は当時とは根本的に変化し、米の地位は低下した。しかしそれでも米は依然として生産と消費の分野で主食として重要な地位を保っていることは衆人の認めるところである。 それにもかかわらず米政策における政府の責任と役割を縮小し、「民営化」を進めることは米穀法以来の米政策の転換であるだけでなく、国民に対し安定した価格で安定的に米を供給することにもならないのである。もちろん食料自給率の向上や大綱のいう危機管理体制の整備も困難になることを銘記すべきであろう。(2003.2.24) |