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座談会
「組合員の負託に応える事業運営の確立のために」

目前に迫った21世紀に向けて、4月に全国一斉統合を実現したJA共済連が、JA共済事業の当面する課題にどう取り組み、かつまたどういう展望を持ってJA共済の発展に取り組んでいくのかを、前田JA共済連専務と城谷、長田両県本部長に忌憚なくお話いただいた。司会は、JA共済事業研究会(農協共済総研主催)などにも参加されている押尾明治大学教授にお願いした。

出席者
 前田千尋氏 (JA共済連専務理事)
 長田悦男氏 (JA共済連長野県本部長)
 城谷 章氏 (JA共済連兵庫県本部長)

(司会)
 押尾直志氏 (明治大学商学部教授)


市場経済のなかで独自性をどう具体化するか

◆組合員あっての事業を原点に事業を運営

 押尾 農業を取り巻く環境が大きく変化するなか、共済事業は他の事業に先駆けてこの4月に47都道府県との統合を実現したわけですが、21世紀に向けてどのような事業を展開し、組織基盤を確立していくのか。また農協運動の発展にJA共済連がどのような影響力を行使できるのか、非常に大きな関心と期待が寄せられていますし、組合員・利用者から評価される統合効果をあげていくという重大な使命を担っているのではないかと思います。
 共済事業といっても市場経済が前提ですから、効率的で健全な事業運営を行わなければいけないし、生・損保、簡保との競争も避けられないのが現実の問題ですが、同時に、協同組合として民主的な運営が求められています。今後のJA共済事業の独自性をどう具体化していくかについて、お考えをお聞かせ下さい。

 前田 JAも連合会も、組合員が自分たちの営農と生活の向上・安定のために自ら組織した協同組合ですから、そういう農家組合員の期待と負託に応えうる事業組織をつくっていくのが本来の姿だと思います。JA改革は、環境変化に対応して、組合員の負託に応えうる事業運営を目指すためのもので、その一つの方策がJAの合併であり、連合会の組織統合だといえます。
 共済事業でいえば、大競争時代の中で、JA共済への組合員の期待に応えるために、良い保障・仕組みとサービスの提供。価格の優位性を堅持していくこと。将来にわたって営農・生活が継続できる長期の保障の提供。そして一元化された資金の効率的な運用を行い、その成果を組合員に還元をする。この4つの柱を堅持・拡大していくために、事業基盤を整備したいということで、連合会の統合に踏み切ったわけです。

 これからの事業運営については、基本的には、この4つの実現に努めることですが、「安いコストで良いサービス」をという組合員の思いを理解し、それに沿うように、効率的な事業運営を行って経費を節減すると同時に、サービスを良くするという二律背反的要素を同時に実現し、JA共済を利用して良かったという「利用者満足」をもってもらえるような努力をしていかなければいけないと考えています。
 それから組織が大きくなっても組合員の意思反映が十分できるように最大の配慮をし、「組合員あっての事業」という原点に基づいた事業運営を実現することが一番大切だと考えています。

 

◆JAらしい共済をフェイス・ツゥ・フェイスで

 押尾 統合をして一体化が図られたわけですが、県域の現場からみてどのような課題、展望をお持ちになっていますか。

 城谷 JA共済連兵庫の発足式で私は3つの約束をいたしました。1つは、低価格で優れた保障をいたしますということです。しかし価格競争の時代にこれを実現するためには、掛金構成や付加などいまの体系をすべて見直さざるを得ない時代が来ます。約束いたしましたが、不安でならないと申し上げました。
 2つ目は、高水準のサービスを均一に提供する約束をしました。しかし、47都道府県がこぞって同じ方向でできるのかというと、50年におよぶ長い歴史の中で築いてきた体質とかやり方が、2〜3年で果たして是正されるのかという心配をしています。
 3つ目は、安心と信頼を得る事業経営の健全性の確保です。そのために、すべての県域の職員とJAが、これを実現するために理解を深めてもらわないといけないと思います。

 全国本部には、資金の運用に全力を傾け、目に見える形でJAや組合員にディスクローズし信頼されるようにして欲しいと県域としては望んでいます。
 それと仕組み改訂ですね。常に掛金面で、どの生保にも負けないという仕組み改訂を柱にすべきではないと思います。JAらしい共済をどう組み込こんでいくかが、一番大事だと思います。建更ができたとき、また養老生命ができた当時は、高度な研修をしなくても誰でも推進でき、誰にも分かりやすく、組合員に受け入れてもらえたものです。

 それからインターネットによる販売が世間でいわれています。地域にJAがあり、JAが経営をしていくためには収益が必要ですが、インターネットで全国販売したものの付加収入をどう配分するかは、大変難しい問題です。私の考えはインターネットでは極めて簡易な掛け捨て型の商品を取り扱うこととし、生活の総合保障をする商品はフェイス・ツゥ・フェイスで推進する姿が向かうべき方向だと思います。それが、LA体制を確立していくことでもあるわけです。

 

◆現場感覚を体得して商品開発を

 長田 事業活動を通じて、どのように組合員に必要とされているか、ということをとらえていくことが大切だと思います。いままでは、JA共済としての仕組みはどうあるべきかという基本的なビジョン、スタンスが少し欠けていたのではないかと思います。生・損保と対抗上やらざるをえないと進んできた部分がかなりあるような気がしますね。

 そういう意味では、開発の担当者は地域に入って仕組みなどを検討する。県本部やJAも具申していくことで、開発部門をもっと強力にしていく必要があると思います。長野県では「仕組み改訂研究会」を昭和55年につくり、全共連に現場の情報をいろいろ申し上げました。その時は相手にされないような事項が3年くらい経つと、「これはやる」といわれたりすることもありました(笑)。
 それから、真の一体運営をもう少し強力に図って欲しいですね。全国本部自らも現場に入って仕事をするために、もっと人事交流をして学んでいただいて、その経験を全国一体運営の中で活かしていただく必要があるのではないかと思います。と、同時に、県本部はそれだけの権限と責任をもち、その評価を厳しく行う必要があると思います。

 最近はいろいろな販売の方法がありますが、基本はJA組織は人の結合体だと思います。そのことを忘れた事業は最終的には伸びないと思います。厳しい経済状況にありますから競争はしなければなりませんが、「情報化の時代」「心の時代」ともいわれていますから、心を大切にして、先輩たちが築いてきたからJA共済もここまで育ってきた経過を忘れてはならないと思います。

 

◆普及推進では県域での創意工夫を活かして

 押尾 お二人の県本部長さんの話で共通していることは、県の役割をどう明確にしていくかではないかと思います。とくに今回の統合は、組合員・利用者の意思をJA共済事業に反映できる仕組みづくりのための組織改革でもあるわけですが、その点について前田専務からお話いただけますか。

 前田 合併委員会などで一番論議されたのも、JAの意思反映をどうするかでした。総代会、理事会を基本にしながら、県域では事業運営委員会を設置して、県本部長も入って協議をして、意見を集約しながら運営していきます。そして、原則、月に1回県本部長会議を開いて意思反映をしていくことにしています。

 全国本部の職員も現場感覚をもって仕事をすることが大事だから、人事交流をというご指摘がありました。現在、県本部から50数名が業務出向という形で全国本部に来ています。そして全国本部からも10名程度出すということで、理事会にお諮りしましたときにももっと出すべきだというご意見がありました。確かに、理屈で覚えるよりも、身体で現場の意見・感覚を体得することは大事だと思いますし、全国が1つの組織になったという一体感を出すには、人と人の付き合いの中で議論をし、時には喧嘩もして理解し合うことが大事だと思いますから、増やす方向で検討をしていきます。

 県本部の役割については、それなりの整理はしていますが、出発したばかりですので、まだ、整理内容と現実が一致しないこともあると思います。しかし、普及推進や査定については、これまで県域で培ってきたものが主体的に活かせるような方途は必要だと思います。基本的に統一をしなければいけないことは統一しますが、それ以上の創意工夫は県域であっていいと思っています。


JA共済の力を発揮して統合のメリットをどうだすか

◆JAらしさは永遠の課題

 押尾 JAらしい共済というお話がありましたが…。

 前田 JAらしさというのは永遠の課題ですね。共済の保障仕組については経営委員会の専門部会で議論をしていきたいと思いますが、そこでは長野県の研究会のような現場のこうして欲しいという意見を汲み取りながら、社会の変化との兼ね合いも議論して、1つでも2つでも実現できるような努力をしていかなければと考えています。

◆長期的な視点に立って格差を是正

 城谷 連合会がものを考える場合に、意思決定が早いのがいいかというと、早すぎて悪い場合もありますね。例えば統合メリットということで、昨年度、新契約の付加を前倒しをしましたね。そのため、今年の予算を発表したら、何でそんなに少ないのだといわれました。それから高額契約者の囲い込みということで、対抗上すぐに優遇策を取りますが、そこで費用を使いすぎて次の手が打てないというようなことにならないよう考えておいてもらわないといけないように思います。

 長田 統合メリットの問題は、長野でも出ています。それは、会員還元問題と城谷さんがいわれた前倒し問題ですね。これから目に見えるようなメリット還元は難しい問題ですね。例えば財産運用でいうと、全国本部よりも良かった県連もあるわけです。そういう中で、割戻などについて納得してもらうには苦労するなと実感しています。しかし、統合というのは、1年とか2年という目先の問題ではないということで、全国47都道府県連が将来もそのままだったらということを考えれば、統一したなかでみんなの力で支えて、JA共済の力を発揮して、統一的なメリット還元をしっかりやっていかないと、将来が展望できないということで、ご理解を得ることになると思いますね。

 県共連が全共連以上の運用利益を確保したといっても、全共連の指導や協調融資があったからで、県共連だけの力ではなかったわけです。この激動する流れの中でやっていくには統合という方法しかなかったとご理解してもらっています。

 押尾 組合員への最大奉仕という大きな目標にたって統合をはたしたわけですから、長田さんがいわれたように、長期的な視野にたって格差をなくしていくことですね。右肩上がりの経済成長が期待できず、農業を取り巻く環境も厳しいなかで、次世代も含めて利用者をどう確保していくかという重大な課題を統合は担っているわけですから、統合はバラ色ではなく大きな試練を覚悟しなければいけないということでしょうね。

 

◆組合員の小さな疑問にも答えられる体制を

 押尾 資金運用を一元化することでリスクが発生しますし、低金利で運用環境が厳しいわけですが、リスク管理をどうしていくのかという問題がありますね。長期契約の8割を3割の契約者でまかなってきたという体質を維持していくのは、これからは難しいと思いますし、ディスクロージャー(情報開示)をどうしていくのかも課題になると思います。それと関連してチェック機構、一般的にはコーポレート・ガバナンスといういい方をしますが、これをどう具体化していくのかについては、いかがでしょうか。

 前田 従来から会員に対しては情報を公開してきましたが、これからは県本部長会議などを通じて経営内容を明らかにしていくと同時に、内部監査体制を充実していきます。また、平成8年度決算から「情報開示誌」を発行していますが、さらに組合員から安心と信頼を得るには、もっとディスクローズを充実をさせていく必要があると考えています。
 具体的にはこれから検討をしますが、私の考えとしてはまず、理事会・総代会・会員を含めて内部監査体制など自己責任体制をきちんととることが必要だと思います。そして、組合員・利用者からも「なるほどそうなのか」と理解を得られるような体制にすることだと思います。ソルベンシーマージン比率の向上と同時に、会員であるJAや組合員・利用者の「これは何だ?」という小さな疑問にもきちんと答えられる体制・方途を考えなければいけないと考えています。


高度なサービスと割戻で組合員の負担を軽減

 押尾 JAにおける信用・共済以外の事業の収益があがらず、共済事業の収益が赤字補填に使われているという指摘がありますね。そして、ディスクローズすることも含めて事業部門別採算に改善するべきだという意見もあります。共済の価格競争力という点でも付加を下げていかなければいけないという問題もあり、収支の区分を明確にするという意見についてはどうお考えですか。

◆総合事業の力を有機的に結びつけて

 城谷 連合会の立場からは、総合事業を行うJAの経営に口を出すことはできません。押尾先生も参加されていた「JA共済事業研究会」で藤谷築次先生から、収支区分を明確にし共済の収益を他の赤字部門に回すべきでないというご指摘があり、JAからヒヤリングしましたが、こぞって反対されましたね。

 押尾 そうでしたね。印象深く記憶に残っています。

 城谷 私は、世間からみて掛金構成がおかしければ修正した方がいいと思います。それから、統合して組織2段になったわけですから、当面はJAに余剰が生まれたら、組合員に費差として、JAの経営の実状によって割戻で決めていったらどうだろうかと思います。JAによっては共済で補填しなければ経営が難しい部門もありますから…。

 長田 JAも最近は事業本部制をとるところが多くなりましたし、大型店舗を経営するJAも増えましたから、共済を赤字部門の補填に使うという単純な発想ではなくなってきていますよ。そうすると、いままでJA共済のもっとも強力な推進形態である一斉推進 に隘路が生じてくるということがあります。
 しかし、一斉推進を止めるかというと、一斉推進はJAの全体運動の実践的形態だから職員はそれを体感しなければという信念をもっている組合長は多く、当然そうはなっていない。一斉推進と部門別採算制を合理的にリンクしてどうやってやっていくのかは、考えなければいけない問題だと思います。

 前田 各事業部門の独立採算制については、今度の22回JA全国大会の議案にも盛り込まれると思います。最近の企業の動きをみていると、他の事業や業態へ進出しやすいような組織形態へ再編されつつあると思います。ところが、JAは総合事業として各事業を展開してきているわけですから、この持っている力を、有機的にどう結びつけていけるかということにも、目を向けて考え直さなければいけないのではと思います。例えば介護や福祉については各事業の連携のなかで包み込めないのかと考えているんです。

 

◆価格引き下げには事業費を削減するしかない

 押尾 民保の価格引き下げ競争をみると、現場で働いている労働者や営業職員、あるいは代理店にしわ寄せがいく形で価格引き下げ競争に傾斜していく傾向がみられます。ですから必要以上に生・損保の価格水準にJA共済が合わせようとすると、県域やJAなどどこかにしわ寄せせざるを得ないという懸念があります。

 城谷 結局、そういうことになりますね。ですから、競争原理1点張りにのめり込むことのない強い体質をつくらなければいけません。私は職員に「現場を知って、現場に負けるな」と常にいっています。

 前田 価格や保障はリスクの組み合わせで決まってきますが、長期性のものだと、予定利率と予定危険率と予定事業費率(付加)の3つから成り立っています。予定利率は、低金利時代ですから高くするわけにはいきません。また予定危険率も、将来の支払いに過不足ないように設定しますし、経験統計に基づいていますので作為的に下げることはできません。リスク細分化という方法もありますが、リスクのいいところだけを引き受けるということは、JA共済ではできません。
 残るのは、事業費をいかに安くするかだけです。そうすると、全体でどう経費を節減するかということになりますし、JAにも節減した部分を一定程度負担していただくわけですが、これをどう会員であるJAに理解していただくかが、これからの大きな課題になると思います。

 

◆無定見な価格引き下げは必要ない

 長田 価格競争問題では、無定見に生・損保が下げたから下げる必要はありません。なぜなら、いままでのサービスなり、日常的なつながりを大切にし、組合員の信用・信頼をどうやって確保してきたかで勝負は決まると私は思っているからです。

 押尾 その通りですね。JAは総合事業ですから統合を機に経費の削減はしていかなければいけないと思いますが、完全な独立採算への転換については現場からも疑問の声があるわけですね。今後は民簡保に劣らない保障内容だけではなく高度なサービスの提供に重点をおくと同時に、割戻で組合員・利用者の負担を軽減していくことが、JA共済のとるべき方向だと私は感じました。


一斉推進の活性化とLA体制の強化が柱

◆複雑化する仕組み・保障に応える専門家・LA

 押尾 生・損保の価格引き下げに対抗していくためには、価格だけではなくJA共済の総合的な保障サービスの提供が基本ではないかと思いますね。とくに組合員のJA離れとか、次世代層の確保が大きな問題になっていますから、長田さんがいわれたように、日常の組合員・利用者との交流の重要性が改めて痛感されます。そういう意味で、今後のLA体制と一斉推進のあり方についてはどのようにお考えですか。

 前田 共済の仕組み・保障が複雑化していることと、組合員の資産管理について応えうる専門家として、ファイナンシャル・プランナー(FP)の資格を持つLAが必要だということで、12年度中に2万人体制にする予定です。しかし、一斉推進もLA推進もどちらも大事だと考えています。JAは人と人との結合体ですから、共済事業だけではなくて、信用事業や経済事業を通じた信頼関係のなかで、共済事業も伸びていくのですから、一斉推進の活性化とLA体制の充実強化は柱だと考えています。その割合をどうするかは、地域ごとに県域やJAで実態を踏まえながら創意工夫していただくことが大事だと考えています。

◆運動としての一斉推進の活性化を

 城谷 流れは、専門性ということでLAにならざるをえないと思いますよ。兵庫県の11年度実績では990名LAがいて、53%くらいがLAを中心とする恒常推進です。しかし私は、協同組合運動から考えれば、一斉推進はどんな形であれ残すべきであり、ぜひやって欲しいと考えています。
 将来的には一斉3割、LA7割が到達目標かなと思っていますが、まだまだ渉外の重要性について十分に理解されず「頼むから1、2年やってくれ」というトップがいます(笑)から、LAはすばらしい仕事だということをJA全体に理解してもらうことが大切だなと思っています。

 長田 長野県のLAは昨年度640名でしたが、今年度は900名体制を実現しようとやっています。共済事業が複雑になり、生・損保との競合も激しくなってきていますから、運動としての一斉推進は必要ですが、LAにシフトしていかざるをえないと思います。それに、いまは利用者も情報を持っていますからね。

◆大事な人材の育成

 押尾 現状では50%以上の契約が一斉推進によるわけですが、複雑化・専門性が進むなかでLAと一般職との情報交換とか、LAの人材育成には、どういう体制で臨んでいくのでしょうか。

 城谷 統合にあたって、推進研修部をつくりました。ここでLAの月毎研修を行うことにしています。また、現場で体験をして初めて良い企画ができるので、LAと一緒になって体験訪問をすることにしています。

 長田 長野県は16JA構想なので、LAトレーナーを16名まで養成して、LA管理者のよき相談相手となると同時に、同行推進までできる指導力をつけ、各JAに張り付けようと考えています。

 押尾 生・損保の商品開発が多様化し、複雑化していますね。損保では毎年300種を超える商品が開発され、それに近い数の商品が廃止されています。JA共済の本来のあるべき姿は、できるだけ簡素で分かりやすい仕組みの開発が理想なんだろうと思いますが、組合員・利用者からニーズがあれば無視するわけにもいかないわけで、LAやFPの資格を持ったエキスパートを養成していかざるをえないですね。


共済市場は本当に「成熟化」しているのか?

◆競争を促進し市場拡大するための「成熟化」論

 押尾 JA共済をめぐる環境変化のひとつとして「市場の成熟化」がいわれますが、私はそのことに疑問を持っています。生・損保が護送船団方式で業容の拡大・拡販競争を繰り返し、市場が飽和状態になり、経済の構造不況が追いうちをかけ市場が狭隘化するなかで、アメリカからの要請・圧力も加わって、政府は規制緩和政策を押し進めています。競争を促進して市場拡大を図っていくために「成熟化」という考え方が持ちこまれたわけです。市場競争を促進するためには、加入者の自己責任を前提にしないと、規制緩和・弾力化が十分達成されないからだと思います。

 生保は新契約件数を上回る解約・失効件数をかかえていますし、無理義理募集は依然として改善されていません。また、転換契約を巡る説明不足、ターンオーバー、相互会社の総代会の形骸化、粉飾決算、そして商工ローンへの迂回融資のように反社会的な資産運用などの問題を抱えています。10年度の生保会社の支払い総額は29兆円ですが、その内の26・2%7兆6000億円が解約返戻金で、保険金支払いよりも多いんです。こういう問題を抱えた生保市場は、本当に成熟化しているといえるのか? 消費者は保険について十分な知識をもっているのか? 十分な取引能力があって、会社や商品の選択ができるのか? という疑問を持っています。成熟化はそういうことと密接に結びついた表現だと思います。こういう問題点を解決できない以上は、生・損保との競争に無批判的に傾斜していくべきではないと考えております。

 

◆個々のライフスタイルに柔軟に対応すること

 前田 飽和状態といわれていますが、死亡保障について分析しますと、年代別の必要保障額と加入されている保障額を比較すると、まだ十分ではない年代があります。そういう意味では、個々の生活保障設計を点検のうえ理解と納得をいただき加入していただくことが基本だと思います。
 私たちは協同組合ですから、無批判的に競争についていくのではなく選択をして、対応していく必要があると思います。
 商品の開発サイクルが短くなっていますが、組合員・利用者への本質的な保障は何かということに視点を置いた普及推進が必要ですね。最近は、年金・介護・医療など生存保障ニーズが高まってきていますが、これに単品で対応するなど、個々のライフサイクルに柔軟に対応できるようなことを考えるべきではないかなと思っています。
 いずれにしても、どこにどのような要求があるのかという、現場感覚を取り入れた保障仕組みとそれに柔軟に対応できるシステムをつくらなければいけないと、強く感じています。

 城谷 飽和感があるから解約があるのではなく、勧め方に問題があると思います。兵庫では、新契約を増やすために不良契約を入れず、正しく保有が残る推進をしましょうと努力をしてきました。生まれて生きて死ぬという人生のサイクルに応じて、さまざまな共済があるわけですから、前田専務がいまいわれたことをぜひ実現して欲しいと思います。そして例えば子ども共済に加入したら、その1枚の証書に次ぎの保障を付加していくという仕組みを考えたらどうかと思いますね。

 

◆地域に密着すれば「飽和感」はない

 長田 解約させてはいけないというのはその通りですが、こういう経済情勢のなかでは、解約して経営や家計を立て直す人もいます。その場合、建更を解約して火災共済に入る人もいます。幸いにもJA共済に加入していたので、それを活用して家計を立て直せたわけで、解約即悪ではないんです。
 飽和感ということでは、まだ保障の足りない人たちに地道に入って理解と納得をいただいて加入してもらうとか、JA共済は地域を守るのがモットーですから、地域にしっかり密着すれば飽和感はないといえますし、まだまだJA共済を必要とする人は大勢います。


