農業協同組合新聞 JACOM
 
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論壇
メディアが映す総選挙


 衆議院が解散された。約3年半ぶりの総選挙である。国民のくらしや、この国のあり方にとっても、農業・農協のこれからにとっても、大切な政治選択の機会である。選挙の様相をマスメディアはどう報じているのだろう。解散翌日の主要紙に、トップ見出しを拾った。
 “「小泉改革」是非を問う(読売)”、“「自民VS民主」軸に(毎日)”、“「政権選択」訴え対決(朝日)”、“政権選ぶ「マニフェスト」選挙(東京)”――。新聞でもテレビでも、自民・民主両党の対決の図式が報じられ、二大政党制への期待が熱く語られている。「これはまさに日本政界の四つ相撲であり、…無党派層にとっては、初の実質的な『政権選択』の機会」(朝日)とまで語る識者もいる。「マニフェスト」(政権公約)は、この期待劇の舞台を飾る格好の大道具となっている。しかし、ここは冷静な実相分析が必要である。10年前にもメディアがもてはやした“自民VS非自民”の対決があった。その教訓もあったはずである。

“自民VS民主”対決の中身

 政権公約は、名前のカッコ良さではなく、やはり中身だろう。自民党は小泉「改革」推進を公約した。当然だろう。グローバル時代の競争力強化を、アメリカ流市場主義によって進めるのが小泉「改革」。徹底した競争と効率追求の弱肉強食政治が、必然的に弱者の「痛み」をひろげ、社会の不安をつのらせている。
 この「改革」を非とする共産党は、財政・経済ルール・日米関係の大枠を変えて、大企業応援ではなく、くらし応援に転換する「改革」をめざすと公約した。一方、民主党は小泉「改革」を手ぬるいとして、改革の速度と手法を自民党と競う立場である。四つ相撲でがっぷり自民党と対決しているとはいえない。
 財界が先導して提唱し、急速に争点化した消費税引き上げでの対決はどうか。自民党は、政権公約で「国民的論議を行い、結論を得る」とし、小泉首相は「在任中は上げない」としつつ、引き上げの“地ならし”を進める立場は明白だ。片や民主党は「マニフェスト」で、年金財源に消費税をあてると明記。幹部の発言では「将来、10%になることもある」という。財界の政策目標に沿ったこの両党対決、財界は両党の優劣判定に迷うかも知れないが、くらしを賭けた国民の方は、選択肢を得たことにはならないだろう。同じく大争点となってきた憲法問題では、再来年までに「改正案」をつくり、改憲に「大きく踏み出す」と公約した自民党に対して、“論憲から創憲へ”と呼応する民主党である。総じて、大きな争点を中身で吟味すれば、くらしや国のあり方をめぐって、自民・民主両党が対抗軸をつくっているとはいえない。対抗軸の正しい提示は、メディアの役割でもある。

争点の明確化、政策吟味が大切だ

 農業問題では、自民党が「やる気と能力のある農業経営を後押しします」と政権公約。しかし、これではいま焦眉となっている担い手問題への回答にすらならない。選挙で各党が争うべきは、どのような政策手段で生産者のやる気と能力を高め、助けるかではないか。輸入自由化への態度、農産物の価格保障の具体策などが各党に問われている。その点で、報道されている次の発言に付言せざるを得ない。「たった1.5%の農家を保護するために、FTA(自由貿易協定)を拒んでいるのが今の日本政府。…農業こそがまさに規制緩和、民間を参入させて伸ばしていく、そして荒波に放り込まなければいけない産業…」これは民主党、前原誠司氏の発言(14日)。大事な争点での、政策吟味抜きの“政権選択”は危険だという教訓がある。悔いのない選択をしたい。

(2003.10.23)



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