JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

シリーズ 食糧法改正とJAグループの米改革
農産物検査をJAの業務に位置づけを
―15年産は民営検査の正念場―


保坂 潔  JA全農米穀販売部集荷対策グループ技術主管

 農産物検査が民営化され今年で3年目を迎える。JAグループも2月末現在で603JAが参入するなど本格化してきた。17年度の完全民営化までの課題は何か。JA全農米穀販売部集荷対策グループの保坂潔技術主管に聞いた。

◆検査民営化の背景

――農産物の民営検査は15年産で3年目を迎えます。最初に検査民営化の背景とこれまでのJAグループの取り組みについて改めてお聞かせください。

保坂氏

 「農産物検査の民営化は、中央省庁再編に関わる国の行革の一環として行政改革会議で『食糧等の検査については積極的に民営化・民間移譲を検討する必要がある』とされました。それを受けて食糧庁は「検査実施業務の民営化にあたっての留意すべき事項」をまとめ関係機関や農業団体に参入を促しました。
 こうしたことからJAグループも、検査業務の実務面などを検討する「農産物検査研究会」を設けて考え方を整理して対応してきたところです。
 その基本的な考え方は、(1)生産・実需者双方の安心感・信頼感の確立(2)民営化に移行しやすい検査場所からの実施(3)検査の機械化促進(4)民営検査員の養成と紛争処理(5)経済的にペイできる条件整備、の5つの点です」

◆生産と販売を結ぶ要の事業として

――国が実施してきた検査をJAや県本部などが登録検査機関として実施することになったわけですが、JAグループとしてはどのような姿勢でこの検査業務を行うべきなのでしょうか。

 「基本的な立場としては、検査業務を採算面のみではなく、生産・集荷(生産者)と販売(消費者)を結びつける要の業務として位置づけ、集荷率の向上や米の取り扱い量の拡大につなげると考えるべきだということですね。
 また、検査は農産物の市場評価に大きく影響しますから、JAが生産者から販売委託された農産物について、その検査を他の業者に委ねるのではなく、自ら取り組むことで品質向上・生産指導にも活用していこうという立場で考えようということです」。

――JAグループの参入状況はいかがですか。

 「今年2月末現在の登録検査機関数は553で、うちJAグループ系は485です。このうち登録を県本部、経済連など県単位で行っている地域もありますから、JA数にすると民営検査を実施しているのは603になります。
 検査数量の推移でみると、13年産米では全検査数量の15%、65万トン程度が民営検査となりました。そして、14年産からは麦の民営検査もスタートし、麦は全体の60%にあたる57万トンの実績で、米は1月末現在で32.4%にあたる143万トンとなっています。
 最終的には全体の40%程度(190万トン)になる見込みです。
 今後の目標ですが、15年産では70%以上、16年産では95%程度となるよう当初の目標を前倒しして取り組む予定です」

◆一般検査場での検査への対応が重要

――現状をみると民営検査比率に県による格差があるようですね。今後の課題は何でしょうか。

 「たしかに全体では40%に達する見込みですが、県によっては20%程度のところもあるなど差があります。
 その理由は、検査参入にあたって、実施しやすいカントリー・エレベーター(CE)やライスセンター(RC)といった施設での検査から手がけた地域が多いためで、そうなると逆にCEやREといった施設での集荷量が、地域の米生産量全体に対して相対的に少ない県では民営検査率は低い、ということになります。
 13年産、14年産については食糧事務所の指導とJA、経済連の努力によって検査の民営化が進められ、CEやRCでの検査が主体に移行が進められてきましたが、15年産からは一般検査場所での検査がいよいよ本格化することになるわけです。
 しかし、15年度は食糧庁の組織再編も行われることになっており、食糧事務所による指導体制がこれまでと異なる可能性もあります。そういう意味で、生産者個々が乾燥調製したさまざまな米を検査しなければならない一般検査が主体となる15年産は民営検査の正念場になるということなんです」