切り捨てられる弱者と地域社会に貢献するJA共済

 押尾 最後に、地域社会に貢献していくことが、21世紀の協同組合のキーワードになっていますが、地域とJA共済の関わり合いについてお聞かせください。

 前田 営農と生活の継続的安定を目指すために、「ひと・いえ・くるま」の総合保障を提供しているわけで、これも大きな地域への貢献だと思います。それと市場原理で社会が動いていると、弱者が切り捨てられる傾向がありますが、協同組合としての相互扶助への期待がありますしそれに応える役割を果たす任務を負っていると思います。介護・福祉への取り組みとか、農業のもつ多面的な機能のひとつである自然環境保全での貢献ができるものと考えています。
 健康で明るい地域社会への貢献を目指して、高齢化社会への支援を、オールJAの一員として他の中央会や他の事業連と一緒になって取り組んでいきます。

 

◆共済推進はJAへの地域の支持があってこそ

 城谷 県域では中央会を中心に、協同組合として地域にどう貢献していくかということに取り組んでいます。地域としての関りをJAグループ全体で盛り上げていくことで、共済事業もやりやすくなりますしね。協同組合そのものが地域に貢献する姿というものをつくっていただき、それを共済事業が補助していくことだと思います。例えば、交通安全思想を高めるとか、健康を高めるようなですね…。

 長田 若い人と子どもにJAへの関心を持ってもらうことが非常に大切だと考えています。若い人との接点はなかなか見出せないんですが、子どもとは「親子ふれあい列車」とか「ドッヂボール大会」を開催しています。ドッヂボール大会は、昨年からは地区予選をやらなければいけないほど盛会になってきています。
 地域貢献では、介護・福祉にどうJAがタッチするかで、JAへの評価も変わってくると思います。長野県の場合にはホームヘルパーの20%はJAグループの養成者です。共済としても助け合い組織をつくり、行政から委託されているJAには活動組織に対する助成とヘルパーの訪問介護車輌の提供を行っています。
 やはり、地域から支持されなければ、共済の推進ということだけでは限界があると考えています。

 押尾 今日はお忙しいなか、忌憚のないお話をお聞かせいただきありがとうございました。

 


座談会を終えて

 JA共済事業の組織統合によって発足した「JA共済連」は、いわば農協改革の取り組みの第一歩である。他の事業に先駆けて共済事業の統合がすすめられたのは、農協において現在共済事業がいかに重要であるかを物語っている。

 座談会の司会者としてのねらいは、ふたつあった。まずひとつは、農協を取り巻く環境変化の中で、「JA共済連」はどのような「21世紀の共済事業」を志向していくのか、という点である。民保との価格・商品面での競争に対抗していくことをもっとも重要な課題として指摘する意見が、かなり広く見受けられるからである。民保の場合は、人減らし合理化と顧客選別・顧客囲い込みをテコに業界の秩序の維持や保険市場の狭隘化などは、二の次ぎにしているかのように、なりふり構わぬ経営を展開している。組合員等の営農や生活を守るため、という大義名分を掲げ、無批判的に市場競争に傾斜していくことについては、専務理事もまた2人の県本部長さんも反対で、JA共済が組合員等の立場に立った保障の提供を使命とすべきことを強調され、私も深く共感した。

 今ひとつは、事業推進や仕組みのあり方などについて、これまでの都道府県連合会と全共連との意思疎通の不十分だったところを、「JA共済連」はどのように改革していこうとしているのか、という点である。

 事業組織統合の最大の目標は、組合員等の利益に資することでなければならない。組合員等の意思を事業運営に反映させ、総合的な生活保障を確立するとともに、活力ある地域社会の形成に貢献していくためには、地域に根ざした事業・運動の推進が不可欠である。したがって、事業組織統合は、県本部への権限の委譲と全国本部のいっそうの支援体制の確立が期待されるところであるが、県本部長さんからいくつかの要望が出され、今後もっとも重点を置いて取り組んで行かなければならないことを強く印象づけられた。 (押尾)

 

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