第22回JA全国大会特集 「21世紀に向けて食料・農業・農村に新しい風を」 −提言− 農と共生の時代へ 農業者が元気が出るJA全国大会を 国学院大学名誉教授 三輪 昌男
|
● 厳しい情勢を直視して この10月に開かれるJA全国大会が掲げている「基本方針」は 「『農』と『共生』の世紀づくり」である。今、農と共生が危ない時代がつづいている。その厳しい情勢を直視して、時代の転換に挑戦しよう。そう訴えるものとして、このスローガンは人々の心をゆすぶる。 厳しい情勢の例を簡単にみよう。 ● 新自由主義の時代 農や共生が危ない今の時代を、学界・言論界では「新自由主義」の時代と呼んでいる。その思想はこう主張する。−−▽自由な市場競争が最高の経済効率をもたらす。▽競争での優勝劣敗・弱肉強食は当然のこと。▽強者は「適者」であるゆえに「生存」している。▽弱者は社会にとって邪魔者であり、早期退場を促すことが望ましい。 日本でのその端的な現れとして、住専問題のときエコノミストたちが次のように主張したことがあげられる。−−「農協のような弱い金融機関を存続させたのは金融自由化政策の失敗だった。今からでも、早く退場させるべきだ」「グローバルな大競争時代を迎えた今、わが国の強い金融機関を弱めるような政策はとるべきでない」 ● 新自由主義者とは、共生でなく闘い 新自由主義を主張する人がおり、彼らが今の世の中を動かす中心勢力を形づくっている。彼らと、農と共生の時代への転換をめざすJAとの間に、共生は当てはまるのか。答は「否」である。彼らの動きによって、農と共生が危なくなっているのだから、彼らとは闘わなければならない。 このような、思想的・政治的に直接闘う姿勢は、大会議案書のこの箇所でみられるだけである。他の箇所でみられるのは、新自由主義の時代が深まるなかで対極として生じた、「ゆとり・やすらぎ」「環境」を重視する人々の「価値観」に即応して、活動を展開する姿勢である。政治団体でなく、事業活動を基本とするJAの場合、それは当然といえる。しかし、それも闘いなのである。新自由主義は自分にとって邪魔とみれば踏み潰す。だから、闘いの自覚が必要である。 ● 食料自給率向上への姿勢を正そう 「食料自給率向上」への取り組みは、直接的ではないが、農をめぐる、新自由主義との思想的・政治的な闘いの性質を持っている。 だが、食料自給率向上のために食生活の改善を、という発想には問題がある。 自給率向上の基本的方法は、国内穀物生産の拡大である。現行WTOルールだと、それどころか自給率のさらなる低下さえもたらされかねない。だから農水省は、そしてJAも「公正な貿易ルールの確立」を提案している。食生活の改善による自給率向上論は、その提案から話をそらす役割、提案への支持を高めるよう国民に働きかけるエネルギーをそぐ役割、を客観的に果たしている。 国内穀物生産の拡大をどうはかるか。困難が大きい。だから農水省はごく僅かな目標数値しか示していない。しかし、それでは低自給率への国民の心配に答えたことにならない。穀物の種類ごとに、この方法だといくらのコストでこれだけ可能ということを何通りか示し、国民の選択に委ねる。低自給率やむなしになりそうなものも選択肢の1つである。JAは、農水省のその活動に協力し、国民の選択結果に即して取り組む。 なお、次のことを付言しておく。−−健康のために日本型食生活運動を推進し、質実な生活のあり方を望ましいこととして食べ残しをやめる運動を起こす、というのを否定しているわけではない。食料自給率の向上と結び付けることを問題にしているのだ。 ● 農の難問には路線の選択肢の提示を 大会議案書は、米について「需要にあわせた生産をすすめる」といい、また「米、麦、大豆、畜産、酪農など品目特性をふまえた経営安定対策の充実に取り組みます」といい、それで終わりにしている。 JAグループ中央として、明確な1つの展望を描けない。そうであるとき、こうすべきであろう。−−農水省の政策のあり方(市場原理に傾斜したものと、それを離脱したものと)を含めて、いく通りかの展望を描く。それを議案書に簡潔に示す。 ● マネーゲームでよいのか 金融ビッグバンは1200兆円にのぼる個人金融資産に便益を提供するといわれた。そうなのだと金融業界では、リスクとリターンの高低を選択できる、投資信託・外貨預金などいろいろな金融商品の販売を競い合っている。その大勢に従って、JAグループも同様の「多様な金融商品」の開発、取り扱い体制整備をはかるという。それでよいのだろうか。 JAにとっては、より本質的な次の問題がある。「多様な金融商品」への運用はゼロサムのマネーゲームの性質を持っている。誰かの損で誰かが得をする。それは協同組合の理念に反する。また、JAがめざす共生の時代は、それを否定するはずである。それをどう考えて、大勢に従うというのだろうか。 ● 時代転換を阻む内部要因の克服 新自由主義の時代がつづいている。その力の作用を、JAもさまざまに受けている。▽知らぬ間に、それによってマインドコントロールされている、▽まずいと気づいても、離脱は容易でない、というように。 どうやって克服するか。基本は次の2つであろう。−−▽時代転換の視点で大勢を問題にする姿勢を固めること。▽大勢に従うか、別の路線をとるかの選択を、組合員に問うていくこと。 ● 新時代の大会のあり方を JAはさまざまな事業・活動を行っている。その1つ1つの取組み課題を網羅し列挙した議案書。従来のような、これを用いた大会運営だと、何でもありだが、参加者の感動を呼ぶこと少なく終わってしまいそうである。 次の大会は21世紀最初の大会である。JAは、農と共生の世紀づくりをめざしている。新時代にふさわしい大会のあり方。それを今から議論し、ぜひ実現して欲しい。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp