東京・神奈川に伸びる小田急線沿線に店舗展開するOdakyu OXは、食品売上げに占める野菜など青果物の売上げが18%前後と他社に比べて高い割合を占めている。従来は、閑静な住宅地を背景にした駅前立地にあり、比較的富裕な客層もあって高級なスーパーという印象が強かったが、変化するライフスタイルや多様化する価値観に対応するために、新たな都市型スーパーのあるべき姿をめざして着々と改革を進めてきている。そこで今回は、青果物を中心にOdakyu OXのめざすものを福永信一青果グループリーダーに取材した。 |
◆営業力と競争力ある店づくりを
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福永信一 ストア営業本部青果グループリーダー |
「Foods Entertainment おいしいおもてなし」。これが、昨年、創業40周年を機に策定した小田急商事(株)(杉本龍二社長)のスローガンだ。その柱は▽お客様の暮らしに役立つさまざまな情報提供▽安心・おいしい・健康に良い商品提供▽心のこもったサービスで楽しさあふれる食のおもてなしの実現。
Odakyu OXは東京・新宿を基点に、下北沢・経堂・成城学園・新百合ヶ丘・玉川学園などの閑静な住宅街を経て、小田原・箱根や湘南の藤沢へと延びる小田急線沿線に、都会的なセンスあふれる上質なスーパーマーケットをめざす都市型スーパーを22店舗(同社直営)展開している。
従来は、東京・世田谷に代表される富裕層を中心とする客層に合わせた品質重視のどちらかといえば高級志向的な品揃えを行なってきた。そして、駅前立地ということで極端な競合にさらされることは少なかった。しかし、景気低迷の常態化と価格破壊の進行など環境が変化したこと。生活者の食のライフスタイルが変化し、「お客様の店を選別する目が厳しさを増すなかで、立地環境に甘え『商品を置けば売れる』という従来の発想のままでは、生き残ることはできません」(杉本社長「セルフサービス」04年11月号)と、営業力強化と競争力のある店づくりに、冒頭のスローガンを掲げて取り組んでいる。
◆有機・特栽農産物でストア・ロイヤリティを高める
「お客様は安くて良いものを求めている」が「安売りで競争する店ではないので、価値と価格が見合ったものを売っていかなければいけない」と福永さんは考える。客層が50歳代を中心に60歳代、40歳代が多いこと、食の安心・安全などへの関心が高い層が多いことが、福永さんの言葉の背景にはある。
とくに、中国産ほうれん草の残留農薬問題や中国産ウナギ問題、BSE発生を契機に「安心・安全についてお客様の目が鋭くなった」という。そして少子高齢化が進み、健康そして少量・小分けなど簡便性へのニーズが高まっているとも。
こうしたことを背景に、Odakyu OXでは、16年春から夏にかけて全店で、JAS有機農産物と特別栽培の「大地の野菜」を隣接してそれぞれコーナー化した。「これがOdakyu OXの安心・安全な青果物コーナーです」というメッセージを具体的な形にしたことになる。価格的には2割ほど高いが、多少高くても、安心・安全、健康なものを求める客層が多いため、お客の反応はいいようだ。
これ以外にも、地元産野菜コーナーや神奈川県三浦市の生産法人から直接仕入れる産直コーナーなど、生産者の顔が見えるもの、栽培履歴がはっきりしているものが「贔屓にされています」という。
JAS有機や大地の野菜が青果物全体の売上げに占める割合はまだ5%前後だというが、こうしたコーナーを積極的に展開することで「ストア・ロイヤリティを高め、お客様の店に対する信頼が高まる」ことが大事だと考えている。そしてこれからは「余裕のある層はこういう傾向になる」のではないかとも。
◆中国産は一切置かないというこだわり
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ストア・ロイヤリティを高めるJAS有機・特栽野菜売場 |
ストア・ロイヤリティを高めているもう一つの要因は、一部例外を除いて輸入農畜産物を扱っていないこともあるようだ。例えばニンニク売り場には、国産しかなく中国産は置かれていないし、食肉売り場も国産しか置かれていない。漬物や梅干であっても中国産原料を使ったものは扱わないという徹底ぶりだ。それが「Odakyu OXは安心だ」という顧客の信頼になっている。
健康で安全・美味しさ・鮮度・本物・手作り・旬・季節感・タイムセイビング(便利性)・珍しさにこだわった「こだわり商品」に徹底するのがOdakyu OXの商品政策の基本にあるということだろう。野菜でも「一等産地とか秀の商品にこだわってきている。それをクリアできないものは扱わない」。だから「中国産は一切置いていない」し野菜が高騰しても海外にはシフトしないという。
◆「トマト一番」でサラダ材の売上げを押し上げる
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「トマト一番」でサラダ材の売上げを押しあげる |
鮮度や美味しさへのこだわりを端的に示すもう一つの例がカットフルーツだ。カットフルーツは皮むきからカットまですべて各店のバックヤードで行なう自家製で、売上げも「かなり伸びている」という。「鮮度がいいことは自信をもっていえますし、手間ひまかければ美味しさは伝わるものです」と福永さんは微笑む。
最近、サラダ系野菜の需要が伸びている。Odakyu OXでも伸びているが、それは独自の戦略によるところが大きい。それは「トマト一番」という看板を掲げ、どこの店でもトマトの品揃えや品質で他店に負けない「地域一番をめざしてトマトを育成してきた」ことにある。それが実を結び、いまでは年間を通して各月とも青果物売上げトップはトマトだという。
このトマトが牽引してトマトを取り巻くサラダ材全体の売上げを押し上げている。とくにベビーリーフやフリルレタス、そして生食のシャキシャキ感が受けて市民権を得た水菜などがよく売れるという。トマトへのこだわりがサラダ材を中心に売り場を活性化させているわけだが、こうしたことに注目した産地からの提案があれば、新たな可能性が開かれるのではないだろうかと思う。
◆全国ネットの利点活かした提案を――全農への期待
こうした青果物の4分の1強を全農首都圏青果センター大和が担っている。先にふれたような厳しい基準をクリアした農産物を提供し続けてきた証だといえる。
これから期待することはという問いに、「一般商品でも安心・安全な商品を拡大していきたい。そのためには全農さんの力を借りるのがいいと思う」。他とは比べようもないスケールの全国的なネットワークをもっているのだから「その利点を活かして、いままでとは違う産地を紹介してもらい、現地にもいって良い商品をつくっていれば拡大していきたい」「あまり有名な産地ではなくても、良い商品をつくっているし、価格も安くなるという産地を紹介して欲しい」と福永さんは考えている。
いまはJAS有機と大地の野菜をトップに、一等産地や秀にこだわった品質の高い商品群があるが、三つ目の商品群としてほうれん草なら上の商品群より少し小さいが味が変わらず価格が安いというような一般品を置きたいと考えている。そうした商品群の品揃えに全農の力を発揮して欲しいというメッセージだと聞いた。それが主力商品だけでも全農安心システムでできれば「全農という信頼があり栽培履歴も分かっているのでいいなと思っている」とも。
品質にこだわり、間違いのない商品を提供することで評価されてきたが、価格が大きなファクターとなるなかで「ライフスタイルの変化と多様化する価値観に応え食文化の向上に貢献する」ために、より上質な「Foods Entertainment」を追求し、本物志向の生活者にも満足される都市型スーパーをめざすOdakyu OXが、JAグループに期待するものは大きいといえる。
(2004.12.13)