◆公平な検査体制の構築が課題に

――具体的な課題としては何が挙げられますか。

 「まず検査の公平性の確保です。
 この点については一部の県本部等が検査実施機関として登録している取り組みにすでに現れています。
 検査は実際にはJAの職員が行うわけですが、生産指導、集荷販売している職員が検査するのは公平性に欠けるのではないかという観点から、検査を実施する際には、検査員であるJA職員は県本部に身分を預けることで公平性を確保しようということです。
 それから、県本部とJAが共同で検査実施機関として登録している県もありますが、これは小規模JA対応策としてです。小規模なJAでは実施機関として自己完結的に検査業務を行えないところもありますから、そこを支援する体制ということです。
 こうした取り組みをふまえてJA段階での今後の課題を考えると、まずJAで検査業務を事業として明確に位置づけることがいちばん大きな課題です。
 検査業務には、検査員の確保、処遇、採算性などさまざまな問題がありますが、JAの事業だと明確に捉えないと適切な体制整備もできません。
 たとえば、先ほど話した公平性確保の問題ですが、私は販売を意識した検査になったのでは逆に公平性に欠けると考えています。
 というのも、現在のような米の販売環境からすると、販売を意識した検査とは生産者に対して厳しい検査になってしまうからです。たとえば、売りやすさを考えて1等米であるにも関わらず、2等にしてしまうというようなことでは生産者を泣かせることになる。たとえぎりぎりの1等であっても、1等は1等なんですからね。
 このような公平性を確保する体制が求められるわけで、たとえば、JAでは参事直轄の農産物検査対策室を設置して、検査のときには検査員となった職員はその対策室に席を置き、対策室の指揮命令で検査するなどの透明性のある体制が必要でしょう。いずれにしても17年の民営検査完全移行までには整備しなくてはなりません。
 また、検査員の確保と処遇も課題です。
 これまでは米に精通した職員を検査員として養成してきたところが多いと思いますが、今後さらに人員を確保しなければならないとなると、米に精通した職員だけで対応できないでしょうから人材確保も大きな課題になります。
 検査員の処遇ですが、現状では通常業務のほかに検査業務に携わることになるわけですが、検査員となった以上、責任も負うことになります。ですから何らかの処遇面での対応も考える必要があると思います。
 こうした体制整備を考える一方で採算性の確保も課題です。これまで生産者が国に支払っていた検査手数料がJAに入るわけですから、採算面について、検査業務を事業として考えるべきです」

◆検査技術向上も課題

――検査技術の向上も課題でしょうか。

食糧事務所の米検査風景・宮崎にて
食糧事務所の米検査風景・宮崎にて

 「技術の維持・向上も当然課題です。ただ、JAが登録検査機関になった以上、自ら技術向上に取り組むべきですが、国の検査員が何十年も蓄積してきた技術を身につけるような指導力はまだないでしょうから、やはり食糧事務所の指導に依拠する面はあると思います。もっとも将来的にはJA内部で検査技術向上対策を考えていかなくてはならないことは確かです。
 検査技術のなかで、とくに課題となるのが検査程度の統一です。同じ規格で検査をしているのにA農協とB農協で、同じ1等に差があっては困るわけですね。
 ただ、この問題は国が指導する問題であって登録検査機関の仕事ではないと考えています。登録検査機関はJAグループだけではありませんし、国が定めている検査規格で検査させる以上、この問題については国が指導すべきであるという立場で必要な要請も行っています。これは検査の公平性確保にも関わる問題ですからね」

◆穀粒判別器へのJAグループの対応

――検査の機械化促進の観点から、穀粒判別器の導入も検討されているそうですが、この問題についての基本的な考え方をお聞かせ下さい。

 「穀粒判別器は、あくまで民営検査における検査の補助器具という考え方です。検査員を養成するといっても短期間の研修で食糧事務所の検査官のような技術を身につけるのはとても無理ですから、検査技術のフォローの役目を果たすのが穀粒判別器です。
 ただ、この穀粒判別器には開発メーカーによって操作性の違い、測定精度の許容誤差の違いなどがあるため、導入にあたっては、検査の信頼性、検査程度の統一、採算性などを考えて、(1)県単位(地域)を基本としてメーカーを統一することが理想、(2)購入価格・アフターサービス等に不公平が生じないこと、(3)各メーカーの精度管理手法の統一、(4)クレーム等のトラブル対応策の構築、を基本的な考え方としています。
 とくに機器の統一については県別銘柄米として販売することが多い以上、やはり県単位での統一は基本ではないかということです。
 この機器は生産者に販売するものではなくJA段階で導入するものですから、全農としては基本的に取り扱い手数料だけでJAに渡せることを基本に、アフターサービスの充実や機器の精度向上に伴う機器更新の負担などがJAに発生しないよう関係メーカーや機関と協議して準備を進めているところです」

――最後に「全国JA検査協議会」についてお聞かせください。

 「全国JA検査協議会は4月に設立の予定です。協議会の活動としては、検査業務をめぐるさまざまな問題について登録検査機関間の情報交換、JAの役職員・検査員の研修や意見交換などを行っていきたいと考えています。とくに重視したいのが、JAの事業として検査業務をどう位置づけるかについて、意識向上も含めて取り組んでいきたいと考えています」

――どうもありがとうございました。 (2003.4.4)




農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp