トップページにもどる 農業協同組合新聞社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑

農魂忘れず 事業の発展を
−JA共済連 代表理事会長 新井 昌一氏は語る
 「新生JA共済連 21世紀のJA共済事業の課題と展望」

 新井昌一・JA共済連会長は、本紙特集企画 「新しい時代を創るJA共済事業の挑戦」 でインタビューに応じ、今後の事業展開の課題などを語った。

 このなかで新井会長は、これまでの農協組織とのかかわりについて 「苦しい生活が原点」 にありそれを協同の力で改善しようとしてきたなどと語り、47都道府県連が一斉に統合したJA共済連についても 「農業が原点にあることから共済事業を捉えていなかくてはならない。農民らしい素朴な感情を持ち続けるべき」 など共済事業に対する基本姿勢を強調した。

 また、推進体制についてはライフアドバイザーによる専任体制とともに、これまで各地で行われてきた一斉推進についても「それがJA共済の特色」と今後も継続させるべきことを指摘した。今後の事業展開については、健康の維持増進の観点から共済事業を捉えていくことなどの必要性も強調した。聞き手は、白石正彦・東京農業大学教授。

(あらい・しょういち)
大正14年6月25日群馬県生れ。群馬県立旧制高崎中学校卒業。昭和41年高崎市中川農協理事、昭和44年同専務理事、昭和47年同組合長、昭和50年群馬県農協中央会理事、昭和55年高崎市飼料利用農協連合会会長、同年群馬県農協中央会・信連・経済連・共済連・拓殖連・厚生連代表監事、昭和59年群馬県中央会・拓殖連副会長、群馬県信連・経済連・共済連・厚生連理事、平成8年群馬県七連会長、平成11年全共連代表理事会長就任。


 

農協との関わりの原点は やはり苦しい生活に

 白石 今日は「新生JA共済連と21世紀のJA共済事業の展望」というテーマでお話をお聞かせ頂きたいと思いますが、共済事業は総合農協の事業の一環ですから、まず足元からというのがポイントだと思います。そこで最初に新井会長の今日までの地元JAとの関わりについてお話いただけますか。

 新井 群馬県では、昔は米麦と養蚕というパターンの農業経営だったんですが、今と違って技術水準が低かったから、天候によって蚕が病気になったり壊滅したりということがあったんですね。ですから、計画的な家計のやりくりができず、非常に貧乏したんです。今の人は貧乏ってことを知らないと思いますが、本当に困っていた。
 しかも養蚕と米麦だけだとどうしても仕事のない期間があるから農閑期もあるわけです。農協の経営も苦しくて年の暮れには米が集まっているからいいけれども、2月から4月は蚕も端境期ですから、農協は製糸会社からお金を預かって工面していた。
 その一方で、労働のピークのときはすごいんですね。養蚕が終わると麦の収穫、田植えと続きますから、なかなか布団のなかで寝られないような時代もあったんです。
 そこで戦後は安定した収入を得ようと私も仲間と酪農を始めたんですが、一方で農協もなんとかしなくてはならんという思いから関わりを持ったんです。ですから、私の出発の原点というのはやはり農家の苦しい生活をなんとかしようということにありますね。地元の農協では非常勤役員を1期やって、それから専務、組合長になりました。

 白石 旧中川農協の役員には昭和41年から就任されたのですね。そのころはやはり共済事業も万が一ということで生命共済、建物共済が中心だったんですね。

 新井 そうですね。群馬県のJA共済事業は昭和28年から始まっていましたが、私も役員になってから共済事業には力を入れましたね。

 

共済事業を切り拓いた 先達の精神を受け継がねば

 白石 共済事業は戦前の産業組合のときにはなくて、戦後、農協法のなかに事業として入ったわけですね。歴史を振り返ると冷害に苦しんだ北海道の農家と農協が全国に先駆けて昭和23年に共済事業を開始し、全共連も26年に設立されましたね。

 新井 共済事業の誕生にはそれだけではなく各地で多くの先人の大変な尽力があったんですよ。
 たとえば群馬県には金子与重郎という代議士がいたんですが、昭和29年に農協法改正法案を議員立法でつくって、JA共済の法的基盤を確立したんです。
 議員立法は今でもなかなか行われませんが、昭和29年のことですから、それには大変な勉強が必要だっただろうと思います。金子代議士は赤城山麓の自宅から前橋までは大変な坂道なのに、自転車で通って来ていたということですから、それはご苦労なさったんだとつくづく思います。この4月に墓参してきましたが、改めて自分たちはこの精神をどうしても受け継がなくてはいけないという思いを新たにいたしました。
 北海道では冷害が共済事業立ち上げのきっかけになりましたし、九州では農産物の販売関係の面からなんとかしなくてはいうこともありました。また長野県では産業組合運動が盛んな地域でしたからそういう歴史から、何とか助け合いとしての共済の仕組みづくりを行いたいと取り組んだ地域もあったわけです。

