「エコノミスト」創刊80周年記念企画で10月7、14、21日号の3回にわたってセブン−イレブンの鈴木会長へのインタビュー記事が載った。
セブン−イレブンの歴史と鈴木会長の経営哲学が分かり易く語られている。そのなかで、死に筋と売れ筋の定義というくだりで如何にして死に筋商品の排除をするかの例として次のように話しておられる。少し長いが引用をすると
「今は、天候次第で果物の仕入れを変えております。例えば桃というと、岡山とか山梨とか、代表的な産地がありますね。仮に、岡山の業者と産地直送で契約をしていたとしましょう。仕入れの3日前までに岡山の天候が悪くて日照時間が少なくて、山梨の方が天気が良かったら、岡山はやめて、山梨から仕入れなくちゃあいけない。そうすると、チェーンストアーというのは、物流センターのような大きな施設を持つべきではない。(中略)アメリカは、農業地帯の西海岸で採れたものを広い国土に大量に運ぶ、それが売れる。それを前提とするシステムなんですね。ところが日本は違う。アメリカはアメリカで通用するシステムもありますし、日本は、日本でしか通用しないシステムもあります」。
◆需要と供給を調整するのは誰か
では、3日前まで天気が悪くてキャンセルをされた岡山の桃はどこで売るかである。大手の量販店は桃のような短期決戦の季節商品はシーズン前から計画的な仕入れをしているのでとても相手にされない。
幸いなことに、日本には鈴木会長がここでいわれているような物流センターは、卸と物流の機能を兼ね備えた卸売市場と農協の共同販売が担っている。
岡山の桃は、農協が日本中の卸売市場のなかで最も高く売れるところへ出荷をすることで品質に見合った相場で販売ができる仕組みができている。
生産者が直接量販店など実需者と契約をしたり、インターネットでの販売など流通チャネルの多様化も結構だし、「売れる商品作り」への努力目標がはっきりすることで全体のレベルが上がることは大切なことである。
一方、販売の現場では鈴木会長のいわれているような死に筋の排除がPOSによって情け容赦なしに行われているし、対応ができなければ輸入品で穴埋めされている。
開発途上国はもとより先進国でも、卸売市場や農協組織が十分に機能をしていない国の農産物の流通は、巨大なバイイングパワーを持ったスーパーマーケット、外食産業等の買い手や流通業者から見ればまことに都合の良い流通の仕組みとはなっていても、生産者は大規模であれば大きなリスクを背負い、小規模は売り先が不安定でどちらも販売には大変な苦労をしている。
卸売市場や農協組織による共同販売という太いパイプがあり、品質に見合った相場で全部が間違いなく販売でき、代金も確実に入るという日本の仕組みは外国の農家から見ればまことにうらやましい仕組みとなっている。
卸売市場も農協の販売事業も改革が叫ばれているが、誰にとって都合が良いのか悪いのか、構造改革のキャッチフレーズに踊らず、現場で起きている実態をよく見て改革を進めることが必要である。
農産物の天候次第は技術をもってしても克服できない。情報技術を駆使して死に筋と売れ筋による仕入れで利益を確保しようとする経営方式との落差を、個々の農家が埋めることは負担とリスクが大きすぎる。