座談会 自給率向上と水田農業確立のために |
11年産米の価格は低迷を続け生産現場には不安が募っているが、一方、今年の稲の生育は全国的に順調と伝えられ12年産米の集荷・販売対策にJAグループも本格的に取り組む時期を迎えようとしている。また、今年は第22回JA全国大会を秋に控え、地域農業振興策やJAの事業のあり方など幅広い組織討議も求められている。稲作経営の安定と新時代の水田農業の確立に向けてJAグループの役割が一層期待される。そこで今回の特集では、JA全中の中村祐三常務と全国農協青年組織協議会(JA全青協)の若林英毅会長にそれぞれの立場から、今後の課題、運動の展開方針などを語ってもらった。司会は八木宏典・東京大学大学院教授。 |
||
JA全中常務 |
JA全青協会長 若林 英毅氏 |
司会・東京大学大学院教授 八木 宏典氏 |
◆生産者は非常に忸怩たる思いが 八木 6月の自主流通米入札で平均指標価格は前月比5円アップとなりましたが、落札残が増えましたし、価格は前年比で1700円、前々年比で800円ほど低くまだまだ厳しい状況が続いていると思います。まず、現在の米についての情勢を中村常務からご説明いただけますか。 中村 11年産米は、昨年8月時点の作況指数が104と豊作基調で、もともと在庫もありましたから需給感が緩んで入札のスタートから価格が安くなりました。
稲作経営安定対策もありますし、今年度は特別補てんも受けられましたから若干の支えにはなったと思いますが、基本的にはこれから先に不安感があると思います。 ◆本当に方策が喜べない状況に 八木 米の低価格傾向は、ひとつには昨今の経済状況のなかでの消費者の低価格志向もあるといわれており、ここしばらく続く可能性も指摘されています。生産現場ではどうみていますか。 若林 生産現場でのいちばんの問題といえば価格です。価格は市場原理で決まるようになったわけですから、在庫米があるかぎりは価格はどんどん下がるという見通しが見えるということになります。 しかし、現場サイドでは限界に達しているんですよ。昨年、生産調整の未達成県は17県ありましたが、いくら生産を誘導したくても農家に限界感があってすすまないというのが現実です。 そういうなかで、これからわれわれも検討しなくてはならないと思っているのは補てん基準価格の算定方法です。どんな基準で線引きをするのかですね。 ◆麦、大豆作は3年後が課題に 八木 昨年の10月に決まった「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱」では、これまでのように単なる米の減反ではなく、麦、大豆についても積極的に生産を伸ばしていこうということになっています。また、米についてもそれぞれの地域で計画を立てて生産量を考えていこうという対策が出されたわけですね。この大綱については全青協はどう評価していますか。 若林 この大綱については、検討段階で全青協から15の提言をしましたが、そのうち11項目を取り入れてもらったので現場としては十分だとはいえませんが評価をしています。 実際、よく聞いてみると本作として取り組めばしっかり穫れるんですよ。ただ、いちばん課題だと思うのは3年後です。連作障害が一段と厳しくなったときに、ブロックローテーションとして農地利用ができるかどうかです。その対策がひとつの大きな課題になっていると思います。 八木 農水省の調査によると、この大綱については評価をしている人のなかでは適地適作の方向で産地形成ができるという意見もありますが、一方で気象条件、土地条件で水稲以外はできないとか、複雑で分かりにくいという意見もあります。地方からはどんな声がでているのか、それから全中としてはどう推進しようとしているのか、中村常務からお話いだけますか。 ◆生産基盤対策を重点的に 中村 まず、米の需要が減り、ミニマム・アクセスもあるなかでこれから米の生産面積を増やすというのは想定しにくい状況だという認識が必要ではないかと思っています。 それから、現在は、麦にしろ、大豆にしろ民間流通になり、価格も市場価格ということになりましたから、シンポジウムでは実需者の人にも出席してもらって生産サイドと一緒に話し合ったわけです。 ◆今の価格では再生産できない 八木 全体の政策としては市場原理の活用という方向に動いてきており、消費者の意向が市場を経由して分かるということはいい点ではないかと思います。しかし同時に価格が変動するという面もあります。そのために経営安定対策がありますが、まだこれからも改善の余地ありという気がしますね。若林会長はどう考えていますか。 若林 確かに今の米の価格は安いという感覚は私も持っています。ただし、一方で、稲作というのは、田植えをやって管理をして、収穫となるわけですが、その間に休みの時間もあるわけで、労働時間に見合った価格ということからすれば逆に言うと今までは高過ぎたという感覚もあります。 ですから、稲作だけではだめでそこに何かプラスαということになると、今は作物ごとの経営安定対策の要求はしていますが、将来的には農家所得全体の安定対策のようなイメージをつくっていかないとなかなか難しいと思っています。
◆やる気のある人どうつくっていくか 八木 今度のJA大会の組織協議案では、地域農業戦略、あるいはJAグループの販売力の強化などをうたっていますが、水田農業という観点からすると組織協議のポイントはどこになりますか。 中村 組織協議案では、基幹的農業従事者が10年後には現在の250万人から150万人に減るのではないかと指摘しています。したがって、やる気のある人、グループをどうつくっていくかが今後の課題であることを強調しています。 これまではまず全中主催の全国3ブロックの説明会を開きました。集まってもらったのは組合長さんをはじめ常勤の理事の方です。組織協議としては、もっと幅広く行う必要がありますから今は県段階で協議をしている最中です。ですから、意見全体がまとまるのはまだ先ですが、3ブロックでの説明会では、農業情勢が厳しいなか物流も含めて生産資材のコスト低減をいかに図るかについての意見や、担い手対策としては農協出資の法人を積極的につくるという提案に質問も多かったですね。それから将来の価格安定策の構築や急増している輸入野菜に対してセーフガードなど歯止めを発動できないかなどの意見もありました。 ◆JAの運営が会社的な感覚に 八木 全青協のほうでも組織協議案について検討するわけですね。 若林 組織協議にかけるのは8月からなんですが、協議に臨む基本的な考え方が大事だと思っています。 だから、今回についてはそこをきちんと分けて考えるという姿勢で臨もうということにしています。われわれも要求したからには責任を持って対応していこうと全青協では話し合っていまして、全青協らしい、全青協でなければ言えないようなことを中心に組織協議案を検討したいと思っています。 ◆農業に関わる部分の強化が必須 八木 農業協同組合という基本的な性格からすれば、農協そのものの経営の問題もありますが、販売、購買事業などやはり組合員の農業に関わる部分の強化が必要だろうと思います。 若林 実は今は、家族農業経営はできない状況にあるんですよ。専業農家といっても妻は勤めているという人も多くなっていますからね。 しかも、そういうまとまりができると、JAからの購買についても団体購入ができるわけで、大幅な価格の値下げもしていただいているんです。そういうことをJAも積極的に取り組んでほしいし、われわれも面積を増やしていく努力をしようということになるわけです。 八木 ただし、農協が大型化して少し営農指導が弱くなってきたのではないかともいわれています。この点について全中としてはどういう方向をお考えなのか、聞かせていただけますか。 ◆大規模農家や生産法人への支援を 中村 それにも関連するんですが、まず農協の大規模農家や生産法人の対応についてお話しますと、組織協議案のなかでは担い手や法人を育てようということと、かれらに対して支援していこうという両方をうたっています。 それから、3つめは販売の面で少し支援できないかということです。大規模農家や生産法人の方は自分たちで特徴あるものを作って販売もしていくという自己完結型の経営が多く、いわゆる農協の共計に入ってみんなと一緒になって精算されるというのを敬遠するということがありますね。したがって、そういう意識を生かせるような、たとえば農協が販売先を見つけるといった取り組みも必要だと思います。 営農の面では、地域農業戦略づくりをやっていこうとうたっていますが、将来、その地域でどういう作物をどういうふうにつくっていくのかという将来展望とそれに合わせて担い手育成や団地化をやっていこうということですね。それには行政とJAが一緒になってやっていかないと進みませんから、JAのほうでそれを担うのはやはり営農センターだと提唱しているわけです。
