「IT(Information Technology=情報技術)革命で経営が、ビジネスが変わる」と最近、盛んにいわれている。しかし、それは、「現代の企業はECを導入しなければ失敗するのは明白だ」と断言する人もいるように、インターネットとそれを活用したeビジネス(eコマース=EC)が中心だ。
IT革命といわれる背景には、パソコンを含めたコンピュータのハード・ソフト面での技術が急速に発展し、従来に比べ格段に使いやすくなったことと、インターネットが急速に普及したことがある。そのことで、誰もが国境を超えて瞬時に情報を伝え・受け取ることができる「情報のバリアフリー」が実現し、多くの人たちが「情報を共有化」できる時代になったことは確かだ。だがIT活用のもう一つの重要な側面は、データベースが従来より容易に構築できるようになったことだ。
最近、JAグループでも、ITの導入・活用が論議されているが、その内容はインターネットが中心になっているのではないだろうか。そのことも重要だが、JA段階で積極的に考えて欲しいのが「組合員データベース」の構築だ。
−急速に普及するインターネット
◆わずか3ヶ月で135万人増加
日本のインターネット利用者は、商用サービス開始後わずか5年で、世帯普及率が10%を超え、約1700万人・普及率11%と推定されている(※1)。しかも、利用者数はさらに拡大し、大手プロバイダ(接続業者)15社の加入者(ダイヤルアップ接続型)数は、昨年12月末からこの3月末までの3ヶ月で1059万人から約1194万人へ12・7%、135万人も増加。携帯・自動車電話端末によるインターネット利用者数も昨年12月末の約367万人から3月末には約750万人に倍増している(※2)。また、従業員300人以上の企業では、80%以上がインターネットを利用しているという(※1)。
インターネットの急速な普及は、いままでとは異なる新しいビジネスの形を創り出してきている。それが企業間ECのBtoBとか、消費者向けECのBtoCといわれるものだ。BtoBは海外との取引を含めて10兆円、BtoCは約3360億円(米国では約3兆円)の実績をあげており、5年後にはBtoCは6兆6620億円に達すると予測されている(※3)。
◆農家組合員にも確実に広がる
パソコンを所有している農家は全農家の30%で、その内インターネットを利用しているのは30%(全農家の9%)だと推定され、全国平均に比べてまだ低い水準にあるといえる。しかし、パソコンは確実に農家にも普及してきているし、携帯電話の普及はそれ以上に早い。JAがどう考えようが、国境がなく瞬時に情報を伝達できるインターネットに魅力を感じ、利用しようとする組合員が増えていくことは間違いないだろう。そのことを見越して、生産法人や専業大規模農家をターゲットに、インターネットを利用して種苗や生産資材を販売する事業がいくつか立ち上げられている。
−IT活用の目的は「顧客価値の創造」
◆信頼をさらに強める手段
JAの役員の方と話をすると「農協は“フェイス ツウ フェイス”の信頼関係でなりたっている」という意見をよく聞く。これは戦後55年間にわたって築き上げてきた協同組合運動の何にも優る財産だ。
JAが合併・広域化し、経営効率を追求するなかでも、この組合員との信頼関係を維持し、さらに強固なものとするためにこそITを積極的に活用すべきであり、それは「組合員(利用者)データベース」を構築することだと思う。
いま民間企業でITを活用することの意味は、経営効率の改善と付加価値の向上を行うことで、差別化した商品やサービスを提供すること、つまり「顧客価値を創造」することにある。
そのために「顧客データベース」とか、営業部門だけではなくさまざまな部門(顧客チャネル)から入手される顧客情報を集約し一元的に管理・共有しマーケティング活動を行うCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント=Customer Relationship Management)を構築することに必死で取り組んでいる。
◆銀行再編の要はDB構築に
バブル崩壊後、不良債権問題などで金融危機に陥っていた日本の銀行業界は、昨年相次いで統合・合併を発表した。銀行業界の「メガ再編」の目的は、「金融ビッグバンを勝ち抜く」ためだが、「ITをベースにした金融サービス競争に勝つためには、巨額のIT投資が必要であり、一行ではそれに耐えられない」ことも大きな理由の1つとなっている(※5)。このIT投資の要が「データベース(DB)マーケティング」だ。
