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シリーズ この人に聞く 参議院選挙・農政の焦点――5

   

経営安定策を基軸とした農政への転換を

保守党 参議院議員
(保守党参議院政調会長/農林・環境部会会長)
入澤 肇 氏

  聞き手: 後藤 光蔵 武蔵大学教授


 今回から与党3党の農業政策を聞いていく。保守党の参議院議員、入澤肇氏は基盤整備事業を早急に実施し、農政の中心を経営安定対策に切り換えるべきだと強調。また、米の生産調整については、「土づくり減反」制度を導入して国内農産物の品質向上をはかる道も探るべきだと指摘している。

−−市場原理の導入という方向で農業政策の改革が行われてきましたが、米をはじめ農産物価格が下落して本来育てるべき経営が困難に陥っています。

 「米価下落の原因は、全体として消費量が減っていることが大きいと思いますね。家計消費、農業総生産、農家所得に占める米の位置づけ、この3つの指標をみるとかつてはウエイトが3分の1あったものがどんどん減って、その過程で市場原理を導入すれば価格下落は必然だと思います。
 そのなかで米の需給調整をすることが必要ですが、減反を4割、5割などというのではなく、あるべき作物の組み合わせを考えなくてはならない。認定農家制度をつくるときに生涯所得という考え方を導入しましたが、生涯所得という観点からも作物の最適組み合わせは必要になってくる。そこをもっと考える必要があると思います」

−−市場に反応しながら生産のあり方を考えていくという部分と同時に、米の需給安定については国の役割も大切だと思いますが。

 「農産物供給の安定はマクロ的にみれば国家の責務です。なかんずく米はウエイトが高いから国が関与して大きな責任を持つことは間違いない。しかし、その手法をどうするかということで見解が違ってくるのではないでしょうか」

−−たとえば、備蓄のあり方とかMA米の処理の問題など国が関与すべきことは相当あると思いますが。

 「食料の安定供給という観点からはたとえば備蓄米は必要になってきます。ただ、今まで丸抱えだった米対策から政府はどの部分で責任を持つべきかということを明確にして、それだけは絶対守るということが必要ですね。こういうと備蓄だけやればいいじゃないかという議論が出てくるけれども、そうではない。私は経営安定対策をきちんとやることが政府の責任だと思います」

−−その経営安定対策については政府でも議論が始まっています。どう評価されますか。

 「私は失われた6年と言っていますが、本当はウルグアイ・ラウンド対策費6兆100億円を有効に使って、早く欧米並みに農業経営に基盤を置いた農政に切り換えなくてはいけなかったんです。米国、EUとも農業総予算の4割を農業経営の安定、価格政策、所得政策に使っているわけです。日本の場合には1割にも満たないでしょう。それは基盤整備が非常に遅れたためにまだそこにウエイトがかかっているからです。6年間でどれだけ実績を上げたのかを調べたら、水田の整備率で53、4%、畑地帯の整備率は4割ちょっとで非常にがっかりしました。
 ですから、可能な限り仕掛かり地域の基盤整備を早く完成させ、機械も入れられて営農設計が自由自在にできるように農業経営の前提条件をしっかり整備するというのが、現時点における農業政策の第一です。もちろん基盤整備事業はその後も必要です。農地の維持、補修も必要だし水不足も懸念されますからね。水の確保供給は農水省の大きな役割です。
 そのうえで経営対策をどうするか。
 その際、私は米の生産調整について、土づくり減反を基本のおくべきではないかと思っています。わが国がいくら努力しても自給率は5割程度でしょう。残りの5割は海外から安定的に輸入しなければなりません。そのためには国是として、平和国家、つまり日本に安定的に食料が入ってくるシステムを堅持しなくてはいけない。
 一方で日本の農産物が消費者に理解される必要もある。それには良質、新鮮、安全という言葉で表現される国産農産物の生産体制を堅持しなくてはなりませんが、その基本は土づくりなんですよ。
 私は、水田でも畑でも農地には耐用年数があるということを農政の基本に置かなくてはいけないと主張してきました。水田、畑の1割は土づくりのために減反する、そのうえに需給調整のための減反を1割上乗せするか、2割上乗せするかという問題だと思います。
 あくまでも需給調整のための減反割合は最小限にして、米が出来すぎて価格が下がるなら他用途転用するとか、それでも所得が十分でない場合は経営安定資金を設けて対応する。その場合、今後は、平場の農家でも継続的に意欲を持つ専業的な生産者についてはやはり所得安定のための仕組みが講じられてしかるべきだと思います。
 兼業農家ももちろん大事なんですが、できるだけ専業的な農家、あるいは集落営農に土地を渡した地域ぐるみでの営農設計のなかで、農地の利活用をフル回転させるという条件整備をすることが必要だと思いますね。
自民党と農水省で新たな農業経営所得安定対策が検討されていますが、ポイントは耕作放棄地、遊休地を解消しフルに生産地として燃焼させる仕組みが内在されるかどうかです」

