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検証 2000年度農業予算
 ”獲得”から”活用”への方向は打ち出す
 ―価格政策の見直しには不安も


 今年度の農業予算は、「食料・農業・農村基本法」とそれに基づく「基本計画」下での初めての予算である。中身をみると、新基本法の理念に即し「水田農業経営確立対策」や「中山間地域への直接支払い制度」など新規予算も組まれている。では、この予算は本当に新しい農政の理念実現を裏付けるものなのか、また、農業者や農業団体はこれをどう活用すべきなのかなど、改めて今年度の農業予算を考えてみた。



◆「国民のための新基本法」といいながら、
  ゼロサムゲーム強いられる予算


 今年度の農林水産予算(当初)総額は、3兆4281億円。前年度比で0.7%増加した。
 新基本法は制定前から議論されてきたように旧基本法とは異なり、消費者も含めた国民全体のための法律とされる。したがって、基本法に明記された食料安全保障や農業の多面的機能の重要性は、まさに国民の生活にとって大切な課題だと位置づけたことになる。

 しかしながら、国全体の予算は史上最高の新規国債発行(32兆6000億円)によって前年度比3.8%増加したことからすれば、農業予算の伸び率はそれに及ばないことになる。
 国民的課題を明記した新基本法元年だからと“ご祝儀”予算が組まれたわけではなく、それどころか、前年度、農林水産予算は予算総額の4.16%を占めていたのに今年度は4.03%へとシェアが下がっているのである。
 前年度に比べて増えてはいるものの、額にすれば252億円。一方、わが国農政史上初と鳴り物入りで導入が決まった中山間地域への直接支払い政策の国の負担分は330億円だ。すなわち、国の予算レベルでは“目玉”である新規政策の総額にも満たない額しか伸びていないといえる。

 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科の田代洋一教授(研究科長)は、「総額は拡大されず、いわばゼロサムゲーム。新しい施策も予算の組み替えで対応するしかないということだろう」と話す。
 旧基本法が成立する昭和36年度の農業予算は前年度比48%も増加した。当時とは異なりGDPに占める農業生産額は1%台まで縮小し、しかも財政危機が叫ばれるなかでの今回の新基本法成立は、予算編成全体に大きなインパクトを与えてはいないのが現実だ。
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◆経営安定対策の方向は示す

 そうした状況のなかで、今年度予算はどう農政の課題に応えようとしているのか。
 田代教授は、その評価の基準として差し当たり基本計画に掲げられている2点に着目すべきだとする。

 1つは、10年後の総合自給率を45%まで向上させるという目標である。周知のように自給率は下り坂をたどってきたが、それをこれから上り坂へと反転させなければならない。
 「そのためには逆転ホームランが必要なほど」と田代教授は指摘するが「今回の予算はそれなりにメリハリを効かせた内容にはなっていると思う」と一定の評価を与える。
 具体策として、新たに水田農業経営確立対策(1438億円)を打ち出し、自給率向上の要である麦、大豆、飼料作物の本格的生産を図る助成システムを創設した。

 JA全中の小橋暢之農政部長も「農業者としては所得の維持、向上を図りながら自給率アップにつながる施策を求めてきたが、とくに麦、大豆については最高7万3000円(10a)とこれまでの転作助成では最高レベルの思い切ったシステムになった」と話す。
 同時に稲作経営安定対策も認定農業者に対しては補てん率を9割とするなどの拡充や、麦作経営安定資金の創設(797億円)、また、大豆については一定の単価での助成と価格低下時に補てんする大豆作経営安定対策を創設した(157億円)。これらについて小橋部長は「将来的には作物別ではなく農業経営全体を視野に入れた経営安定対策を作ろうという“芽”が今年度予算のなかにはある」と評価する。
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◆農地確保策のための予算は十分か?

 もう1点は、農地の確保である。現行の農地は490万haだが、基本計画では10年後にも470万haを確保することにしている。とくに農用地区域については2万ha分の減少しか見込まず、しかも新たに9万haを編入するとしている。  「農業者とすれば、よほどの経営見通しやメリットがないと制度上縛りの強い農用地区域への編入には危惧感があるはず」(田代教授)。

 そのためには農地の整備が重要になるが、今年度予算には、「土地改良総合整備事業」(299億円)を再編・拡充し、土地利用型作物の生産振興のため排水対策や土づくりを推進する施策が盛り込まれている。また、耕作放棄を止めるにはとくに中山間地域対策が重要になるがこれも「中山間地域総合整備事業」(643億円)として拡充している。
 また、土地改良負担金償還の円滑化をはかるため「土地改良負担金総合償還対策」(48億円)も拡充。これは、麦・大豆等の団地転作に取り組む地域への利子助成の範囲の拡充と、負担金のピークカットを行う事業と負担金の一時的な借り換えを行う事業が併用できるよう措置するものだ。いずれも土地改良事業の負担を軽減するための措置である。

 「これらの施策には思い切って予算をつけた」と田代教授は評価しつつも「その一方で遊休農地の解消には7億円、都市農業の振興策には2000万円しかつけていないなど、不十分な点もある」と指摘する。
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◆「地域」での「活用」が大切な時代に

