日本の畜産産業が魅力ある産業として成り立っていくには何が必要なのか。それを探るために、本シリーズではまず畜産販売の現場である川下の状況を取材しレポートすることから始めたいと考える。第1回は、食肉消費の全体的な傾向をデータでみるとともに、国産肉にこだわった販売を展開する(株)エーコープ神奈川に取材した。 |
◆家計消費量が減ってきている牛肉
ここ数年の食肉(牛・豚・鶏肉)の年間1人あたり消費量は28kg前後で推移しており、その畜種別内訳は牛肉7.3kg、豚肉10.7kg、鶏肉10.2kg(11年度)となっている−−食料・農業・農村政策審議会総合食料分科会食料需給予測部会畜産物第1小委員会(小委員長 浅野九郎治家畜改良事業団理事長)の調査審議を踏まえて公表された「平成13年度食料需給見通し」は述べている。
この「見通し」によれば11年度の牛肉年間1人当たり消費量は7.3kgと前年並みだったが、消費形態別にみると家計消費量が3.1%減の3.1kg、加工・外食等消費量が2.4%増の4.2kgになっている。さらに、12年度の購入数量は、12年5月以降、13年1月を除いて前年同月を下回った結果2.2%の減少となっている。そして、「食肉のなかでは相対的に価格の高い牛肉への支出を抑制しているとみられ」、牛肉への支出金額は1人当たり4.6%減少しているという。
◆増加傾向にある豚肉・鶏肉
豚肉の1人当たり消費量は、11年度が2.9%増の10.7kg、12年度も0.5%増となっており、「相対的に安価な豚肉に対する需要の高まりがみられ」るとしている。これを消費形態別にみると(11年度)、家計消費量は前年並みの4.9kg、加工・外食等消費量が5.5%増の5.8kgとなっている。豚肉の場合、全消費量の30%前後がハムやソーセージなどの加工用だが、12年度のハム消費量が1.4%、ソーセージが1.6%、ベーコンが1.8%の増加になっている。
鶏肉の場合には、「生鮮肉類の家計購入量の増加幅に比べ鶏肉の増加幅が大きいことから、景気の低迷等により牛肉、豚肉に比べ相対的に価格の安い鶏肉への家計需要が高まっているためとみとめられる」というように、11年度の年間1人当たり消費量は、3.0%増の10.2kg。12年度(4〜1月)は1.1%増となっている。消費形態別(11年度)にみると、家計消費量が0.5%増の3.5kg、加工・外食等消費量が4.5%増の6.7kgとなっている。
◆加工・外食消費が6割
これをまとめてみると、11年度の1人当たり年間食肉消費量28.2kgの内、家計消費量は11.5kg、加工・外食等消費量が16.7kg。家計消費と加工・外食等消費の割合は4対6となっているが、家計消費量の割合は年々減少する傾向にある。
また、100g当たり購入単価は10年度以降低下傾向にあり、12年度は牛肉258円、豚肉134円、鶏肉91円となっている。
◆輸入豚肉を扱わなくても売上は変わらない――エーコープ神奈川
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(株)Aコープ神奈川の
Aコープ「中田店」
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すでに多くの人から指摘されているように「倹約と節約の食生活時代」「食の外部化(外食・中食・調理食品)の伸長」という食のニーズの変化をここでも見ることができるが、売場ではどうなのか。(株)エーコープ神奈川の寺田裕取締役商品部長と同社の精肉担当バイヤー・清水克幸さんに取材した。
同社の精肉売場では、5年くらい前までは輸入肉が売上の40〜50%を占めていたが、いまでは20%以下になっている。そうなった大きな要因の1つは、豚の生肉については「農協の店舗・生産者サイドの店だということをアピールするために、すべて国産豚肉にし、輸入肉の取扱いをやめた」(寺田部長)ことだ。
当初は「正直いって精肉売場をある程度縮小しなければいけなくなるかもしれない」(清水さん)と覚悟した。ところが「店全体の売上構成比に占める精肉の割合は、輸入肉を扱っていたときと全く変わらない」という
◆多少高くても安全・安心を求める消費者
なぜか? 寺田部長は、低価格な肉を求める「お客さんは間違いなくうちの店からいなくなりました。その反面、若干値段が高くても安心・安全ということで納得するお客さんが増え、競合店との棲み分けに成功した」からだという。
とくに口蹄疫や狂牛病が発生したこともあって、輸入肉に対する消費者の信頼が失われ、生産方法や出所がハッキリし、安心して食べられる国産を求める人が多くなったからではないかという。
同社の豚肉は、神奈川県産「やまゆりポーク」だが、誰が、どこで、どのように飼育し、どんな飼料を使っているのかを伝えることで「安心・安全や出所に敏感な消費者」の支持を得ているということだろう。そして食べ物である以上「美味しさとか食感が良くなければ支持されることはない」のはもちろんだ。
輸入豚肉の取扱いをやめた同社は、価格ではなく、安全・安心・美味といった「品質」で競合店との差別化を行い成功しているといえる。鶏肉についても品質優先が貫かれており、扱う鶏肉は全農チキンの長期無薬飼料飼育の「ぴゅあ鶏」に統一されている。
◆増える加工品・半調理品の売上――無駄のない「食べ切りサイズ」
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Aコープ「中田店」の
精肉売場
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精肉売場の売上金額構成は牛肉30・豚肉30・加工30・鶏肉10だというが、最近は「味付けやころもをつけた商品の売上が増え、これからも増える」(清水さん)だろうという。
いま同社に限らず量販店など小売サイドでは、肉や魚など素材を提供するものの売上が落ち、加工品や半調理品がその分をカバーしているのが実状だ。それは「包丁を使えない人が増えてきている」ことや、「素材を買ってきて料理して食卓に出す時間的コストを考えると、最終的な味付けは主婦がするにしても無駄な部分がない『食べ切りサイズ』のものの方が合理的だという消費者の考え方」によるのではないかと寺田部長は分析する。
合理的な「食べ切りサイズ」とともに、「テレビで布巾を除菌していますか、という時代ですから、生肉や魚を台所のまな板で調理した後の処理を考えたら、家ではやりたくないという傾向がO-157以降強くなっている」ことも利便性・簡便性ニーズを伸長させている大きな要因だとも。
◆加工品でも国産をアピールした方が売れる
牛肉の場合にはコストが違いすぎ難しいが、豚肉や鶏肉の加工品や半調理品でも国産肉を使い差別化をはかる傾向がでてきているという。実際に売場では「豚肉の味噌づけなどでも国産が増えていますし、国産をアピールした方が売れる」と清水さん。
精肉売場の販売量は減っていないが、価格が下がった分だけ売上金額は減ってきている。相場が上がったからといって店頭価格に即それを反映することはできない。安心・安全、品質優先のお客でも「値ごろ感」を超えれば「去っていく」からだ。
売場から見れば、輸入肉や一般国産肉よりも若干高くても生産方法や肉質に「こだわりをもった」品質の良い肉を安定的に供給されることが望まれている。
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