◆「主役となるシステム」に向けた米穀事業システムの構築へ
――米政策改革にともなってJAグループの米穀事業の改革方向が示されました。まず最初に米事業転換の大きな方向についてお聞かせください。
「16年産から米の生産調整は、生産目標数量配分に変わり、県・市町村段階における数量配分は、第三者機関的な組織を中心とした在庫・需要情報の分析によって調整されることになります。
そしてJAは国や地方公共団体との連携のもと需要に応じた『生産調整方針』を策定し、生産調整に取り組むことになりますが、平成20年度以降は、『農業者・農業者団体が主役となるシステム』のなかで客観的な需要情報にもとづき、JAが主体的に販売戦略を策定し、需要に応じた生産を行っていくことになります。
流通制度も変わり、16年度以降は計画流通制度が廃止されて、それにともなって計画流通米販売のガイドラインがなくなります。これまではこのガイドラインをひとつの指標として全国的な集荷・販売計画を策定してきたわけですが、今後はJA、県域、全国域それぞれで需要情報を把握して販売計画を策定し、それに基づく生産計画を生産者に提示していくことが必要になります。
こうした取り組みは、JAが地域単位で創意工夫ある取り組みを行うことを基礎にして、地域の作物戦略、水田の利活用、担い手の育成など将来方向を明確にした地域水田農業ビジョンと一体化したものとする必要があります。そして、それをふまえて今後はJAと連合会の機能分担を再構築する必要があると考えています。
米の流通は基本的に自由となり、市場の評価が生産目標数量に反映される仕組みとなるわけですが、安全・安心な米の流通を基盤とした大消費地への安定供給確保や価格安定のためには全JAで『生産調整方針』に基づく計画生産を徹底することや、『JA米』確立に向けた取り組みが必要です。さらに県間流通銘柄を中心とする販売調整のための新たな協同の取り組みも求められます。
さらに、今後の販売事業もこれまでの形態にこだわらず、炊飯加工事業や外食産業などとの連携といった、より消費者接近型の取り組みをすすめ、それに対応した特色ある生産を行っていく必要があると考えています」
◆JAの取り組みを基礎にJAグループの機能を分担
――地域の実態に応じた機能分担にはどのように取り組んでいくのでしょうか。
「これまでは計画流通米制度を前提にJAグループの米事業は全国一律的な方式で行われてきましたが、今後、自由な流通のもと需要に応じた生産をしていくためには、JA自らが地域実態に応じた生産・販売戦略を策定し、それをふまえた事業のあり方を構築していかなければなりません。
そこでまずJAに求められるのは、(1)JA米の確立、(2)安全検査体制の確立、(3)トレーサビリティ体制の確立、(4)農産物検査体制の確立といった基礎的な条件の整備です。そのうえで、JAは『産地づくり推進交付金』などを活用しつつ、地域水田農業ビジョン、生産調整方針、生産・販売計画の策定を行っていくことになります。
一方、こうしたJAの取り組みに応じて連合会の機能を再整理することが求められており、連合会はJA米の確立や安全検査体制の確立などをJAと連携してすすめるほか、(1)大消費地を中心とした安定的な供給、(2)県産ブランドの確立・強化、(3)より消費者接近型の事業の強化を行うことで『JAの補完機能』を担っていくことになります。
このため、たとえば、県間流通銘柄主体の県、大都市近郊県など地域の実態に応じて類型化して、販売機能の分担のあり方についてJAと連合会とで十分検討していくことが必要です。
こうした事業方式の多様化の検討と同時に、JA・連合会が行う各業務について、機能、コスト、リスクなどの分析に基づいて、『手数料体系の多様化』も実現に向け検討していくこととしています」
◆「JA米」の確立で消費者ニーズに応える
――計画流通制度が廃止されるなど流通改革のなかでJAグループとしての優位性の発揮も課題になっていますね。
「流通の自由化にともなって、計画流通米と計画外流通米の区分がなくなり、そのなかでJAグループの扱う米の優位性をいかに発揮するかが課題です。
一方、最近は消費者の『安全・安心』への関心が高まっています。
こうしたことから、JAグループが扱う『JA米』は安全・安心をコンセプトにし、(1)農産物検査の受検、(2)種子の扱い、(3)栽培暦にもとづく栽培、(4)商標・紙袋の扱いなどについて出荷契約のなかで生産者と確認することにします。
このためJAで栽培暦を作成し、地域単位の水田営農実践組合による栽培管理を統一することを基本にして、全生産者による栽培履歴の記帳・確認の体制を構築する必要があります。今後は、JAグループ各段階で協議し、年次目標数量を設定、生産履歴のトレースが可能な『JA米』の拡大を図っていくことにしています。