 JA全中の小橋農政部長は、そのほか今年度予算で評価できる点として、食品ロス調査、食生活指針の作成、JAS法改正による食品表示制度の整備など、「食べる側の問題についても意欲的な予算となっている」ことをあげる。
 また、ODA(政府開発援助)予算(82億円)の戦略的推進という方針も注目されるという。これは、途上国における農業の多面的機能の実態分析や、アジア地域の食料安全保障に資する主要作物の普及支援を重点にODA予算を配分しようというもの。「アジアでも農業の多面的機能が理解されていない国もあるため、WTO農業交渉を視野に入れた援助、という方針を明確にしたのは評価できる」と語る。

 予算の拡大が望めないなかでも、このように新しい方向はそれなりに打ち出されているといえる。
 とくに、今回の農業予算全体の特徴として「地域の創意工夫を生かすことが重要」だと小橋部長は強調する。「中山間地域の直接支払いにしても集落で農地を守るための支援策であるし、水田農業経営確立対策にしても、団地化など地域の努力が求められている。おしきせや全国一律の施策ではなく、逆に生産者が予算を地域でどう活用するかということが問われている」と語る。

 田代教授も地方分権時代の農政として「今後は地域の創造性が必要になる。予算の具体的な使い道は地方が決めるという思い切った措置も課題だ。JAグループも地方自治体と一体となって施策の推進を図るべきではないか」とする。
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◆価格政策の見直しで経営の展望は開けるのか

 ただ、今後、地域の力が重要になるにしても国の基本的な政策が農業経営の将来を左右することに変わりはないだろう。
 なかでも価格政策が見直され所得は政策的に保証するという方向のもと「固定支払いプラス価格補てん」という政策が鮮明になってきた。

 しかし田代教授は「現在の日本の制度は市場価格を前提にしており、経営が安定するのか不安もある」と強調する。  米国でも、農産物価格の低迷に対し、一定の農家収入を確保するための収入安定対策の創設が来年度予算案に盛り込まれているという。これはこれまでの「デカップリング」という理念に反するという声もあがっており、市場志向型の政策で価格の大幅な変動に耐えられるのか米国でも不明なことを示しているといえる。
 新基本法は、農業の多面的機能の重要性を国民合意のもとで位置づけた。ただし、「それはしっかりした農業があってこそ発揮されること」(田代教授)ことを忘れてはならないだろう。
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(データ資料)

◆平成12年度農林水産予算のおもな内容
 予算総額3兆4281億円.前年度比100.7%
1 食料の安定供給の確保
◆国内農業生産の維持・増大に向けた体制強化
水田農業経営確立対策(新規) 1438億円
稲作経営安定対策(拡充) 927億円
麦作経営安定資金(新規) 979億円
大豆交付金制度の美直し 157億円
農業生産総合対策事業(新規) 281億円
畜産振興総合対策事業(新規) 149億円
高生産性農業集積促進事業(拡充) 11億円
土地改良総合整備事業(再編・拡充) 299億円
◆消費者の視点を重視した食料政策の強化
健全な食生活推進総合対策事業(新規) 2億円
食品ロス統計調査(新規) 1億円
学校給食用牛乳供給事業交付金(再編・拡充) 44億円
◆食品産業の競争力の強化
食品産業再生・新事業創出技術開発事業(新規)
(グリーンフロンティアプロジェクトの一部)
4億円
食品流通活性化総合対策事業(新規) 9億円
乳業再編整備等対策事業(再編・拡充)
(食の安全環境確立プロジェクトの一部)
31億円
◆戦略的な国際政策の推進
海外食料農業情報分析検討事業(拡充) 0.8億円
ODA予算の戦略的推進 82億円
2 農業の持続的な発展
◆農業生産基盤整備の新展開
中山間地域総合整備事業(拡充) 643億円
国営造成施設管理体制整備促進事業(拡充)
 のうち管理体制整備型(新規)
80億円
流域水質保全機能増進事業(新規) 18億円
地域資源循環管理事業(新規) 3億円
土地改良負担金総合償還対策(拡充) 48億円
◆地域の創意工夫を活かす効率的な経営対策等の推進
経営構造対策(新規) ハード217億円
ソフト  8億円
経営対策体制整備推進事業(新規) 4億円
畜産経営活性化事業(新規) 10億円
新規就農者支援総合融資制度(新規)
就農支援資金 貸付枠150億円
公庫資金 融資枠20億円
農業近代化 資金融資枠100億円
農業人材確保育成総合対策事業(拡充) 2億円
農業・農村男女共同参画推進事業(新規) 2億円
高齢者活動促進システム確立事業(新規) 2億円
農地流動化地域総合推進事業(新規) 25億円
農地保有合理化促進事業(再編・拡充) 45億円
遊休農地解消総合対策事業(新規) 7億円
◆技術開発の重点的推進
グリーンフロンティア研究プロジェクト 54億円
◆農業の自然循環機能の維持増進
資源リサイクル畜産環境整備事業(新規) 52億円
ゼロ・エミッション型地域づくりプロジェクト 70億円
農林水産関係内分泌かく乱物質等調査研究総合対策、
 食の安全環境確立プロジェクトの一部
17億円
3 農村の振興
◆中山間地域等における直接支払いの導入
中山間地域等直接支払交付金(新規) 330億円
◆21世紀に向けた活気のある農村づくりの推進
農林水産情報システム整備プロジェクト 16億円
都市農村交流対策事業(新規) 6億円
都市農業支援事業(新規) 0.2億円
美しい農山漁村創出連携促進事業(新規) 0.5億円

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