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シリーズ 生協―21世紀の経営構造改革−−5
生活クラブ生協理事長・池田徹氏に聞く |
千葉県はもっとも激しい流通激戦区である。敢えて八街市に「風の村」という高齢者福祉施設をオープン。かたや事業・組織の全面的改革に取り組む。組合員3.3万人、供給高83億円から、福祉事業を含めた未踏の事業構造改革をめざす決意を聞いた(今野)。 |
◆生協運動への感動から千葉地区へ
今野 1973年の11月2日は関西で石油パニックがおこり、トイレットペーパー騒動が起きた時でした。まずその頃のことからお話いただけますか。 池田 生活クラブ・東京の砧支部で牛乳配達をしていました。その2年前から地域運動誌の編集・事務局をしていて縁ができ、秋11月にはこの生協に就職しました。取材したときは学生運動が退潮期だったし、地域に根ざした運動に興味を持っていたので、岩根邦雄・初代理事長の話に惹かれました。 今野 それから昭和51年に千葉県に落下傘された。 池田 流山生協準備会がすでにありまして、既存の生協を調べたら、創立の理念に近いのは生活クラブだと。支援要請があり、名前も生活クラブ生協準備会に変更。私が51年4月に派遣された時は800人になっていました。こうして4番目の首都圏生活クラブ生協になりました。 今野 当時の流山は大変動だったでしょうね。 池田 すでに柏市、それに少し境界線の松戸市が入っていました。いずれも千葉都民が急増し、地域の構造が一挙に変わっていった地域です。 今野 それから一挙に千葉県全域に広がったわけですね。スーパーの側だってそうですよ。 池田 あと1、2年遅れていたら、駄目だったでしょうね。千葉県の地域生協はだいたいこの時期までに活動を始めています。そんな中で、今年25周年を迎えた訳です。 ◆女性が働く時代
今野 構造改革の展開は、総会決定後どう進んでいますか。 池田 女性全体が大きく変わると予測をしているのです。ライフスタイルの変化、それによる組合員の将来像、結局男も女も働くようになるという基本的な問題意識があります。過去30年間、主婦専業層が生協を引っ張ってきましたが、その構造が崩壊しようとしている。2050年には人口が1億人を割る。国の税制まで含めた改革になる。組合員活動のありかたは大きく変わるでしょう。この時組合員と専従集団が組合員主権をどう共有できるのか。言い換えれば、主権が共有されるような組合活動がどう実現できるか。活動が形骸化したら終わりです。今次の中計では経営と運動を分離し、経営は専従職員が責任を持ち、運動は組合員が担う、それを理事会が統合する、という方針です。まだ1年目ですが、組合員の役割、専従の任務が相当はっきりしてきました。次の世代の活動をある程度予感させるものになってきたという実感はあります。 ◆経営の真ん中に座りたい組合員と共に 今野 “生協卒業主婦“がスーパーに主婦アドバイザー風に活用されている。聞くと、自分を生かしてくれなかったから、と。つまり経営の中枢に座りたかったということでしょうか。 池田 生活クラブ理念は女性組合員が経営の中枢に座ると言ってきた。だが実際にはそうではない。昨年供給高は前年割れの中、経常剰余(ネット)は大幅改善された。つまり、利用と拡大という2本柱で経営を担うと言ってきたが、現実の経営は入る金と出る金のトータルなマネージメントで行われる。組合員はそこまで関わりきれない。これでは組合員主権がごまかしなんだという意見です。ならばはっきり分けて、組合員の権限行使部分と委譲部分と明確にした方がいいと、運動と経営との分離、となったんです。 ◆Iコープとデポー事業を改革する 今野 Iコープという個配事業にはどんな転換がありますか。 今野 もっと早く実行すれば伸びたということですか。 池田 共同購入による協同とはこうだとして、理念に反することはやらないのがいままでの経過。これからは協同のあり方は変わっていくべきだと。システムを便利にすることは共同購入理念に反することではない、というコンセンサスがようやくできたということ。ただし班に依拠してきた協同のロイヤリテイが根底的に揺らぐ危険性はあります。ですから並行的に組合員の参加の仕方を、次世代組合員の生協参加のありようとして組み替えて行かないと駄目です。それができれば、個配の激増は新しい組合員像を創っていくことになるでしょう。 今野 デポー(小型店舗)はどう展望されますか。 池田 班、個配、デポーという区分よりは協同組合らしさとはなんだということに尽きる。買うことによって関われるデポー。それをライフスタルとして選択する。そこにある協同組合のロイヤリティということでしよう。打ち出すコンセプトの問題になる。このデポーを選んでいる、この生協を選んでいるという関係なのです。そういうものができるのかどうか。デポーは益々面白い方法です。要するに日本の生協がどの土俵で勝負しようとするのか。明確に価値観で対決しながらです。地域の過半数を組織することにこだわらない面白い「コンセプト・ショップ」にしたい。 今野 簡単・便利・自由というコンビニとの対比では、どうなりますか。 池田 古来「市場」が人と物の交流の場です。市場で物を買う「買い物」という行為は、人間の遺伝子に刷りこまれています。「店」での勝負は避けられません。 今野 ただし顧客満足のために、組合員の顧客化が始まる。それに対して参加・主権がどうなりますかね。 池田 主権のあり方、参加のあり方を組み替えていくのは店舗でも同様でしょう。 ◆福祉を含む協同組合のコミュニテイ・ビジネスこそ 今野 高齢者福祉施設「風の村」は八街市当局とどんな関係ですか。 池田 特に強いつながりはありません。農協との取引もありません。 今野 秋田県鷹巣町は福祉学校まで構想していますよ。 池田 そうですか。厚生労働省は来年度以降、「新型特養」という制度で個室型に進む。数年後は新設特養が全て個室になる。「風の村」がそのモデルです。来年8月には幕張でユニットケア全国セミナーが計画されており、私が実行委員長を努めます。施設福祉の今後のあり方について社会にメッセージを発していきたいと考えています。生協本体のホームヘルプ事業でも「在宅介護の安心・安全」のスタンダードづくりに貢献していきたいと考えています。 今野 この間主張されてきたコミュニテイ・ビジネスの展望をどう考えますか。 池田 私は、地域の人が働く、地域に貢献する事業を行う、利益を地域に還元する(コミュニティファンドの創出)、という3つを兼ね備えた事業をコミュニティビジネスと規定します。福祉分野に限りません。3条件を満たした事業をその法人形態にかかわりなく「コミュニティ・ビジネス」として税制優遇などを行ったらどうか。生協・協同組合は、その法人形態のみで社会的な価値を主張することはできない。コミュニティへの具体的な貢献で自らの価値を証明しないといけない。 ◆自給する農業のために 今野 最後に農業・農協へのメッセージを。 池田 日本農業全体の再生というようなことは半分興味を失った。 今野 ザッツ・国産運動をやっているのにですか。 池田 莫大な貿易黒字でつくってきた生活。それに依拠して農業も農民も農協もある。その構造をそのままにして、自給力問題では駄目。だから目の見える範囲で、生活の見直しを農民・農協に提案していくというところでしょう。惨憺たる自給力低下に対しては、われわれの抵抗も微々たるものでしょう。やや暗澹たる感じなんですよ。 今野 農業そのものから農業者の生活哲学まで問われましたね。千葉県にも三里塚を含めて、多くの農業哲学者がいますから。 |