また、カドミウムや残留農薬などの安全性検査体制の確立には、国や第三者機関の活用・拡大を図り、JAグループとしてもコスト面や地域実態を考慮して推進していきます。
そのほか農産物検査の完全民営化に向け、信頼を確保できるJAグループの農産物検査体制の整備、拡充も課題です」
◆販売を起点とした事業方式への転換図る
――昨年の改革の議論以来、販売を起点とした事業方式への転換、といわれますが具体的な取り組みをお聞かせください。
「計画流通米のガイドラインがなくなることにともない、JAグループの米事業は需要情報にもとづき『販売可能な量だけつくる』という事業方式へ転換する必要があります。
具体的には(1)用途別・価格帯別需要の把握・分析、(2)生産者への需要情報のタイムリーな伝達、(3)地域水田農業ビジョンや生産調整方針に連動する販売計画、生産計画をつくることです。すなわち『販売を起点とした事業方式』の確立です。
需要情報の収集、分析と販売計画の策定は、JA段階では『地産地消』を中心に、県段階は県域を中心に積極的に行い、生産者や水田営農実践組合に対して、どの銘柄がどういう業態に、どれだけ販売されているかを的確に伝えることが大切です。とくに大消費地の需要動向は全国域、県域が一体となった連合会の販売活動によって、JAへ情報をフィードバックしなければならないと考えています。
また、生産者への情報伝達は水田営農実践組合や担い手組織を通じて徹底するほか、ホームページなどの活用によるタイムリーな伝達も必要です。
需要情報にもとづいて計画的な生産を推進していくことが課題ですが、安定的な販売を確保していくためには、これまで以上に、卸・実需者との契約栽培や長期安定的な取引の拡大も必要です。また、外食、中食などの需要が拡大しているという米の消費の多様化にも対応するよう、業務用・加工用をはじめとした多様な需要に応じた品質・価格の米生産の推進も求められます」
◆組合員との結びつき強める多様な対策も
――生産者・組合員との結びつき強化も課題としていますが、どのような事業展開を行っていくのでしょうか。
「消費者・実需者接近型の多様な事業を構築することが課題ですが、同時にそうした販売計画にもとづく確実な集荷が必要です。そのために組合員との結びつきを強化する取り組みも必要です。
具体的には運賃コストの見直し、輸送形態・保管体制の整備による合理化などによる流通コストの削減のほか、営農の集団化、担い手の規模拡大、直播栽培の推進、生産資材価格の徹底した低減など生産コストの削減といった取り組みを行います。
また、生産者とJAの出荷契約を、契約観念の徹底によって確実なものとする一方、生産者との契約方式も、たとえば、複数年契約と単年契約、あるいは出荷確約契約と出荷見込み契約、スポット契約、さらに『JA米』や品質による区分出荷契約などを設定し、それらに合わせて仮渡金や最終精算価格の格差など、委託販売・共同計算方式を基本としつつもそのなかで多様化をはかることも必要です」
◆JAの経営改革も米事業改革にとっての鍵
――米事業改革はJAの経営の面でも影響があると思いますが、この点についてはいかがでしょうか。
「たとえば、JAの利用事業については、平成17年度から固定資産にかかる減損会計の導入が予定されていることから、稼働率が低く収支が赤字のカントリー・エレベーターなどの共同利用施設で特別損失が生じる可能性がありますし、JA経営への部門別損益管理の導入により利用事業で収支均衡が求められています。
そのためJAとしても水田営農実践組合づくりや担い手の組織化などを通じて共同利用施設の利用率、稼働率の向上を図ることが大切になります。そのうえでJA管内を超えた施設の統廃合による広域拠点整備や外部化の可能性などの検討も行っていくことを考えています。
また、営農指導事業についてはJAの事業の根幹であり、その重要性は組合員から広く認知されています。ただし、その収支はほとんど賦課金、補助金で成り立っているわけですね。
そのため今後は、付加価値のとれる営農指導事業、マーケティング戦略と結びついた営農指導事業の構築をめざしていくことが必要で、指導内容に応じた手数料の徴収拡大をすすめ、機能の強化を図っていくことが必要です」
――そのほかのポイントについてお聞かせください。
「豊作などによる過剰米は『過剰米短期融資制度』を活用し、区分出荷をすすめて販売環境を整備することもJAグループの役割ですし、この制度によって現物弁済された米はJAグループが中心となって配合飼料などに処理することを検討します。
また、安定的な流通を確保するため、安定供給確保支援機構への参画や米穀価格形成センターでの多様な取引の実現などについても今後検討していくことが必要です」
――どうもありがとうございました。 (2003.3.28)