 白石 なるほど。その農協の共済事業は、今年の4月、全国連では初めて県連と全国連が一斉統合したわけですが、この取り組みの過程ではいろいろとご苦労があったと思いますがいかがでしょうか。

 新井 そういった苦労をされたのは、やはり佐藤秀一前会長でしょう。ただ、先輩方はすばらしいなと思うのは、共済事業の運営では、JA、県、全国が各々機能分担しているものの全国統一のシステムで運営がされてきたということです。

 白石 情報管理の電算システムをきちっと作られていたわけですからね。その意味では統合の下地があったということでしょうね。

 

相互扶助という協同組合の理念で組合員の思いを結集

 白石 さて、21世紀に向かって保険も金融も垣根のない形での競争時代に入ってきているわけです。それに適応することも大事ですが、同時に協同組合らしさも大切だと思います。農業者が苦労している状況を何とか協同の力で改善しようという思いが共済事業として発展してきたわけですが、そういう原点に立ち、組合員の思いをどう結集するかが課題だと思います。そのあたりについてはどうお考えでしょうか。

 新井 やはりこれからも原点は不変だと思いますね。47都道府県あれば47のレベルがあって、たとえば長期共済保有高で20兆円もある県とずっと少ないところもあるのは事実です。しかし、原点になる協同組合の理念、哲学は同じです。相互扶助ということですからね。
 ただし一方で、これから取り組まなければならない課題はたくさんあります。たとえば、その一つに資金運用があります。今までは47分の1のリスクだったけれども、ひとつの資金になったわけですからそれをどうやって安全に効率的に運用していくかですね。この問題についてはJA共済連のもっているノウハウだけじゃなくて、JAグループとして農林中金などのノウハウも活用するようにして、掛け金を少しでも安くしていくといった具体的な成果を上げるようにしたいと思っています。JA共済は有利でしかも安全だということを知ってもらわなくてはなりません。安全ということは信頼につながりますから。

 白石 事業としての優れた保障の仕組み、要するにJA共済を利用することによってこれだけメリットがありますよ、ということをわかるようにしていくわけですね。その場合、従来は集落組織を中心とした推進であったと思うんですが最近は他業態との競争もありますので、ライフアドバイザーを中心にしながら専門的なアドバイスも強めていくことだと思います。これは広域合併農協のなかでもっと進めていかなくてはいけない課題でしょうね。

 新井 まったくその通りだと思います。やはりプロとしての知識がなくてはだめですからね。ただし、これまでやってきた役職員による一斉推進も必要だと思っています。これは生・損保のまねのできないJA共済のひとつの大きな特色ですからね。ライフアドバイザーによる推進と、一斉推進と双方で補完しあうということが大事じゃないかと思います。

 

農魂を忘れず事業は素早い対応を

 白石 協同組合の共済というのはグループの力がベースですからね。その力を出していくうえでも都道府県段階と全国連が統合したということですから県本部と全国本部の交流も強まっていくことになるでしょうか。

 新井 そうしなければいけません。やはり農協本来の共済事業というものについて、農家の気持ちを肌で体験し、はっきり言えば百姓の精神、農魂を忘れないようにさせたいですね。他方、仕事の面では商才という言葉はあまり好きじゃありませんけど、そういうことも必要です。昔、士魂商才ということが言われましたが、私が言いたいのも魂は農にあるけれども仕事については近代的な感覚なり知識を身につけるということですね。そういう職員の養成も必要です。

 白石 農、あるいは協同組合の魂を持ちながらテクニックは時代にあったものを大いに活用するということですね。
 ところで、JA共済の場合にキーワードで信頼、安心、身近な生活総合保障といわれますが、協同組合らしい共済商品づくりの課題についてはどうお考えですか。

 新井 新しい仕組を出すことも大切ですが、まず一番は私はやはり万一事故があった場合の適応性といいいますか、素早い対応が大事だと考えています。
 私が組合長をやっているときの体験ですが、ある組合員が火事にあったとき、当座の資金が必要ではないかということですぐに現金を持っていかせたこともあります。後で結構ですという人もいましたが、本当によろこんでいただいたものです。
 こういう素早い対応もJA共済の特色じゃないですか。こんなことができるのも、ふだんからの信頼関係があるからなんです。なかには何十年、何百年と住んでいる家もあるわけですからね。また、被災者に対して本当に気持ちを込めて共済金を支払うことができるのもJA共済の良さだと思います。

 白石 JA共済は、健康管理活動とも連動している点も特徴ですが、私のイメージでは共済事業というのは組合員のさまざまな問題点をチェックすることができるんだと思います。たとえば高齢者に優しい農機具の開発や、健康を保つための食事を提言するなど、いわば安心できる地域社会づくりに役立つことをどんどん進めていけばよいのではないでしょうか。これは一般の保険会社ではできないことですからね。

