公明党は6月はじめ参議院選挙に向けた農政の公約を公表した。食料自給率を50%に向上させること、意欲ある担い手に対する直接所得補償制度の新設、農業収入安定化のための総合的な保障制度の新たな導入、公共事業の予算の抜本的な見直しなどを掲げている。同党の農林水産副部会長の渡辺孝男氏に聞いた。
−−最初に今回の公約のポイントを説明していただき、公明党の農業、食料政策の特徴をお話いただけますか。
「公明党はこれまで国政レベルではどちらかといえば都市型政党と言われてきましたが、今回はやはり与党の一員として責任を果たそうと農業問題プロジェクトチームも設けて政策をまとめました。
検討に際しては生産者からもお話を伺ったわけですが、やはり水田農業については減反が限界にきており、なかでも専業農家が経営的に大変な状況になっていることが問題ですね。
そこでわれわれの考える政策のポイントは、これからは農業を主体的に担っている方々の所得補償をしていかなければならないということです。農水省予算では基盤整備事業の予算が多くを占めますが、なるべく農業者の所得に貢献できるよう予算編成をしていくべきだと考えています。
そのためにも農林水産関係の公共事業を見直し無駄がないかどうか点検して農家の直接所得補償につながるような形の農政に転換していこうと。そこがいちばんメインの政策です。
そのほか、公明党が従来から主張している環境重視の立場から、環境保全型農業を21世紀の日本農業として支援していこうという方針も掲げました。そのため直接支払い制度については中山間地域だけでなく環境保全型農業をやっているような方々にも対象を広げていこうと考えています。
それから、総合的な所得保障については、共済制度の充実と品目ごとの価格支持制度を当面は充実していくべきと考えておりますが、同時に将来は共済制度も含めて農業経営全体の所得保障制度をつくり、急激な価格変動で農家があまり痛手を被らないような仕組みの導入を考えています。
こうした政策を展開するなかで、われわれは食料自給率45%を基本計画よりも前倒しで達成し、できるだけ早く50%まで回復させることを打ち出しました」
−−現場もずいぶん歩かれたそうですが、やはり生産者は米価下落に相当苦しんでいると思います。その原因についてはどうお考えですか。
「基本的にはやはり米の消費が少なくなってきているわけですから消費者の米離れがあり、その一方で生産技術は進歩し生産能力は上がっている。そのため需給のバランスが崩れてきていることが原因だと思います。
そのバランスをとるためには米を中心とした日本型食生活の重要性や価値を啓蒙して、米をもっと食べていただけるようにしなければならないと思います。野菜にしても国内の新鮮で安全なものを食べようと。ですから、消費について啓蒙して需給バランスをとることも大切だと思っています。
それからミニマム・アクセス米の問題もありますが、現在、わが国は米余りの状況なんですから、WTO交渉でやはり削減の方向で交渉していこうと思っています。また、MA米が主食として出回っているのではないかという懸念もありますので、主食用に回さないという約束をきちんと徹底してもらうことも訴えていきます」
|
後藤光蔵 武蔵大学教授 |
−−米の消費と生産のギャップはかなり以前から続いていたことですが、そのような状況で新食糧法が施行され、結局、米価下落が起き育てるべきとされた中核的な農家が打撃を受けているわけですね。今後の政策としてどのような方向をお考えですか。
「われわれとしては、これからは農地の団地化とか意欲のある農家に優良農地を集約するなどして、外国と太刀打ちできるぐらいの効率性の良い稲作をしていただくべきだと考えています。その一方、中山間地域や条件不利地域の農業については別立てで、たとえば、環境保全の観点から主に支援していくと。
まだまだ農地が有効に集約されていないところもありますので、まずそこを改善していく。その上で、水田の耕作放棄を防ぐためにも今は国として転作を奨励していかざるを得ない状況ですが、ある程度まで需給のバランスがとれるようになったら、あとは生産者に市場原理を考慮してもらい、国が一律にこう減反しなさいというのではなく、自主努力によってどれくらい生産していくか、ある程度判断できるところまでもっていかなくてはならないと思っています
」
−−そのような政策方向からすると現在検討されている新たな経営所得安定対策はどのような政策であるべきとお考えですか。
「最初に触れましたようにわれわれも将来は総合的な所得保証制度をきちんとやる必要があると考えています。品目ごとの対策だけでは限界がありわが党としても政府の検討に期待し、また発言もしていきたいと考えています。
その場合、やはり農業を主業として生計を立てていこうとしている方に施策を集中していくことが大事だと思っています。そのような生産者が今いちばん不安定で悩みが大きいということですからね。
規模拡大、あるいは法人化による多様な方々の参入によって自給率の向上にも資するような形にしなければなりません」
−−基本的には中心的な担い手を育て、それ以外の担い手は別の施策で対応していくと考えられているわけですね。
「そうですね。条件不利地域に対する施策や環境保全に関わる問題は別の考え方で支援をしていこうということです」
−−野菜のセーフガード発動についてはどう考えておられますか。
「急激な輸入の増加であまりにも国内産の価格が下がり、これはもうやむを得ないということだと思います。そうでなければ国内の野菜生産農家は壊滅的なダメージを受けてまさに自給率向上は望めなくなってしまう。暫定措置から本発動に移行するかどうかは、やはり二国間で協議をしていくことが大事であってお互いに妥協点が見出されば本発動に至らないかもしれませんが、今回のように適時にセーフガードを発動していくことは今後もすべきであろうと考えています。
もちろん自由貿易の維持は大前提ですから、やはり国内生産の効率性を向上させていかなくてはなりません。発動期間内に外国と競争ができるくらいに国内基盤をいかに強くしていくか、その対策を当然立てなければなりません」
−−短期間で国内の構造を変えることができるのかという問題もあると思います。
「もちろん各国農業には違いがありますから、食料安全保障という面も踏まえてその国の農業の特徴というものもお互いによく理解することも大切です。ですから、WTO交渉のなかで、多面的機能や食料安全保障を重視している国があることを主張し、さらに多面的機能フレンズ国や開発途上国など日本と同じ悩みを持っている国と連携して貿易ルールそのものも変更していくことも必要だと思います。
消費者の方々にご理解いただきたいのは、国内で自給率を上げていくことが長い目でみると食料の安全保障につながってくるということです。国として将来も生産基盤を確保していくことは大切であり、そのことを知らせる啓蒙的な活動も大事だと持っています」
−−WTO交渉では食料安全保障などを重視して貿易ルールの改訂を求めていくべきだいうことですね。
「飢餓に陥っている方々が世界的にみればものすごく多いわけです。それを貿易だけ捉えて生産能力が十分ある国が十分に作れないといった状態にするのではなく、たとえば、食料を十分に作れるところは十分に作って、援助に回すなど違った観点が必要ではないかということです。一国だけではなく世界的な食料安全保障を考えていくための食料支援についても主張していく必要があると思いますね。ただ単に市場原理ではなく、人道的な立場での支援も含めて考えるということです」
−−そうした考えを国内でも実現するには、価格政策が必要だとの意見もありますが、これまでのお話を伺っていますと公明党としては、農業政策の基本は市場原理を貫く方向で考えるという理解でよろしいでしょうか。
「そうですね。繰り返しになりますが、農業を主業とした人が規模拡大をしていく、あるいは効率化を図るために法人化をすることなどを支援をしていこうということです。やはり市場原理に基づいて農業者の方が経営判断されることを重視していくということです。米の生産にしても、この地域ではこれだけ転作したほうが農家の総合的な所得を確保するには大事だ、というよう動きが自発的に出てくることが望ましいと考えています」