微生物製剤による「土づくり研究会」が、2月20〜21日栃木県芳賀郡で行われた。北海道、新潟、長野、群馬などから菌耕農法の実践農家30人近くが栃木県に集合したのは菌耕農法を始めて4年目のトマト農家Oさん(50才)のハウスを視察することも目的の一つであった。
野菜・果実のおいしい本来の味を取り戻したいと思ったのが、菌耕農法に取り組む動機だったとOさんはいう。JAの仲間に話したら、そんなにめんどうなことをやりたいなら自分でやったらどうかと言われリスク覚悟で一人で始めた。美味しいトマトは結局、土づくりにあることを悟り、販売ルートもその味を評価してくれるところへ持って行くことにした。
◆微生物を利用した土づくり
自分で電車に乗り販路を開拓した。サンプル持参した箱の中から、買人は無作為にトマトを取り出し、その場で味見し評価を下した。生産者のOさんは「まな板の鯉でした」と当時を振り返る。良いものを作らないといけないと心に誓った。JAS法で定められた有機トマトの基準はハードルが高くて普通の農家では、とても作れない。しかし、Oさんの栽培方法は低農薬、低化学肥料で、ほとんど有機栽培に近いし、将来は有機栽培を上回るかもしれない品質にプライドを持っている。
Oさんのハウス栽培は9月下旬にハウス桃太郎という品種を定植し、12月下旬から6月下旬まで収穫する。30アールのハウス面積に約4500本の苗木が並ぶ。それが2棟ある。週に2〜3日パート従業員2人を雇って、1日1万個のトマトの収穫をする。土づくりの基本は、定植前に、緑肥、わら、もみがら等を微生物製剤とともに鋤き込む。およそ水分65%、土中温度15度の条件で菌が、緑肥、もみがらなどの繊維質をエサにして、土の中で立ち上がり活発に動き出す。その時分泌するリポペプタイドという物質が良い腐植をつくり、粘土と一緒になって、微粒子の団粒をたくさんつくり出すという。作物の根を強くし、養分吸収を容易にする。肥料は使うが、土壌消毒の農薬は菌を殺すからやらない。この方法で4年間連作障害はない。
◆量から質への転換を
トマトの廃枝葉を従来は8月頃、焼いていたのに、1昨年からハウスの土の中に微生物製剤と共に鋤き込むことにした。廃枝葉を野外で焼かなくなり煙は出ないし、近所からは苦情も来ない。土の中に土中堆肥ができて、省力的でもある。
土壌改良の結果、糖度があがり糖酸バランスのよいトマトが穫れる。JAの仲間と一緒に共同出荷もするが、JAルートは良質トマトでも値段の安い方に合わされるので割に合わないという。
Oさんのトマトは糖度が7度から10度近い。独自に開拓したスーパーやデパートでは糖度を評価し高く買ってくれるので、大部分をそちらに出荷する。普通の農家は流通を知らな過ぎる。簡単に量をとる技術だけを教えられて来て、農家は可哀想だと嘆息する。JAは微生物を扱う菌耕農法の推進には冷淡だ。試験管、試験圃場では良い結果が出せても、気候風土の条件が違う畑や田んぼでは、目論見どおりの効果を計れないというのが主な理由である。新しい栽培技術にチャレンジする体質でないし、勉強不足ともいえる。
◆JAこそメリットに注目すべき
「土づくり研究会」での実践農家の報告では、菌耕農法によればアブラ菜科に根こぶ病が出なくなった(北海道の農家・2年目)。コメでは天候条件に左右されず、毎年全量1等米が取れるようになった、味がよく産直でコメが売れるようになった(新潟農家・6年目)。レタスで連作障害を回避できた(長野・3年目)。トルコギキョウで花の色が鮮やかになり日持ちがよく、市場評価も上がった(福島・1年)等という報告がなされた。29才〜73才までの実践専業農家は、熱心に研究会の2日間を過ごした。悪い菌の活動を抑えて、いわゆる土中の菌相バランスを豊かにする農業である。土の中の悪い菌は全部殺すという近代農業の考え方がおかしいのではないかと、消費者から菌耕農法への応援発言もあった。草の根の活動で、畑や田んぼでは新しい風が吹く。(2003.3.6)