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シリーズ 農協のあり方を探る−17 農協に求められる農業を中心とした地域活動 農政改革の焦点は「多面的機能」発揮の具体策 日出英輔 参議院議員 梶井功 東京農工大学名誉教授 |
経済事業改革を柱としたJA改革にJAグループが動き出しているなか、それを法的にも裏づける農協法改正案が今国会で審議される。しかし、日出議員は改正によってそれぞれの事業改革が進んでも、今後さらに「農協とは何かが改めて問われる」ことになると指摘、農協のあり方のキーワードとして「地域活動」の重要性を提言する。一方、農政改革を進めるための基本計画見直しの議論も行われているが、焦点は国民に支持される農業、農村のため「多面的機能の発揮」を具体的に示すことにあると強調した。その国民理解の一翼を担うのも農協の役割だとして、そこでも地域住民への働きかけなど地域での活動が期待されると語っている。農政改革と農協のあり方の双方を見据えた議論をしてもらった。 |
■自給率向上策 積み残した大きな課題
基本法とそれに基づく現基本計画がいちばん中心に置いているのは、やはり自給力をいかに強化するかです。基本法の国会審議ではこの問題について非常に重要な修正が行われました。ひとつは食料の安定供給確保を定めた第2条が「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし」という条文に修正されたことと、もうひとつは食料自給率目標は「その向上を図ることを旨とし」と明記されたことです。 そのうえで現基本計画では自給率を40%から45%に引き上げることを目標にした。しかし、現実には目標達成は厳しいという状況だということですが、では、どこに問題があったのか、私はその検証から作業を始めるべきだと思います。 日出 同感です。やはり積み残した大きな課題が自給率の問題です。45%という数値目標を掲げましたが、どういう政策で目標を達成していくのか、たとえば、農用地の面積やその他の目標達成手段については現基本計画では明らかではありません。 梶井 自給力という点での最大の問題ではやはり農地をどこでどれだけ確保するかということをはっきりさせることが大事です。国は基本計画策定時には470万ヘクタールを維持すれば不測の事態でも何とか国内で最低限の食料供給ができることを示した。 ■問われる畜産のあり方と自給飼料生産の拡大
日出 しかし、それもあくまで見通しであって政策的な歯止め措置があったわけではありません。 梶井 まさに歯止め措置がないために今や472万ヘクタールにまで減少している。問題は何故農地の減少を食い止めることができなかったのかということです。 日出 現基本計画を策定するとき、自給率向上のためには、食品残さを少なくするという極めて受身的な措置も含まれていました。また、県別の自給率も示されましたが、結局、自給率目標をどういう形で達成していくのかという点は必ずしも明確ではなかった。 ■「地域経済」の視点で描く水田農業ビジョンに期待 梶井 ご指摘の飼料の問題では、ホールクロップサイレージの生産もいいのですが、あれは流通させられませんね。むしろこの際は、飼料稲、飼料米に積極的に取り組むなど、本当に日本で飼料穀物の生産はできないのか、もっと詰めた議論が必要だと思います。 日出 そこは米改革の問題でもありますね。とくに米単作地帯では、転作はしていますが転作作物にあまりいいものがないという実情があります。たとえば北陸では小麦がなかなか生産できず大豆しかないと。大豆ができればまだいいほうで、本当に生産できるものがないというもっと厳しい地域もあるわけです。 ■担い手育成にJAがどう力を発揮するか たとえば、集落営農のなかで作業受託グループが生まれ、それが経営も引き受けて法人になっていくという例もある。自然に担い手が育っていくような経済的条件をどうつくるかが問題ではないでしょうか。実際に農業センサスを分析してみると、5ヘクタール以上に規模拡大したにも関わらず5年間で規模縮小してしまう経営が4分の1もあるというのが実態です。2000年まではそれを上回る数の規模拡大層が出ていたので全体としては増加していたのですが、最近は上昇力が弱くなっている。 それでも、まだ今は規模は小さいけれども規模拡大をしていこうという層はいるわけですから、ここを見落としてはいけないと思いますね。ですから、現時点で一定規模以上の経営を担い手として限定して支援策を打っていくことで、地域農業が維持できるのかということが問われると思います。 日出 担い手の育成については、単一手法ではだめだということははっきりしていると思います。日本では何か政策提案がなされると、それを全否定する議論の傾向があります。ただ、議論としては一律論にも功罪があると思います。 ■JAに求められる新たな事業を生み出す発想 梶井 担い手育成にもJAの役割があると思います。