−−経営安定対策をめぐっては施策を集中させるべきという意見もありますが、一方でそれで自給率を上げることが可能かという議論もあります。

 「私は自給率というよりも自給力を段階的に上げていくことが必要だと思っています。自給力とは何かといえば、やはり農地の生産力の向上、担い手の育成、ということです。そこにもっと力を入れるべきで、耕作放棄地を含めてきちんと第一線の生産現場にこのことを徹底させることが大事じゃないか。自給率目標を掲げるより自給力の確保ということで運動論を起こすほうがずっといいですよ」

−−多様な担い手が必要との意見もあります。

 「自給力確保を何も40万の農家に全部担ってもらうということではありません。ある地域は専業的な農家だけで生産を行うからそのかわり兼業農家は土地を提供する、また、ある地域は集落営農でやるという方法あるでしょう。何も一つに絞ることはないんです。
 ただ、重要なことは、きちんとした所得目標ときちんとした土地利用計画なんです。そこが押さえられていない多様な担い手論は吹き飛んでしまうと思います」

−−経営安定対策とともに価格政策も組み合わせる必要があるという意見もあります。

 「農家の経営安定対策には3つの手段があると考えています。災害対策として共済制度を強化すること、それから、通常の価格変動に対しての価格安定対策。さらに経営安定対策ですが、これはまた別の次元の話なんです。価格の変動にかかわらず意欲的な農家が来年また農業生産に安心して取り組める最低限の所得の確保が可能になる対策のことです。この3重のセーフティーネットをつくるべきなんです。
 市場原理導入など改革を進めるといってもセーフティーネットの張り方が大切なんです。最初は手厚くして慣れてきたら徐々に減らしていくという段階的な改革の方法もあるわけですね」

−−経営政策に重点を置くための前提として基盤整備を早急に進めるべきとのことですが、生産者の負担が問題になります。国が助成して負担はゼロにすべきとの意見もありますが。

 「それは当然だと思いますが、ただその場合は義務も生じるわけですね。農地法は、農地は耕作する者が所有することがもっとも妥当と書いてありますが、にもかかわらず耕作の義務づけはない。だから、本来は耕作の義務づけをすることも必要ではないか。それによって、もっと大胆に専業的、意欲的な農家に農地を集積することもできるということです」

−−WTO農業交渉には日本はどう臨むべきでしょうか。

 「農業にはそれぞれの国で特徴があるという主張をまずしなければなりません。大陸型農業とモンスーン地帯の農業では違うわけですから。そのために可能な限りの人材を投入して総力戦で当たり前のことを当たり前のこととして認識させる交渉をやるべきです。それがWTO交渉の最大の課題です。
 「青」とか「黄」の政策という規定は最低のシビルミニマムなんです。それは守るけれども、それ以外はそれぞれの国の独自の政策をやっていい。食料安全保障のために農業を産業として継続させるにはやはりその国の制約条件を克服する独自の政策体系をとることが必要なんです。貿易を歪めることにならないようにといいますが、日本は自給率45%という控えめな目標です。だから、どんなことをやってもそう貿易を歪曲するようなことになるはずがないんですよ。グローバル化が進むなかで専業的な意欲と能力のある農家をいかに守っていくか、これについて堂々と独自の政策を主張すべきだと思いますね」


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