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シリーズ 食糧法改正とJAグループの米改革
生産現場からみたコメ改革−1(新潟県)
経営維持できる助成水準を
米価下落続けば米づくりからの撤退が加速


青柳 斉 新潟大学農学部教授

◆生産調整への不参加者増の懸念

青柳 斉氏
あおやぎ ひとし 1954年生まれ。京都大学大学院博士課程卒業。新潟大学農学部助手、助教授を経て98年より現職。近著に『農協の組織と人材形成』(全国協同出版)、『中国農村合作社の改革』(日本経済評論社)など。

 昨年末に出た「米政策改革大綱」のなかで、生産者にとって最も大きな関心事は次の点であろう。当面はともかく、生産調整の配分を20年度以降には農業者・農協等で実施することになる。その場合、生産調整参加者に対するよほどの補償措置がないかぎり、実質的には生産調整の廃止につながり供給過剰による価格暴落がおこると予想される。また、生産調整参加者への助成措置として「産地づくり対策」や「米価下落影響緩和対策」、さらに、一定規模の認定農業者や集落営農に対しては、「担い手経営安定対策」による価格補償の上乗せが用意されている。ただし、多数を占める零細兼業農家に対しては助成水準が低いため、上述で懸念されるように生産調整の不参加者が大量に生じるかもしれない。

◆経営体質の転換で所得確保はかれるか

 この新しいコメ政策改革について、米主産地の新潟県の反応や県下の実情に即してコメントしてみたい。新潟県の場合、平成15年度の生産調整のガイドラインは生産数量で57万8000トン、作付け面積で10万8000ha、生産調整目標面積では4万9000haになる。稲作に偏り、北海道に次ぐ米生産規模の新潟県農業にとって、政策転換の影響はとりわけ大きい。
 国の米政策改革の検討に対しては、新潟県は県下農業団体とともに、昨年の6月時点で次のような提案をしている。
 まず、生産者は自らの経営判断により生産調整対策への参加・不参加を決定する。二つには、生産調整実施者については、思い切った経営安定支援措置を講じて米価が下落した際にはリスクを補填する。三つ目に、都道府県別ガイドライン(生産数量)配分は、適地適産の観点から、現行の傾斜配分を基本とするとともに、ガイドラインを自由に県間で売買できる仕組みを設定する。
 前二者は全国共通の要望であろうが、三番目は良質米産地としての新潟県固有の利害に関わる。最近の平均単価が1俵1万6000円前後に低迷しているなかで、新潟一般コシヒカリは1万8000円以上の値をつけているように、市場での優位性から自県産のシェアを拡大したいという本音が出ている。
 他方、新たな生産調整手法への移行で目標達成は無理で、供給過剰で米価は現行に比べて相当下落すると予想する。ただし、県下の稲作農業は作付け面積の拡大と収益性の高い経営体質への転換が進み、米価が低落しても米粗生産額は減少するが県全体の米所得は増加するとみている。

◆独自の営農計画立案に不安の声も

 ところで、新潟県にとっても、新たな助成対策の補償水準が大きな関心事である。特に「産地づくり対策」に関係することになったが、新潟県ではたまたま県農政の優先課題として、13年度から「地域農業システムづくり運動」に取り組んでいる。「運動」の趣旨は、これまでの行政主導的な補助金農政の弊害を反省し、農家及び地域住民、関係機関の主体的な立場から、地域農業の課題の明確化や営農プランづくりを支援しようとするものである。今回の「産地づくり対策」は、この「システムづくり運動」の追い風となる。
 ただし、運動が始まったばかりとはいえ、14年12月までに営農プランが策定された地区数は、17年度目標の250に対してわずか15に過ぎない。今年1月末の「運動」の総括検討会で、「産地づくり対策」をわずか1年くらいで、「地域事情に応じて、地域自らの発想、戦略で作成する」ことは無理だという声が出た。

◆計画外販売農家は生産調整に無関心

 検討会ではまた、生産者・農協主体の生産調整方法への移行に対しても疑問が出された。もともと、生産調整配分の責任やその実務から解放されたいという市町村は多い。かつて、特定農家に対する青刈り助成に対して、市議会で追及されたある農林課長から、「もうこんなことまでして生産調整なんぞやりたくない」という本音を聞かされたことがある。ただし、「産地づくり推進交付金」の助成条件が生産調整目標の達成であれば、結局は従来通り市町村が調整配分推進の主役を担わざるを得ない。
 一方、これまで計画外流通で販売してきた稲作経営者は、そもそも生産調整には無関心である。

◆稲作の担い手の8割が兼業農家

 魚沼で20haの水田を直営し、周辺農家からも集荷して米の独自販売をしているある農業法人は、魚沼米に対する高い市場評価から、生産調整撤廃以後の経営にも大きな自信を持っているという。他方、蒲原平野で酪農との複合で稲作経営を規模拡大してきた農家(法人)は、器械判定による高食味値のコシヒカリを魚沼米並の高単価で都市部の高額所得者に直接販売している。そのため、有利な販売ルートを確保している条件下で、一般市場米価の低落による離農増大は規模拡大のチャンスと見なす。
 ただし、このような経営者は新潟県内でも例外的な存在であり、一般に大規模農家の独自販売は部分的であり、過半は農協共販に依存している。その独自販売部分でも、ホテルやレストラン等に対する直接売り込みで、過剰基調を反映して最近では農家同志がバッティングし値下げ競争を強いられている。この点で、大規模農家といえども大多数は生産調整の必要性を認識している。

◆経営安定対策の「対象」に左右される将来

 問題は、生産調整参加によって経営を維持できるような助成措置が用意されるかどうかである。現行でも3割近い減反は、転作助成による所得補填があっても低米価の下で大きな減収を強いている。このような状況に加えて、さらなる米価下落は稲作上層農家の経営にとどめを刺すであろう。5ha以上層への県アンケート調査結果によれば、稲作撤退の下限価格は1万5〜6000円という回答が最も多かった。この価格水準は、今後の供給過剰の大きさによっては、新潟米といえどもあり得ない事態ではない。
 さらに、米主産地の新潟県であっても、「担い手経営安定対策」の対象と想定されている水田4ha以上の農家は、わずか5.1%(4600戸)に留まる。県全体の水田面積シェアでみても19.6%にすぎない。また、「集落型経営体」に相当する「水田協業組織」では、56組織のうち20ha以上は20組織に留まる。要するに、約8割の稲作面積は兼業農家によって担われている。コスト面から見ると、米価が1万5000円に近づけば、助成水準が低い零細規模層では稲作所得部分がほとんどなくなり、いずれ米購入者に転ずるであろう。他方、離農水田を引き受ける専業的農家が皆無に近い町村もある。また、規模拡大志向農家は、その基盤条件として圃場整備事業を期待している場合が多い。その際、多数派である兼業農家にとっても圃場整備のメリットが水田経営で望めない限り、事業の地域的合意は難しい。このような点で、地域稲作の農民層分解が政策の期待通り進むとは思われない。
 新しい米政策の改革、とりわけ生産調整手法の転換は、生産現場において以上のような問題を噴出させるのではないであろうか。(2003.3.12)




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