研修という名目はついていますがJAも農業経営ができるようになっています。その制度を活用して担い手を育て一人前になったら自前で農地を持って経営してもらう、という形での担い手育成も可能ですね。JAに研修事業としての農業経営を認めたこの制度をもっと活用すべきだと思います。 日出 JAのあり方についていえば、この数年の議論は、経済事業は株式会社並みに効率的に経営をやれ、信用事業は国際業務を行う大銀行と同じ検査マニュアルに耐えられる事業にしろ、というように縦に事業別に見ていく議論でした。そうなると農協とは一体何をするのかという疑問が出てくる。総合農協だ、というのでは答えになっていないと思うんですね。 梶井 協同組合の大事な事業のひとつに組合員に対する組合の事業についての教育があります。それがまさに農協とは何かを組合員とともに考えることにつながると思いますが、農協法の度重なる改正のなかで教育という言葉すらついに削られてしまった。これは非常に重大な問題だと私は繰り返し指摘しているんです。 日出 教育といえば、今、「食育」の重要性が叫ばれていますが、それを地域で働きかけていくこともJAとしては大切なことですね。今の事業のあり方で対応できるのでしょうか。 梶井 准組合員も増えていて地域協同組合化しているのが実態ですからね。そのうえに立って協同組合らしい仕事をどうやるのか、それを常にベースとして考えておくことが大事じゃないかと私も思います。 日出 農協と組合員との関係を考えると、効率追求でいけばかえって離反していくのではないかと思います。地域活動と言いましたが、これにはさまざまな活動があると思います。そういう活動を通じて組合員との関係をもっと密接にしていく組織だと。言ってみれば農業を中心とした地域経営体という意識であってほしいと思いますね。 ■株式会社参入と株式会社の活用 日出 今、国民全体の雰囲気からすると日本の再生の鍵は新しい分野での起業であって、とくに農業、教育、福祉の3分野では、今までのやり方を変え、株式会社にも入ってもらい民の力で活性化するという話が国民全体に受け入れられているように思います。 梶井 もっとも疑問なのは株式会社が農地所有権を取得するということです。農地取得にお金をかけても収益は出ないわけですからね。なぜ、それを望むのかということに問題があるのではないかということです。 日出 そこはまったく異論はありません。産廃の不法投棄目的などで農地取得を狙っている不埒な株式会社もありますから、それを押さえ込む議論は必要ですが、私が言いたいのは、一方で農業の現場で株式会社をどう活用するかという議論とうまくかみ合っていないのではないかということです。農協のあり方としても、きちんとした株式会社であればそれを活用するということも課題ではないかと考えています。つまり、株式会社は家族農業の否定だ、といった論調だけでは議論がミスマッチではないかと。この問題は日本農業の将来に関わることだと思うんですね。 ■国際交渉 基本は「多様な農業」の共存 梶井 昨年は外務大臣政務官としてWTO(世界貿易機関)交渉にもあたられました。その経験から日本に求められていることについてはいかがでしょうか。 日出 WTO交渉やFTA(自由貿易協定)交渉の場でさまざまな国の主張を聞いていると非常に多様な農業・農村があるということが分かりましたね。一つの国でも低地と高地でまったく違うこともありますし、たとえば、アジア・モンスーン地帯の農業といってもとても一括りにできるようなものではないですね。こういう農業・農村の多様性ということについてやはり日本は主張していかなければならないと思います。 梶井 各国の農業を共存させるルールを作ろうということへの支持を、農業団体としても広げていくことが大事ですね。ありがとうございました。 (対談を終えて) “今回の基本計画の見直しでは、担い手の問題や水資源、環境の保全など個別に課題は示されています。しかし、私はあまり細かい問題にとらわれず、もっと大きく食料・農業・農村政策の見直しの基本、心棒のようなものを明確に国民に示さないと不信感につながるのではないかと思っています” この議員の感想を私も共有する。いちばん大事な自給率問題を後回しにするような議論の進め方でいいのか、審議会の進め方に危惧を感じていたところだからである。幸い党総合農政調査会副会長であられる。議論を正しい軌道に是非乗せていただきたいと思う。 農協は“農業を中心とした地域経営体”であれといわれる。効率追求事業体の寄せ集めでは“化け物”になってしまうことを心配されているのである。これも同感である。農業・農村に愛情を持ち、かつ農政に見識をもつ議員は少なくなった。貴重な御一人である。頑張ってほしい。 (梶井)
(2004.3.1) |
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