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シリーズ 農協のあり方を探る−16 農民不在の農政問うのは農協組織の大きな役目 運動体としての事業を今こそ築いてほしい
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80年代後半の農産物自由化問題で先頭に立った元全中専務・(財)蔵王酪農センターの山口巖理事長は、今の農政を「人が不在」と指摘する。そして農協という響きには人と人との信頼感が感じられるはずだと説き、経済事業改革も農家組合員のプラスになるよう取り組むべきだと強調する。かつての「農協牛乳」の商品開発時代も振り返り「やはりまじめに農民の真実を訴えるべき」と話す。山口氏の協同組合への期待と課題を聞いた。 ■外圧との闘いと国内の混乱のなかで
山口 日本農業は悪いほうに向っているようで、気が気でない思いで日々を過ごしています。私のころはちょうどウルグアイ・ラウンド交渉のときでした。WTO交渉で今若いみなさんが苦労しているのと同じように外圧に対する闘いを凌いできたわけです。今も容易ならざる事態だと思いますね。 梶井 NIRAの提言は、諸悪の根源は高米価だというのが骨子でした。あれが相当効いてますね。続いて農業も一層自由化しろという「前川レポート」が出た。 山口 決して米価は高くはない。昔からあの程度の水準の米価だったわけで、高い米価を生産者はもらっていたわけではないんですね。腹の立つ話なんですが、アメリカを例にとって規模拡大で生産性を向上させろ、というと耳が当たりがいいわけですよ。 ■農民が不在の経営体づくりを問え
山口 残念ながらこうして80年代後半からは農業は衰退期に入っていった。そして90年代のはじめには、新農政なんていうのが出てくる。 梶井 92年の新農政のときから、効率的かつ安定的な経営、という妙な言葉が出てきました。経営体が農業生産の大宗を担うようにしていくという考え方は新農政から始まっています。 山口 その新農政がずっと続いて新基本法になったわけですよね。そこで改めて食料・農業・農村基本法を読んでみたんですが疑問なのは第3条で掲げている農業の多面的機能の発揮です。正常な農業生産、村を母体とした農業生産が行われていれば自然環境の保全や水資源の涵養などが付帯的な効果として出てくるとは思いますが、そういう正常な農家をなくして、株式会社でもかまわないというような経営体を担い手としたとき、果たして多面的な機能が発揮されるのか。結びつかないものを並べるのはごまかしだと思う。 梶井 掲げるとするならば、それにともなって農法の組み立てなどを変えなくてはならないわけです。では、そのときに効率性と環境保全とが整合性を持つような農法が組み立てられるのか、という議論をしなければならないのにそれがない。 山口 大規模経営の追求ではまず無理じゃないですか。 梶井 環境保全、文化の伝承はまず駄目ですね。しかも大規模経営といっても耕地がまとまっていればまだしも、日本の場合は耕地が散在している。つまり、大規模化していっても生産性はあがらないという面もあるわけです。だから集落で営農組織をつくってみんなで耕地の利用の仕方を決めて農業をするほうが、個々の経営規模は小さくても現実には、集落全体がまとまることで生産性も上げられるわけです。 山口 そのためにも人間と乖離した経営体というような考え方ではだめなんですよ。経営を担う人間、そこに人間性がなければ、土地など貸しません。貸す以上はお互いに顔が見える運命共同体のような連帯性がなければね。その点で集落営農はいいことですよね。 梶井 農協マンとしてやってこられたなかで、後輩に是非伝えたいというのはどんなことでしょうか。 山口 昭和47年に設立した農協牛乳があります。これは私が全農に出向してつくった。実は、「自然はおいしい」というキャッチフレーズはトイレのなかで考えたんです(笑)。立ち上げまで一年ぐらい時間がありましたからその間寝ても覚めても考えて居たからです。 ■目を覚ませ!協同組合陣営 山口 農協牛乳のことを振り返ると、やはりまじめに百姓の真実で訴えなきゃだめだと思いますね。それを言いたい。 梶井 ロッジデールの原則は、これは生協ですが、協同組合は品物を安く売るのが取り柄じゃなく、公正な値段で売る。しかし、協同組合の品物にはごまかしがありません、これが大事なんだということでした。 山口 本来、運動体であるべきなんですね。そこを忘れてしまって企業体だと思っているんじゃないか。痛感しますよ。 梶井 農協牛乳では大変な商品開発力を発揮されたのですが、今、それがありませんね。JAグループは経済事業改革に取り組んでいますが、たとえばファーマーズ・マーケットに手作り加工品などを持ってきているおばあちゃんたちのほうが商品開発力があると思いますね。そういう力をJAの役職員は敏感に受け止めて農家のプラスになるように組織化すればいい。 山口 おばあちゃんたちに聞けばいいんです。どうしたら消費者に喜ばれるか、生産者がいちばん知ってます。百姓ってのは知恵がある。 梶井 それと協同組合の事業についての組合員への教育ということも大切ですね。しかし、前回の農協法改正で教育という言葉が消えてしまった。私はそれがJAを企業体と同じだと考えることにつながっているように思います。 山口 市場中心主義の経済運営に対抗できるのは協同組合組織しかない。その協同組合が寝てたんじゃしようがない。目を覚まして闘わなくてはいかんのです。今の農政には人というものが不在だと思う。それと闘っていくのが農協運動ですよ。ただ、これじゃいけないという運動が必ず出てくる。私はそれを期待しています。 梶井 ありがとうございました。 (インタビューを終えて) (2003.12.17) |
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