◆朝ご飯をもっと食べるように 八木 ところで、協議案のなかでは、自給率向上のために、米を中心とした日本型食生活の推進をあげていますね。米の需要拡大というのも大きな課題になるということですが、どのように取り組むお考えですか。 中村 米の需要拡大はこれまでも取り組んできましたが、そう簡単ではないという意識がありますが、いろいろな運動を組み合わせて地道にやっていくしかないという思いがあります。 それから子どもたちですね。小さいうちから、ごはん食を食べてもらわなくてはいけませんが、なかでも学校給食ですね。学校給食の回数は、今、全国平均で週に2・7回ですが、それを最低でも3回にまで上げていきたいと思っています。とくに大都市で低いんですね。東京のような大都市でいかに運動を広げていくかが課題ですね。 ◆学校給食への取り組み多い 若林 青年部としても、盟友の子どもたちはちょうど小中学生ですから、いちばん運動として多いのはやはり学校給食に関する運動ですね。 八木 それから国産の麦や大豆にも、遺伝子組換え食品の影響もあって消費者の関心が高まっていると思います。場合によっては、国産麦でつくったパンもあればいいと思いますね。つまり、米かパンかという対立ではなくて、輸入品ではなく国産品を食べるという食文化をつくることも大事になるんじゃないかと思いますが。 ◆作るだけでなく食べてもらう 中村 そうですね。自給率向上はつくるだけではなくて、食べてもらわなければいけませんからね。その点ではJAS法の改正で原産地表示が7月からスタートしたことは、非常に追い風になると思います。 それから先ほど話したJAS法の改正ですが、生鮮食品の原産地表示は義務づけられたわけですが、加工食品についてはまだ検討中ということなんですよね。したがって、豆腐や納豆については義務づけされていないわけです。たとえば国産大豆使用という表示がなくても水戸納豆って書いてあれば国産だと消費者は考えてしまうと思うんですね。その点を何とかしたいと思いますね。価格の問題もあると思いますが、今は少しの差だったら消費者は国産を買うんじゃないかと思います。
八木 さて、12年産米についてJAグループとしてどういう取り組みをしていくのかお聞かせいただけますか。 中村 新食糧法が施行されてから、年々、集荷率が落ちてきている状況ですが、私自身はこれからもどんどん低下するとはあまり考えていません。 先ほど営農指導の話にもありましたが、JA合併もあって農家と農協の距離が広がっているんじゃないかということも問題です。米政策の仕組みが毎年変わるなかで、農家にどのくらいそういう情報が伝わるのかということがあると思います。やはり農家との接触が大事ですね。 八木 青年部としてはとくに要望すべきことはありますか。 若林 最近、消費者のニーズとして低農薬の米が売れるという傾向があります。ただ、消費者との距離があるなと思うのは、低農薬イコール安い、じゃないんですよね。低農薬は高いんです。ですから、そういう米の価格が叩かれるとなると生産者が作れないということが現実にあります。 それから今年はこうしたいい天候で農薬の効果がかなり落ちてきまして、カメムシの発生が多くなっているんです。その被害があると価格は一気に下がるわけです。われわれも努力しますが、消費者の方にも知ってほしいと思いますね。全青協は昨年から消費者大会に参加していますが、そういう交流をこれから大事にしなければならないと考えています。 国民全体で農業考えるべき 八木 水田農業はわが国農業の中心的な部分を占めるわけで、これをよりしっかりさせていくためのJAグループの役割が期待されます。今後の抱負をお聞かせ下さい。 中村 あと半年で21世紀になるわけですが、21世紀には環境やエネルギーなどいろいろ問題が起きると言われていますが、食料問題は必ず問題になると思います。日本は飽食の時代といわれ、輸入に依存して自給率が低下し、かつ食生活のバランスもくずれているという状況です。国民全体が農業を考えるべきでそれを訴えていく必要があると思いますね。 若林 今の状況では、自分たちの子どもたちに農業を継がせられない所得です。どうにか継がせていけるような国内対策が必要だと思います。 八木 どうもありがとうございました。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp