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「21世紀に向けて食料・農業・農村に新しい風を」

JAグループの米穀事業の改革について
米の需給と価格安定の実現へ
一致団結して対策の確実な実行を

JA全農常務理事 鈴木郭史氏


 JA全農は8月の理事会で「JAグループ米穀事業の改革」を決定。需給と価格の安定のため、JAグループがどう力を発揮しようとしているのか。JA全農・鈴木郭史常務理事に解説してもらった。

米穀事業改革の背景

 平成7年に「食糧法」が制定されました。その時、JAグループは、各段階において、「RICE戦略」を策定し、これに沿って、米穀事業を展開しました。
 全国段階においても、「新たな米共販運動の展開」(平成7年8月・全農理事会決定)を策定し、これをベースに事業をすすめてきました。
 しかし、規制緩和に加え、需給が大幅に緩和するなかで、卸間の競争が激化し、これに巻き込まれる形で、産地間競争が激化しました。「RICE戦略」は、”産地の生き残り戦略”になってしまいました。
 自主流通米の価格は下落し、販売も困難を極めました。また計画外流通米が増加し、計画流通米の集荷率が年々低下するなど、JAグループの米穀事業は、危機的状況に陥りました。

 こうしたなかで、私達は「食糧法」以降の”米政策の変化””流通実態の変化””JAグループの組織整備の進展”など、米をめぐる状況の変化をきちんと把握し、今後の米事業のあり方、方向を打ち出していかないと、それこそJAグループの米穀事業は崩壊してしまうのではないか、と考え、「米穀事業の改革」の取り組みを開始したわけです。
 今年1月以降、「経済連・県本部米穀担当部長研究会」及び「米穀・食販事業合同研究会」(20県、会社及び全農・全中常勤役員クラスで構成)を、それぞれ4回づつ、計8回開催し、生産・集荷・販売にわたる米穀事業の今後の対策を検討して案をつくり、8月4日の米穀委員会における審議を経て、8月24日の理事会で決定いただいたところです。

米をめぐる情勢の変化

 「食糧法」以降の米をめぐる情勢の変化は次のとおり、まったく激しいものであると受けとめています。

 まず、「米政策の変化」です。
 「食糧法」以降、平成9年には「新たな米政策大綱」、平成11年には「食料・農業・農村基本法」「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱」が打ち出されました。
 そして、ようやく向こう5年間のスキームが示されました。”軌道修正”しつつも、5年先までの枠組みを示したという点では、この”活性化対策大綱”において”食糧法体系”を仕上げたといえるのではないかと思っています。そのめざす方向は概略次のとおりです。
 @水田の活用:需要に応じた米の計画的生産と、麦・大豆の本格生産への誘導
 A担い手対策:大規模農家・農業生産法人等の担い手に重点を移行
 B価格政策:価格支持から所得補償へ
 C国の業務:民間移管の推進
 以上のような認識をもとに5年間のレールが敷かれたということですので、このレールに乗れるような課題整理が大切になってきます。とにかく、国の米政策は大きく変わりました。

 次に「米流通実態の変化」です。
 国の米政策変化を受けて、米の流通実態は次のように大きく変貌しています。
 @計画流通米の集荷数量が、年々減少する一方、生産者の直売の増加等により、計画外流通米が増加
 A需給緩和・景気低迷等の影響を受けた自主流通米価格の下落低迷
 B量販店対応の下における卸間競争の激化と再編二極化の進展
 C流通形態は、大量安定流通と特徴商品流通に分化
 D徐々に国産流通に影響してきたMA米
などです。米も食管時代の”特殊商品流通”から、”一般商品流通”としての性格がかなり強まってきたといえると思います。

 更に「JAグループ自らの組織変化」です。
 @JAの広域合併の進展(平成12年9月1日現在のJA数は1369)
 A全農と経済連の統合の進展(13年3月には27県との統合予定)
 B米穀事業における段階別機能分担と経営基盤の確立が緊急の課題
というようなことです。

 最後に「IT革命の進展」です。
 IT革命の進展により、電子商取引(eコマース)がJAグループの米穀事業に大きな影響を及ぼすことが想定されます。私はいつも言っているのですが、これを拱手傍観していると、JAグループの米穀事業はますます蚕食されることになってしまいます。

 以上のような情勢変化をきちんと認識し、これまでの私達の米事業への取り組みからの教訓を引き出しつつ、新たな方向づけを打ち出していくことが必要と考えたわけです。

避けては通れない「主体性」の問題

 米穀事業の”改革”を考えるとき、問題は外的環境変化だけではない、ということを真剣に考えてみる必要がありました。
 集荷率の低下、流通コストの増嵩、価格の低迷といった、集荷販売に係る様々な問題はJAグループ自らが作り出している一面があるということです。このこと抜きで”改革”を議論しても、本当の”改革”にならないということです。

 集荷にしても、主体的な取り組みになっていない面が多分にあるし、販売においても多額の販売対策費を支出して、産地間競争を激化させ、自ら価格を壊している面があることが明白になっているし、このような実態を”ほおかむりして”正論を言っても決して改革にならないし、「量販店の流通支配」「外国産米の浸透」「ブローカー的卸の価格破壊」などの流れをとどめることはできません。
 そういう思いで、「主体性」の問題を考える必要があるということです。
 このようなことを問えば、おもしろくない人もおりましょうが、避けて通れない問題なのです。

米穀事業改革のポイント

 詳細は別掲のポイントを見ていただきたいと思いますが、力点をおいたところを何点か述べさせていただきます。

○集荷について

 (1)生産と集荷はJAの基本機能であることを明確にしました。市町村と一体となって「水田農業振興計画」を策定・実践し、これを集荷につなげていこうということです。
 (2)「集まる」のではなく「集める」集荷を徹底するということです。対面推進、役職員ぐるみの集荷運動を展開することとします。
 (3)ウィングを拡げた集荷に取り組む必要があり、大規模農家・農業生産法人への対応、計画外流通米への対応など、これまでJAグループが避けてきたところに踏み込んでいきます。
 (4)連合会は、JAの活動を支援することを基本に、情報の発信、補完対策の構築に力を入れることとします。

○販売・需給調整について

 (1)販売推進は県段階の機能とすることを基本としますが、次の観点から一定規模以上の集荷で県間販売主体の県については、県段階と全国段階が一体となって販売推進を実施します。
 @産地間競争の抑制と流通コストの削減
 A統合連合(県本部も同一法人)の統一性維持  このため、県本部(県連)の消費地駐在事務所は段階的に廃止します(駐在事務所職員は当面全国本部に異動し、業務は継続)。

 (2)自主流通米価格形成センターでの価格形成が適切に行われることが重要であることから、入札・相対の取引方法の見直し・改善に取り組みます。また、新たな信用保険制度の創設に取り組み、債権の確実な回収をはかります。

 (3)「販売・需給調整措置」(仮称)の仕組みを構築し、短期的需給ギャップの解消に取り組みます。
 現在の需給調整の仕組みは、生産調整で計画生産、飼料用米への別途処理で豊作分の対応と、二階建ての構造になっています。しかし、短期的需給変動への対応措置がないため、産地間競争を止め得なくなっていることから、今の二階建て構造を補完し、短期的需給ギャップ解消のための仕組みを作るということです。
 具体的には、一定集荷規模以上で県間販売主体の県を中心に、全国的な「販売・需給調整措置」(仮称)の仕組みを構築します。
 このことにより、県間競争・価格低迷の悪循環を断ち切っていかなければなりません。なお、この仕組みと政府備蓄米の年産更新と結合の可能性も追求し、主食用米の販売環境を改善していければ、とも思っています。

○JAグループ米穀卸の競争力強化 広域米穀卸会社の設立について

 これには2つの意味があると思っています。
 ひとつは、統合連合になると、今まで本体内でやっていた卸業務を、国の指導により会社化しなければならないということ。これを各県バラバラにやっていては、他卸との競争に勝てませんし、また最近特に発言力を強めている量販店にも対抗できません。そのため事業競争力の強化に向けて、広域会社化をはかっていこうという意味です。

 もうひとつは、大手卸の仕入態様に翻弄されている現在の自主流通米販売の実態を、どこかで断ち切っていかなければならないということです。そのためには先に述べた”生産・集荷対策””販売・需給調整対策”と併せて、このJAグループの広域米穀卸会社を、1つの安定的販売先としての地位を確立していくことが不可欠だという思いがあります。今後、組織内の議論を重ねる必要がありますが、将来展望としては東西二社体制を提起しているところで、まずはできるところから取り組んでいきます。

「緊急総合米対策」と米穀事業改革

 米の需給は、12RY末の持越在庫が計画を60万トン上回ることや、12年産米の豊作などにより、かつてない厳しい状況が想定され、緊急対策に取り組まなければ、産地間競争の更なる激化、価格の更なる下落、流通の混乱など、まさに”異常事態”になることがはっきりしてきました。
 そこで、こうした事態を改善し、需給と価格の安定をはかるため、全中として要求をとりまとめ、運動を展開してきたところです。
 なぜ、このように計画と実態がくるってしまうのか、よく見ておく必要があります。

 「食糧法」以降の政策の流れは、前述の通り、「新たな米政策大綱」「食料・農業・農村基本法」「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱」とつづき、一応「食糧法」体系を仕上げ、向こう5年間の枠組みが決定されました。
 この枠組みに沿って努力していけば、「需給と価格の安定」はうまくいくはずの設計だったのです。

 しかしながら、思わぬ展開となってきたところがいくつか出てきたのです。
 第1は、年間で需給均衡を図っても、短期的需給変動に対する仕組みが欠落してきたため、産地間競争と価格下落がおさまらなかったということです。
 第2は、価格の”先安感”の中で、卸は在庫差損と回避するために当用買いに徹したため流通在庫が極端に圧縮され、これが「需要」の減少につながったことです。
 第3は、生産調整面積のいわゆる「ネガ」配分から「ポジ」配分に変更する考え方において、その「ポジ」配分の算定方法が、産地の危機感をあおることにつながったことです。更には、MA米の国産米への影響、930万トンの需要量の妥当性等も重なって、計画と実態の大幅なギャップを生み出したものと思っています。

 そこで、私達はこの思わぬ展開となっているところを修正し、向こう5年間のレールに乗れるようにしなければならないということで要求を整理し、運動を展開したわけです。
 その要求を整理するために検討資料として策定したのが、別紙「米の需給と供給の価格安定を実現するための関係図」(略称・米対策トライアングル)なのです。
 この”米対策トライアングル”の中に、「JAグループの米穀事業の改革」の中で整理した事項をいくつか盛り込んでいるところであります。この資料を持って、関係の方々にお願いして回ったのです。関係の皆様方の多大なご尽力により、別掲「平成12年緊急総合米対策」をご決定いただきましたが、今回の「対策」により、一定の進むべき方向が見えてきたと考えております。この「対策」を機に、JAグループとしても自ら実施する対策も含めて流通の混乱を是正するとともに、良品質の国産米が正常な姿で安定的に消費者に供給されるよう、全力をあげて取り組んでいかなければならないと考えています。

JAグループ米穀事業改革のポイント

◆国の役割の明確化
 米の需給と価格の安定に果たす国の役割を明確にし、国に対してJAグループの組織をあげて求める。@需給均衡化対策や販売対策の確立、A計画的生産(生産調整)実施者のメリットとしての稲作経営安定対策の充実、B国産米需給に影響を与えないMA米の管理・運営、C精米表示の適正化、など。

◆生産・集荷の機能分担
 (1)生産・集荷はJAの基本機能と位置づけ、JAは「水田農業振興計画」の策定に参画し、集荷につなげる。
 (2)連合会は需要に応じた計画的生産を支援するため、迅速な情報提供を行う。このため最新の情報技術(IT)を積極的に活用する。

◆計画流通米の最大限集荷と計画外流通米への「部分業務委託」方式の導入
 (1)生産者への対面推進を徹底して、計画流通米を最大限集荷することを米穀事業の柱とする。
 (2)計画的生産(生産調整)実施者の計画外流通米についても集荷対象とする。この場合、売渡委託方式を基本とするが、新たな集荷の選択肢として「部分業務委託」方式を導入する。

◆大規模農家・農業生産法人等の担い手への連合会の直接対応
 JAと連携し、生産・集荷・販売面で連合会による直接対応力を強化する。

◆農産物検査実施業務の民営化対策
 順次移行を進めるが、JAグループとして現実的に取り組める条件の整備を国に求める。

◆自主流通米の全国的な「販売・需給調整措置」の構築
 (1)適正な価格形成を実現するため、自主流通米価格形成センターの「自主流通米の入札取引の仕組みに関する検討小委員会」に対して売り手の意見反映を行い、入札・相対取引方法の見直し・改善をはかる。
 (2)産地間競争の抑制によるコスト削減、合理的な事業運営および全国域での販売調整・需給調整を効果的に行うため、@県本部(県連)の消費地米穀駐在事務所の段階的廃止、A一定集荷規模以上で県間販売主体の県を中心に、全国的な「販売・需給調整措置」(仮称)の仕組みの構築、に取り組む。

◆JAグループ米穀卸の競争力強化
 (1)大消費地にJAグループ米穀卸の中心的役割を担う広域米穀卸会社(東西2社)を設立する。
 (2)JAグループ米穀卸の事業拡大と経営の安定をはかるため、品質管理、信用保険制度の充実に取り組む。

◆米飯学校給食を中心とした消費拡大への取組み
 米消費拡大のため、とくに米飯学校給食について新たな仕組みを構築し、推進する。

◆物流・業務改善による流通コストの削減
 合理的・効率的な事業・業務運営に努めるとともに、物流・業務改革を進め、流通コストを削減して生産者手取額の増加を実現する。

◆事業機能の強化と経営改善対策
 JAグループ米穀事業の改革を確実に実行するため、事業機能を強化するとともに、(新たな『とも補償』、稲作経営安定対策および『基金』にかかるJAグループの事務費について、13年産からを基本に収受する。全農・全国本部は60キロ当たり10円)。

「平成12年緊急総合米対策」の概要

 去る9月28日、緊急に米の需給と稲作経営の安定を図るため、「平成12年緊急総合米対策」が決定されました。
 対策の概要は次のとおりです。

1.政府持越在庫のうち75万トンを食糧援助用として市場隔離
 加えて以下の対策により、12年10月末在庫見込280万トンを14年10月末には125万トンに縮減

2.12年産の豊作による生産オーバー分(26万トン)のうち15万トンは生産者団体の主体的取組みとして主食用以外の用途に処理

3.11年産自主流通米の販売機(うるち米20万トン)のうち今後の販売見込のないものは、政府持越米と交換のうえ加工用等に処理
 また、12年産米は、13米穀年度当初から、隔離効果の高い自主流通法人による一元的な調整保管を実施、需給事情に応じ政府持越米と差し替えて加工用等に処理
 なお、リベート販売の監視強化、精米表示の指導の徹底等を実施

4.13年産米の生産調整規模について、25万トンの需給改善のための緊急拡大を実施(5万ha程度)
 加えて、生産者団体の主体的取組として、作況100を超える場合の対応として5万haの需給調整水田(仮称)に取り組む
 ※緊急拡大・需給調整水田(仮称)内の生産調整実施面積に対する助成(生産調整未達成市町村を除く)
 @子実前刈取り、稲発酵粗飼料等の稲による転作、ソバ:2万円/10a
 A麦・大豆等@以外の一般作物、タバコ、景観形成等水田:1万円/10a
 B特例作物(タバコ・野菜を除く)、永年性作物、調整水田:5千円/10a
 この緊急拡大に取り組む都道府県の生産者から、生産調整未達成の場合の売戻し等を条件に25万トン、生産オーバー分の処理15万トン見合い分と合わせて、40万トンの政府買入を実施

5.稲作経営安定対策の臨時応急特例措置
 (1)資金残高の範囲内で、12年産補てん基準価格の1%相当額以内の特別支払を行う(資金残高要件を緩和)
 (2)生産調整緊急拡大への取組とその確実な達成および適切な入札価格形成を前提に、13年産補てん基準価格は、12年産基準価格と同水準とする(前提を満たさない場合は、原則どおり直近3ヶ年の平均価格)
 (3)生産調整緊急拡大への取組とその確実な達成を前提に、追加の資金造成措置を講ずる

6.米の消費拡大において、各省の連携強化の他、国民的運動を展開

7.適正な政府買入米価、政府売渡米価の決定
 政府買入価格:14,708円/60kg(対前年△396円)
 政府売渡価格:17,165円/60kg(対現行△198円)

対策の実施にあたってJAグループの取組み

この対策の決定を受け、JAグループは9月28日同日、全中・全農両会長による声明「平成12年緊急総合米対策の実施にあたって」を発表しました。

 この対策で、12年産米の市場隔離は、40万トンの政府買入と自主流通法人による隔離効果の高い調整保管の実施により、合わせて65万トン程度となるなど、販売環境は急速に改善されます。
 JAグループは、これが自主流通米価格に適正に反映されるよう、一致団結して対策の確実な実行を図る決意です。
 したがって、組織をあげて12年産米の集荷・販売を次により整然と取り組み、自主流通米の計画的な販売と価格の回復に努めます。
 また、こうした取組みと併せ、表示と内容が保証された良品質の精米が消費者に供給されるよう最大限の努力を行います。

1.計画流通米の集荷数量確保のため、JAグループが組織をあげて全力で取り組みます。  

2.対策において、稲作経営安定対策補てん基準価格の現行据置措置の適用は、適切な価格形成への取組みが前提となっていることから、過度な産地間競争を排除し、次の事項を厳守します。
 (1)入札の申出価格については、値幅制限が廃止された時、JAグループが主張して売り手に認められた権利であることを踏まえ、慎重に対応します。
 (2)稲作経営安定対策における適切な補てんの実現、流通コストの削減等の観点から、リベートは廃止していきます。   

 




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