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「21世紀に向けて
食料・農業・農村に新しい風を」


対 談

地域農業戦略で
多様な担い手を支援

 
JA全農専務理事
 堀 喬氏
東京大学大学院教授 八木 宏典氏
 JA全国大会議案の中の経済事業をめぐる対談だったが、話は、21世紀のJA像に及び、JA全農の堀喬専務は経済事業の立場から「生産者にとってなくてはならない存在としてのJA、消費者から信頼されるJA」でありたいと語った。また東京大学の八木宏典教授は、生産現場から収集した意見なども紹介しながら、盛りだくさんな議案内容のポイントを押さえ、「JAの組合員サービスにも効率や、また目的に応じた公正さが必要です」と提起した。


販売と連動した作物の生産体系作りを

 八木 大会議案には「『農』の力を発揮する地域農業戦略づくり」という方針がありますが、JAとして地域農業の振興にどう取り組むのか、その新戦略の特徴といった点を最初にお話いただければと思います。

  売れる物、需要に合った物を作ることがJAにとって非常に重要だとして、販売と連動した作物の生産体系を作り上げていく戦略を練ろうという方針になりました。これが今回の特徴だろうと私は思います。
 従来、地域の農業振興は、むしろ技術面での農家サポートでしたが、今後はどこで、何を、どれくらいの規模で、どう作るのかということを、しっかり押さえていく必要があります。

 八木 販売力強化と、そのための生産振興なり、販売企画の機能強化ということになりますか。
 それから担い手への支援、特に認定農業者や農業法人との連携が打ち出されています。農協離れの大規模経営を経済事業の中に取り込んでいこうという方向ですね。大規模経営との関わりを密にしていく考え方や課題をお聞かせ下さい。

担い手を育てるには、平等から公平へ

(ほり・たかし) 昭和13年島根県生まれ。日大農獣医卒。昭和57年畜生部蛋白質原料課長、昭和61年飼料部総合課長、昭和63年飼料部次長、平成2年畜産総合対策部長、平成4年東京支所長、平成5年常務理事を経て、平成11年現職。

  今後、日本農業が価格の安い輸入農産物に対抗して生き残るためには、経営規模の拡大、生産資材費の引き下げなどを通して農産物の生産コストをいかに引き下げるかが課題となりますが、その担い手となる認定農業者・農業法人に対し、経済事業の面からどんな支援ができるかということです。
 農協は組合員平等の原則で運営されてきましたが、担い手を育てるためには平等から公平といいますか、そうした対応を事業の仕組みの中に入れていかないといけないと思うんです。
 競争力の観点からも価格体系のあり方や取引の条件を見直す必要があります。例えば大型農家の中には肥料を自分で工場に取りに行く(自家取り)を希望する農家もいます。そうした要求に対応する価格体系・取引条件の仕組みが必要となってきます。

 八木 確かに情報の時代ですから生産者も場合によっては海外の価格情報まで入手しています。JAとしても競争のできる価格設定が非常に大事だと思いますね。

  畜産なんかは畜種によって階層分化がかなり進んでおり、農協も大規模経営体の価格政策に対応しています。今後は耕種部門でも、そうした対応を考える必要があります。

 八木 私どもが全国を回って大規模農家の方々に聞きますと、農協に批判的な人と、生き残りのためには農協と協力していく必要があるという人がいるんです。
 後者では例えば、ほ場の大区画化で農協の支援を受けたとか、また農協の農地保有合理化法人を活用して規模拡大をしたとか、農協の支援を受けているんですね。

  農地集積をうまくやって担い手を育てていくのが地域農業戦略のもう一つの特徴だろうと思います。

JAは農業法人に販売、資金面でも支援を

(やぎ・ひろのり) 昭和19年群馬県生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒、農学博士。主な著書に『水田農業の発展論理』(日本経済評論社)、『カリフォルニアの米産業』(東京大学出版)など。現在、米価審議会会長。

 八木 法人の会社とJAが協力関係を持つという、だいぶ踏み込んだ方針ですが、JAとしては個々の会社経営にどう関わるのですか。

  農協と法人は、農協と組合員という関係だけでなく企業対企業のパートナーの関係を持つ必要があります。
 JAは農業法人の販売面でお手伝いできる部分があり、また資金面の支援もできます。また販売先を自ら確保した法人には今度は代金回収の不安を解消したり、部分委託で輸送面をお手伝いすることなどを提案するといった法人対策が大切です。

 八木 確かに全国約6000の法人のうち半分くらいは加工や直売など生産以外の事業に取り組み、事業展開に当たっての悩みに代金決済の問題があります。それから最大の問題は運転資金ですね。JAがその辺をきちんとサポートできる体制になりますと、法人の事業展開が楽になり、JA経済事業の幅も広がります。
 一方、水田農業では小規模な組合員が多い中で、大規模化志向の人がいるわけですが、その調整役としてJAは従来から地域農業のマネジメント役をやってきたと思いますが、さらに一段と農地利用調整などの取り組みが必要だろうと考えます。

  もちろん、それも戦略的特徴の一つです。JAの営農センターで地域農業戦略を策定し、マネジメントの拠点にしていく方針です。従来の経済事業は購買、販売、営農のセクションに分かれ、それぞれが一人歩きするという弱点がありましたから、今後は営農センターを地域全体の営農計画づくりを行う機構と位置づけました。

 八木 そのためには専門的なスタッフが必要ですね。

  ええ、そこで全国機関としては生産・販売企画選任者を育成するための統一研修や人的支援、営農関係の情報提供などをやります。

より消費者に接近した販売体制の構築へ

 八木 マーケティングといいますと、インターネット取引もあります。多様な流通チャネルに取り組む方針を新しく出していますね。

  素材中心の卸会社への販売にとどまらずに、加工などの分野にも参入して、より消費者に接近した販売体制を構築していく方針も出しました。今までも部分的にやっていましたが、今回は、これを販売戦略に大きく位置づけました。

 八木 農協の扱う米の流通コストは少し高いのではないか、という批判に対してはいかがですか。

  おっしゃるように生産物の流通コストを引き下げる取り組みも重要です。生産資材事業については、県連と全農の合併を契機として、JAグループを通じて最適となる業務・物流システム(広域集中システム)を核として、担い手から取引先までを結ぶ一貫物流・情報体系(サプライチェーン)を構築し、物流の合理化を図ります。
 販売事業でも、このようなサプライチェーン的な考え方を取り入れた物流の合理化によるコスト削減の取り組みをやらなくてはいけないと考えています。

 八木 さて、作物別の経営安定対策は不十分ながらも、それなりに機能し始めています。
 農水省の調査では平成10年度の稲作経営安定対策を約9割の農家が評価していますが、気になるのは加入者数が69%に減っていることです。つまり小規模の農家は仕組みが煩雑で加入しない。その一方で大規模経営者の加入は増えているし、また地域によっても西の方の加入率は低い。経営安定対策でも、ある程度は公平よりも公正にウエートをかけるということにならざるを得ないと思いますが、どうですか。

  そうですね。価格が下がっても一定所得が得られるシステムにすることが重要ですから、経営安定対策は充実させなければならない。
 価格下落で一番に打撃を受ける専業農家などの、担い手の所得補償を充実することも課題です。

 八木 これからは畜産廃棄物の活用など、循環型農業と安全な農産物生産がキーワードになってくると思いますが、それにはコストがかかります。環境保全型農業を構築していくための地域農業のマネジメントについてはいかがですか。

  農畜産物生産の安心システムをつくり上げる方針です。基本は、生産者の栽培体系や農薬と肥料の使用量などを開示し、安心して食べてもらう仕組みづくりです。その中に循環型農業を組み入れていきます。
 例えば、養豚団地を広げているJA鹿角(秋田)は、ふん尿のたい肥を野菜農家に提供し、豚肉と野菜は東京の生協に供給するという循環型農業を非常にうまく進めています。安心システムの中に、そうした形態を組み込みたいと考えます。
 安心システムの試験的な取り組みでは取引先と話し合い、付加価値分のコスト高を理解してもらって進めています。

 八木 ヨーロッパでも農産物の安全性や品質を中心とした認証制度がずいぶんあります。わが国でも、ぜひ安心システムを、きめ細かな取り組みにしていただきたいと思います。
 それから、JAには一人一票制の原則がありますが、組合員それぞれの事業量に応じた受益も考えて、JA運営の基本を少し効率性という方向に切り替えていく必要もあると思いますね。
 ピーター・ドラッガーという学者が「NPOの経営管理」という本の中で、非営利組織であってもマネジメントが必要だといっています。例えば農民に対してサービスする場合でも効率なり管理なり、目的に応じた公正さが必要だというのです。JAの場合も21世紀に向けてはそうした方向に変えていく必要があると思います。今までの組合員はどちらかというと同質でしたが、最近は議案にも「多様な担い手の育成」を掲げているのですから。

  同じような規模の農家が兼業的経営でやっていたという時代から、生産形態も規模も変わってきていますから、われわれの仕事の仕組みも変えなくてはいけないと考えます。

 八木 では、どうも、いいお話をありがとうございました。



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