 新井 そうですね。農協の事業は販売・購買事業にしろ、指導事業にしろ、共済事業にしろ相互に補完しあって、JAグループとしての総合力を発揮することを組合員も望んでいるでしょうからね。

 

地域社会で人を大事にするJA共済事業を

 白石 では、これまでのお話をふまえてこれから21世紀に向けてのJA共済事業の魅力をどうつくっていくか、その点についてはどうお考えでしょうか。

 新井 衣食住についてはこれだけ豊かになってると将来はやはり健康問題、地域の環境のことをみんなが考えるようになるんじゃないでしょうか。それにはたとえば有機無農薬野菜など健康な野菜づくりなどにわれわれが積極的に取り組むなかで、共済事業というものを捉えていく必要があると思います。
 それができると生が10年伸び、その分自分の人生を楽しむことができるわけですよね。ですから農業が原点だということから共済事業をすすめていかなくてはいけないと思っていますよ。
 今朝、ここに来るために4時半に起きて畑を一回りしてきたんですが、今は後継者がいないといいながら、70歳、80歳でも元気にトラクターに乗っている人は多いです。そういう点を考えるとやはり農業をやっている人たちは、ふだんの健康診断をしっかり受けていれば健康はかなり保てるんじゃないですかね。また退職した会社員も家に閉じこもらず野菜づくりなどによって健康を維持できます。つまり農業には多面的な効用があるわけですからわれわれがそういう場を提供するといったような地域社会とのつながりを持ちながら共済事業を展開していく必要があるんですね。

 白石 ある意味では、早く共済事業の世話にならない努力をサポートするということですね。それがまたJA共済のメリットを高めることになりますね。

 新井 すばらしい仕組みの開発も必要ですが、人生が10年伸びればそれだけ掛け金を安くすることもできるわけですから。

 白石 そこにJA共済のあり方があるように思います。また、健康づくりだけでなく地域の環境保全活動などにも広げていくことができますし、そういう限りない協同運動が共済推進の成果にもつながっていくような気がするんですね。

 新井 いかに民間との競争に勝つかということではなく、むしろ協同組合運動や環境保全活動などを通じて、いかに地域に和を広げていくかということが、結果として競争に勝つことになると考えているんです。
 われわれの考え方は排他的じゃないんです。ただ資金運用の効率化などの面で競争しなければならないところは当然やらなければなりませんが、それだけでなく共済事業等を通じていかに地域社会に貢献できるかということが大事なことなんです。そのためには、われわれが自らの姿勢をきちっとしていくことだと思います。
 JA共済というのは、地域の実情を知っています。組合員の所得のレベルもおおよそ分かったりしますから。そういう点では自分たちも変な競争意識に巻き込まれずに、JA共済にたずさわる役職員として農民らしい素朴な感情を自分のなかに持たないといけませんね。
 人を大事にする、相互扶助の理念が協同組合です。やはり大事なのはその土壌です。耕せば耕すほど土というのは再生産してくれるはずですからね。

 白石 協同組合らしい今後の共済事業の舵取りを大いに期待しております。今日はありがとうございました。


インタビューを終えて

 新生JA共済連の新井会長が強調された「農魂商才」、「相互扶助」など単純明快な協同組合らしいJA共済事業への思いと決意こそ、JAの組合員、単位農協や連合会の役職員を包み込む理念的エネルギー(独自性、効率性、地域貢献性)あるいは組織力の強化の源泉ではないかと大いに共感した。

 また、民間保険や行政サイドが農協共済の事業発展を押さえ込もうとしていた昭和29年に、群馬県選出の金子与重郎代議士等の議員立法で、農協共済の事業規定の整備も可能とする農協法の改正が実現した大変なご苦労を忘れてはならないと強調された点も印象深い(氏は改正法施行後わずか4カ月で惜しくも病没されたことが、今年発刊の『群馬県JA五十年史』に記述されている)。

 JA共済連は全国連と県連の統合で新しい段階を迎えたが、一方では、優れた保障(補償)をどこよりも有利に提供し、健康で安心した暮らしの実現に向けての取り組みと、他方では、民間保険や簡易保険との対抗力を確保し、牽制機能の維持・強化の取り組みに、トップ・リーダーとしての協同組合らしいロマン並びに組合員と地域社会を大切にする目線からの舵取りを大いに期待したい。 (白石)

(しらいし・まさひこ)
九州大学大学院修了、農学博士、東京農業大学国際食料情報学部教授。昭和53〜54年英国オックスフォード大学農業経済研究所客員研究員、平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、平成10年ドイツ・マールブルク大学経済学部客員教授 日本協同組合学会会長

 

農協・関連企業名鑑 社団法人農協協会 農業協同組合新聞 トップページにもどる

農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp