座談会
アジアの留学生と考える 「お米・・・私たちの食事」 やっぱり家族一緒に食べるごはんが一番 |
米はアジアモンスーン地帯の主食である。しかし、我が“飽食ニッポン”国ではその米をあまり食べなくなったといわれてすでに久しい。では、他のアジアの国の人たちは米についてどんな思いがあり、どんな食事をしているのだろうか。立正大学と明治大学に留学している大学院生たちに話し合ってもらうことにした。みな、達者な日本語でざっくばらんに話してくれた。 食事について話が進むうち、家族や仕事に対する考え方や女性の地位、役割などでそれぞれの国の違いも見えてきた。やはり食はその国の文化を映し出すということなのだろう。また、中国では30代の人でも「子どものころ、米が足りなくてイモばかり食べさせられていた」という体験があるという。日本ではそんな飢餓体験を持つ人はずっと上の世代にしかいないが隣国にはいる−−。(文責 編集部) |
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米の消費量は中国も韓国も減る −韓国では25%が朝食抜きに ◆都会では朝食を簡単に済ます傾向が −最近の日本ではもっと米を食べようと国をあげて言わなければならないほどの状況です。それどころか朝ごはんを食べない人も増えていることが問題になっています。みなさんの国ではいかがですか。
崔 調べてみたら韓国では、今、一人あたり米や麦など穀物を168キログラム、肉類を40キログラム食べているというデータがありました。私が思うには韓国も日本と同じで、昔はごはんを炊いておかずは野菜中心なのが当たり前でしたが、最近ではハムとかベーコンとかが食卓に並ぶようになって朝はご飯を炊かずパンで簡単に済ませる人も増えているようです。 董 中国も農村と都会を分けて考えたほうがいいでしょうね。農村では、やはり農業は体力仕事ですからしっかり朝ごはんを食べていると思いますよ。ただ、都会では女性も外に出て働くのが当たり前で昔から専業主婦は少ないですから朝は簡単に済ませています。 李 今の中国は食べ物が豊富ですね。揚げ餅だとか、パン、クッキー、ケーキ、牛乳など何でも朝から食べられるようになって、とくに都会ではお米を食べる量は減っているんじゃないでしょうか。 董 米は1980年以前は、定量供給制で、1人あたり毎月14キロの配給だったんです。そのころは都会でも14キロでは足りなかったでしょうが、今は食べ物がいろいろあるから14キロも食べきれないでしょう(笑)。 孫 定量供給の時代は、月に2、3キロのときもありましたからおかゆをつくってもお湯ばかり(笑)。だから小さいときはコウリャンをよく食べました。今、食べたら懐かしいでしょうね。
董 子どものころは、いつもおなかいっぱい食べたいと思っていたという記憶が私の年代ぐらいまではあると思いますね。その年の定量供給が終わってしまうとさつまいもやトウモロコシを食べていましたから。米を十分食べられるようになったのは高校を卒業した1980年以降からです。 李 私の世代になると、もうそういう経験はないですね。母に昔食べていたというトウモロコシのスープをつくってもらったことがあるんですが、おいしくて。また食べたい(笑)。 董 たまに食べるからおいしんだよ。私はさつまいもばっかり食べていたから、今、さつまいもは見るのもいやです(笑)。 孫 私たちの世代では米を十分に食べられるようになってうれしかったし、やはり米は大事だと思うんですよ。 崔 韓国もパンや麺類が普及してきているのでしょうが、それでもお米を食べないと食事をした気がしないという人は多いですね。 減ってきた専業主婦 −食事は家族みんなが作ります ◆弁当屋さんはないから前の晩に作る −中国では、昼食はどんな感じなんですか。 孫 会社も学校も食堂があるところは多いですからそこで食べる人もいますが、女性は弁当を食べる人もいます。 −お弁当屋さんのようなところで買うわけですね。 董 いいえ。中国にはまだ日本のようなお弁当屋さんはありません。 −ということは、女性に限っては自分の弁当を朝つくるわけですか。 孫 朝はつくっている時間は全然ないですよ。ぎりぎりまで寝ていたい(笑)。前の晩の夕飯のあとに作っておくんです。簡単なものですが。 崔 そうなんですか。初めて聞きました。 董 むしろ中国では夕食を大切にしていますね。ほとんどの人が自宅で家族そろって食べていると思います。 −晩ごはんはやはりお母さんがつくる?
董 いえ、先に家に帰った人がつくるんです。誰がつくるか決まっていない。お父さんが先に帰ってくればお父さん、お父さんとお母さんが一緒に帰ってくれば一緒につくる。 (崔、編集部) えっー! 董 日本や韓国の男性がうらやましいよ(笑)。だいたい6時から7時に帰ってきて食事の準備をするんです。農村部も同じじゃないでしょうか。昼間は畑が遠いから弁当を持っていって夕方一緒に帰ってくるんですから。 −夕食はどんなメニューが多いんですか。 董 それはやっぱり油っこい(笑)中華料理ですよ。ごはんとだいたい野菜炒めとスープはつくるんじゃないですか。それから肉か魚の料理が加わる。 −お父さんが全部作る家庭もあるわけですね。 董 ありますよ。男の料理は女よりうまい(笑)。ただ、女性のほうが家に帰ってくるのはやはり早いですから、男は手伝うということが多いですが。それから市場が夕方に開きますから、お父さんが買い物して帰ってくることもある。 −なるほど。そういう大人の姿を子どものころから見て育つから、当たり前ということなんでしょうね。 董 いえ、見て育つんじゃないんです。 (崔、編集部) !? 董 子どものときからつくっているんです。ふだんから台所で手伝っているし、お父さんもお母さんも帰ってくるのが遅いときは、子どもたちでつくるんですよ。まあ、まずいですけど(笑)そうやってみんなで食べるんです。 孫 中国の子どもたちはたいてい食事をつくれますよ。私も小学校の2年生ぐらいから手伝っていて、中学生のころは両親が忙しくて夜遅いのでよく食事をつくっていました。 −お父さん、お母さんの分もその時につくるわけですか。 孫 もちろんですよ。家族全員の分を作ります。家事は家族全員でやるという考え方なんです。 崔 韓国では今まで専業主婦が多かったんです。私もごはんをちゃんとつくって夫や子どもに食べさせ、会社や学校に行かせるというのは女性の役割として当たり前だと思っていました。でも、最近は結婚しても仕事を続ける女性が増えてきて、食事の準備もし、自分も会社に出かけるという若い女性も多いです。ですから簡単な食事になっているのかもしれません。 やっぱり家族一緒に食べるごはんが一番 ◆「おふくろの味」などありません
崔 ただ、古い世代の男性は家事を手伝うことは少なかったと思いますが30代ぐらいの男性では、食事はつくれないにしても洗濯とか掃除をやってくれるらしいです。 −今の崔さんの話にも関連するんですが、日本には「おふくろの味」という言葉があるように女性が家族の食事に責任を持つという考えも根強いです。 孫 中国ではお母さんだけが食事をつくるわけではないですから、あまりそういう考え方はないでしょうね。子どもの食事についても日本のように母親だけがすごく気を使うということはないと思います。 李 でも、最近は地域によって差が出てきているとは思います。上海の場合は、すごく気を使う母親が多くなってきたと思いますね。子どもの食事をとても大切にして、なかには子どものころから栄養剤飲ませたり。 董 栄養不足どころかそのうち栄養過剰という問題もでてくるかもしれません。 崔 韓国でお袋の味といえば、キムチですね。 (董、孫、李、編集部) −−なるほど、なるほど。 崔 それぞれの家で味が違います。材料も白菜だけでなく、大根やきゅうりもあります。今でも実家に帰ると母のキムチがいちばんおいしいなと思いますよ。 −若い世代もキムチだけは家庭で作るんですか。 崔 いえ、親から送ってもらっている人もいます(笑)。宅配便も発達してきましたから、田舎のお母さんが余分につくってくれて送ってもらっているんですね。それとキムチづくり専門の会社も出てきていて、お母さんの味に似ていることを売り物にしているものですから、そういう所から懐かしがって買う人もいます。 ◆食事は家族のコミュニケーションです −食事って何でしょうね。 董 家庭は小さな国ですね。この小さな国が崩れたら国も崩れるんだと思います。食事はコミュニケーションですし、この小さな国を守ることだなんだと思います。 崔 今の日本を見ていると子どもが親を殺したり親が小どもを殺したりという驚くようなことがよく起きていますね。それで家族や子どもの何が問題なのか考えようとよくいわれるのですが、そんな大きなことじゃなくて小さいことから、たとえば家族一緒に食事を食べることだけでもいいと思うんですね。これまで食事って何だろうと考えたこともなかったんですがそう思います。 −最後に、その食を支える農業についてはどう思っていますか。 崔 先日韓国に帰ってみて驚いたんですがスーパーには中国の農産物が並んでいてすごく安いんですね。 消費者はどうしても安いものを買いますから、自分の国の農業者が農業やっていくにはどうしたらいいんだろうと考えさせられました。もっと保護するような政策が必要なんじゃないかと。 董 中国もWTOに加盟するようですが、そうなると安い食料が輸入されるでしょうから中国の農業も危ないんじゃないかと思うんです。日本は米の輸入に高い関税をかけています。もしそれがなかったら日本の農業がつぶれてしまいますよね。中国もそういうことをどう考えるかでしょうね。 孫 日本の米はおいしいですよ。私は中国に帰るときに日本の米を買って持っていきました。 崔 品種も多いしどこで食べても平均的においしいと感じています。 −どうもありがとうございました。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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