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シリーズ この人に聞く 参議院選挙・農政の焦点――7

   

農山漁村を元気にするのが
農林水産行政


自由民主党衆議院議員
(自由民主党農林水産部会長)
金田英行氏


  聞き手: 後藤 光蔵 武蔵大学教授


 参議院議員選挙は7月12日に公示、29日の投票が正式に決まった。「改革断行」を掲げる小泉政権のもとでの選挙であり、厳しい環境にある農業、農村も今後の「改革」の中身を問う選択の機会としなければならないだろう。シリーズ最終回は、農政の政策決定に大きく関与してきた自由民主党。前内閣の農水政務官でこのほど党農林水産部会長に就任した金田英行氏に聞いた。

◆政治は痛みがないとなかなか動けない

−−これまで農政改革が進められてきましたが、その基本はやはり農業にも市場原理を貫徹しようというところにあったと思います。ただし、市場原理では勝者と敗者があり、また、国際的にも競争が激化しますから、その状況にふさわしいセーフティネットがセッ トで導入されなければならなかったと思います。
 しかし、現実は米価が下落し、育成すべきだとされた生産者がもっとも苦境に陥り、現在は、やはり所得対策が必要だという議論になっていますね。どうも政策が後追いになっているという印象を受けます。

 「確かに米については、関税化に移行し国際的にも完全自由化をしました。ウルグアイ・ラウンド合意のときには、私も米は一粒たりとも入れるな、と国会でも座り込んだが、ミニマム・アクセス米を受け入れることが決まった。
 ところが、それがどんどん増えてきて、いくら国内産に影響させないといってもやはり影響が出てくる。そういった状況のなかで、やはりこれではだめだと関税化しミニマム・アクセス米の増加の抑えたわけです。
 おおぜいの生産者や関係者がいて、野党もいて、そういうなかで責任政党自民党が結論を出すには、やはり痛みがある程度分かって、これは大変だという問題意識が高まらないと。市場原理を導入すればこうなることは分かっていたではないかと言われても、政治というのはある程度、痛みが出てこれは大変だという事態がないとなかなか動かない。これは自民党が間違っているということじゃないと思うね」

◆額に汗する農家が報われる仕組みを

−−今後は、経営所得安定対策の検討が課題になるわけですね。今の段階では40万の経営体に対象を定め、相当厚い対策を実施しようと考えているのでしょうか。

 「予算がどれだけ準備できるかという問題があります。保険制度にするかどうかまだ決まったわけではありませんが、たとえばそうなったとしても保険会社が保険を設計するようなわけにはいきませんからね。膨大な保険料を徴収するような制度なら所得保証政策になりませんから、予算をどれだけつぎ込めるかになる。ただ、農水省予算の3兆5000億円をガラガラポンしてでも必要な予算を確保しようと考えています。何千億円かかるのか、その額によってどの程度の手厚い保証ができるのかということになりますが、生産者に喜んでもらえるものでなければ意味がないです。
 それとこの問題でもう1つ言っておきたいのは、われわれは惰農を育てるつもりはないということです。これだけ補助金を出すから米を作らないでくれ、という予算では何ら農政にとってプラスではない。今、力を入れている麦、大豆対策も本作として取り組んでほしいということですから、この所得保証制度もよりがんばった人にはだんだん保証額が上がっていくと。よし今度は花でもやってみるか、メロンでも作ってみるか、というようにがんばった農家は翌年の保証額が上がるというように、額に汗する農家が報われる仕組みを考えなければならない。これは国民のコンセンサスを得るためには必要なことです」

◆正規軍として育てる40万の経営体

−−武部農相の私案でも、農業政策の対象としては一緒懸命に農業で生計を立てようという人を中心に考えるということがかなり明確に出されていると思います。それ以外の農家は農村対策の対象としては考えるけれども、農業生産の担い手として農業政策で重要視しないということではないかと受け取れます。つまり、想定されているような担い手を育て自給率45%の目標を達成しようということだと思います。ただ、担い手が育ち生産を拡大していく時間的な推移と、もう一方で兼業農家などが担っている生産が時間とともに減っていく推移との間にタイムラグが出ることを懸念する声もあります。

 「それは、現実の世の中ですから、たとえば、北海道と秋田県では状況が違うようにみんな違うと思いますよ。サラリーマンをやりながら田んぼを守ろうという人もいるわけですから。理念的に机の上で考えて40万経営体を支援するというだけでいいのかという実態はあると思いますから、これからの検討のなかで40万だけでいいのかという話になるかもしれない。
 しかし、314万の農家がいるなかで、まさに日本の農業の正規軍として育てるのが40万の経営体。この人たちに対してはこういう所得保証をやりますよということを示すのだから、絶対に撤退しない。今までも苦しいけれども農業生産を継続してきたわけだから。だから、育つも育たないもなく今でも40万の経営体はある。その人たちは将来の展望が見えることで安定し地に足をつけてがんばってもらえるはずだ。
 じゃあ、残りは農業をやめるかといえば、やめないでしょう。彼らは先祖伝来の農家を楽しんでいます。そして、外国から野菜が輸入されて価格が安くなってもやめるということはないでしょう。また、中山間地域は直接所得補償制度が導入されましたからそこでも農業はある。
 もちろん現実に選手交代が必要な部分があります。しかし、新規就農対策として北海道で農業をやってみませんかと呼びかけると、都市部から応募者が殺到するという状況もあります。だから、選手交代もやりながらしっかりとした生産者を育てなければなりません」

◆産地守る気なければ対策はできない

−−セーフガード発動についてはどう捉えていますか。

「これは輸入が増えたからと腹いせにやっているわけではない。本発動については検討していますが、ただ、セーフガードを発動したということは、ネギ産地を外国と競争できるようにするという重大な責任を持っているということです。
 現状をみて国内のネギ産地はもうだめだ、中国にはかなわないというのであれば別の作物をつくればいい。ただ、セーフガードを発動するということはネギ農家を守ろうということだから、解除される時期がやってきたときに、やはり中国のネギには負けた、ということになれば4年間、彼の人生を無駄にしたことになる。あのとき余計なことをやってくれなければ自分はネギづくりをやめていたのにということになりかねない。4年後に競争力がついていなければ意味がないわけだ。だから、構造対策が大切。本当に産地を守るという気持ちがあるものにしか、セーフガードはできません」

−−そのための対策では何が重要でしょうか。

「私はガソリン税を見直すぐらいの抜本的にやらなければならないと思っています。農家だけでは何もできないんだから。
 日本は高コスト構造になってしまった。かといってWTO下で関税をばーんと上げるわけにはいかない。この問題では物流を直さなければいけないと思っていますが、その元凶はガソリン税。すごく高い。そのために道路ができているんですが、これまでは何かを犠牲にしながら社会資本整備をしてきた。それがある程度一巡したら、今度は高コスト社会を是正するために値段を安くする。
 そのほかにもいろんなことを変えていかなきゃならない。にんじんでも同じ長さで同じ色でそろえないとみんな消費してくれない。だから、半分以上ははねられてしまう。そうではなく、きゅうりだって曲がっていてもいいじゃないかと、そういうことも考えていかなきゃならないでしょう。
 業務用需要への対応もある。即席麺に使われる乾燥のカット野菜だとか、ホテルなども大量に買いますね。ただ、たとえば、売り方にしてもジャガイモをそのまま売るのではなく、産地で洗って注文どおりにカットして一定の時間に一定の量を届けるような工夫も必要だと思います。農山漁村の1.5次産業化といいますかね。また、市場流通についても、市場は価格形成機能だけにして、それを指標にしながらあとは相対取引でどんどんコンピュータで取引を進める、といった物流の改革がいちばん大切だと思います」。

−−WTO交渉はどう臨みますか。

「基本はケアンズ・グループのいうような貿易ルールでは、後進国の農業はみんなつぶれていってしまうということ。競争条件が違うんだから。各国の農業を成り立たせないといけない。自国でつくったものを食べるのが原則。それを自分で労働力をかけて作るより、こっちのほうが安いから買うべきだなんて。
 日本提案は1年半かけてつくった。今、それを持って各国を歩いていますが、ずいぶんと仲間が増えてきた。多面的機能フレンズ国は40か国ぐらいになった。40もいれば大派閥だ(笑)。日本のいうことも無視できなくなる。
 世界にいろいろな国がありますが、一流国家とされる国、米国してもフランスにしてもイギリスにしても、農業王国なんですよ。豊かな農山漁村がしっかりと根付いている。豊かな農山漁村をいつまでも抱えている国でありたいし、おいしい水やきれいな空気など基本をなすのが農山漁村。この農山漁村を元気にするのが農林水産行政だと思っています」


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