◆米銀の後を追う日本の銀行業界
日本の銀行業界は、米国銀行業界のたどった道を後追いしているともいえる。1980年代、米国の銀行業界は78年の小口預金金利自由化に始まる本格的な規制緩和、発展途上国向け不良債権問題、収益性の低さ、自己資本比率の低さなどから、トップバンクを筆頭に株価が下落する。そこで、米国の各銀行は、リテール部門(個人向け業務)とコーポレート部門(法人向け業務)を切り離し、部門別収益が明確に把握できるようにし、コーポレート部門が抱える不良債権を削減し、収益性の高いクレジットカードなどのリテール部門の比重を高めることで、効率的に収益をあげられるよう経営構造を改善する。そして90年代初め頃から、「銀行経営のありとあらゆる局面にコンピュータテクノロジーを活用」しはじめた。その代表的なものが「DBマーケティング」だといえる。その結果、米国の銀行のリテール部門は「小売サービス業」に変身。ITの加速度的な進展によって「いまなお高度化しつづけているといってよい」(※6)
−必要な情報はすべてJAにある
◆リアルタイムな情報をDB化
DBマーケティングは、まず、顧客の
(1)口座残高と取引記録、
(2)属性=生年月日・家族構成・職業・趣味、
(3)年間所得、
(4)同一家計情報=別支店口座の取引、配偶者や家族名義口座、
(5)保険会社情報・投資会社情報 |
などを収集し顧客DB化することから始まる。JAならばさらに
(6)営農関係情報、
(7)農産物販売情報、
(8)生産資材購入情報、
(9)JA‐SS・Aコープ・JAグリーン・農機センターなど店舗利用情報、
(10)渉外先で得られたさまざまな情報や、台所にも上がれるLPガスの安全点検活動で聞いた話
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なども加えられる。これに家族全員の各情報を加えることで、より的確なマーケティングが可能となる。
◆都市銀行は情報をもっていない
しかし、いま顧客DBの整備を急いでいる都市銀行や一部の地域金融機関には、氏名・住所・電話・口座残高など自行取引以外のデータをさほど持っていないのが実情だ。生活様式や可処分所得データを把握するために、子会社であるクレジット会社から所得や購買履歴データ、与信データを取り込もうとしているのだろうが、所得データは契約時点のものであり、その後の変化をつかむことはできない。これは銀行だけではなく、他の業界でもほぼ同じだといえる。
◆事業の枠を越え情報の共有化を
ところがJAは、組合員組織と総合事業という基本的な特徴から、多様な組合員(利用者)情報をもっており、リアルタイムでそれを更新することができる。だが残念なことに、各事業ごとにシステムが分かれているために「事業ごとの縦割りサービスはできますが、統合的なサービスができない」(※7)。縦割り事業の枠を越えた情報の共有化ができていないというのが、ほとんどのJAの実情ではないだろうか。
−まず経営者が決断することから
◆まだ、遅くはない
メガ再編を行う銀行の経営戦略の核は、1300兆円の個人金融資産だ。しかし、このリテール分野は、人材・ノウハウの蓄積が少なく、彼らの不得意分野だ。だから組合員を中心とする地域住民の個人ニーズに合った商品やサービスを便利に、低コストで提供することができれば、JAにも大いに勝ち目があるといえる。
そのために、組合員組織と総合事業というJAの強みを最大限に発揮できるDBの構築が急がれる。
◆Compass‐JA活用して
ITは「時間と金がかかる」と思っている経営者が多い。しかし、本紙で紹介したJA周南(山口)は、わずか2〜3年の間に、市販のパソコン用ソフトを使って、自分たちでDBをつくっている(※8)。また、縦割り事業システムに連動し、JAの経営管理情報や組合員情報を統合する「Compass‐JA」がJA全中などによって開発され低コストで提供され、すでに実用化されている。(※9)
要はDBを、「組合員や地域の人からJAが信頼されるために、何をするかを考える有効な手段として、これからのJA経営にとって必要なもの」(徳本豊JA周南組合長)だと、経営者が決断できるかどうかだ。叱責を恐れずにいえば、その決断ができたJAが、21世紀に本当に信頼され生き残れるJAではないだろうか。
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