「21世紀に向けて
食料・農業・農村に新しい風を」 個を超えた協同の絆で 安心・健全な社会を 日本生活協同組合連合会会長 竹本 成コ 氏 聞き手:(社)農協流通研究所理事長 原田 康 氏 |
市場経済が世界を覆い尽くそうとするなかで、21世紀の協同組合はどうあるべきなのか。国際的な活動へも積極的に関わっている竹本成コ日本生協連会長に、諸外国の協同組合運動の現況を踏まえながら、日本における課題と、協同組運動への熱い思いを語ってもらった。聞き手は、JA全農常務などを歴任した農流研理事長の原田康氏。 |
原田 ベルリンの壁が崩壊してから、一気に市場経済が世界の潮流となり、ITが発達して金が国際的に駆け巡って、それに拍車をかけています。しかし、生活者の立場からみると協同組合的なものが、従来にもまして必要な時代になっていると思います。諸外国を含めた動向をどのようにご覧になりますか。
竹本 ベルリンの壁崩壊以降、旧ソ連の協同組合との連絡が止まりましたし、東欧の情報も入らなくなりました。ところが、1995年のICA100周年のマンチェスター大会に、ロシアも東欧諸国も出てきました。そこで東欧の方が「私たちは、経済の体制がまったく変わるという大きな変化に直面しています。そこで、世界の協同組合の皆さんに、私たちはお金とか物とか物質的な支援を頼むのではなく、この変化にどう対応していったらいいのかという知恵を教えてください。それが私たちに対する世界の協同組合の支援です」といったことが忘れられません。
原田 本当の豊かさが出てこないですね。もう少し協同組合的な運動として出てきてもいいと思いますね。 竹本 競争は大事だけれども、人間としての暮らしが破壊されたり、幸せが感じられない社会をつくってはいけないんです。この矛盾を解決するためには、協同組合主義を新たに構築していくことだと思います。お互いが理解しあい、手をさしのべあい協力しあい連帯しあうという、JAグループが掲げられている「共生」思想のようなものが、矛盾を解決する思想としてつくられていかなければ、本当に「悲観の未来」だと思います。
原田 経済力があるものだけが勝者というのでは寂しい世界ですね。 竹本 環境ひとつ守れません。まさに収奪と競争と弱肉強食で、人間の生存の条件を破壊しつくします。これは目に見えていますし時間との競争です。そして、食料の問題についても、こういう考え方がないと解決できないのではないでしょうか。 原田 資本の論理だけで農業を論じると、日本の農業はなくてもいいという市場経済万能論者の極論がまかり通ることになりますしね。 竹本 8月の末にスイスに行きました。スイスでは、以前から1年分の食料を確保し、しかもそれを各家庭でストックすることが義務づけられ、分散してみんなで協力して備蓄していると聞きました。全量かどうかは分かりませんが、食料を大事に考えているということです。 原田 日本のようにコメ以外の穀物をほとんど外国に依存して、これでいいというのとずいぶん違いますね。 ◆高い志とロマンがなければ組織のエネルギーは出ない◆ 原田 ICA東京大会の前後のころ、世界の協同組合が株式会社化しどうしようかというときでしたが、コープこうべを中心とする生協の「班活動」が非常に高い評価を受けましたね。 竹本 競合との戦いの中で歴史と伝統をもった英国の生協運動が後退し事業的にも困難をきわめたときに、昨年CWSと合同した英国の2大生協の1つCRSが「大事なのは組合員の参加だ。日本の班活動に運動の原点とエネルギーがあることを学んだ」といって、生協への運動参加と出資の増強という基本的な組織活動に取り組みました。 原田 協同組合運動は組合員参加というベースの部分が希薄になれば、協同組合の意義がみえなくなります。 竹本 ヨーロッパも日本も厳しい経済環境と激しい競争の中で事業としては困難に直面していますが、資本主義的ビッグチェーンと商売だけで戦っても協同組合の意味がありません。 原田 情報技術が発達する中で運動としてつくりあげていくには、もっと努力が必要ですね。 竹本 ITの急速な発達・普及がビジネスの構造を変えてきています。そのことに私たちも遅れをとってはいけないと思います。生協でもインターネットの共通基盤を構築し、この秋からコープこうべ、みやぎ生協と日本生協連がこの共通基盤を使ってホームページを立ち上げ事業を展開します。なぜそういう手段を講じるのかといえば、組合員の暮らし方に本当に必要なものを吸い上げ、食料品ならJAや食料品をつくってもらう人たちと協力して、安全・安心で、そして美味しいものを、合理的手段で少しでも安く、暮らしに役立つようにつくる方法をもう一度作り変えていくためです。 原田 生産者がその要望に応えて作る努力をすることで、農業が国民的なコンセンサスを得て支持されるわけですね。 ◆農業は都市市民の問題でもあると考える人がたくさんいる◆ 竹本 新しい基本法は「食料・農業・農村」となっていて嬉しかったですね。農業が先なら事業優先だと思いますが、人類生存の源である食料をまずもってこられた。食料が安全だということは必須ですね。そしてそれを安定的に供給する体制をつくらなければいけないと、位置づけられたと考えたからです。 原田 農業が消費者から支持されるためには、そのベースに協同組合的な思想がなければいけないということですね。 竹本 戦後ここまできたのは、農協があって、みんなで協力してきた農村の力なんですね。 原田 日本の文化の基礎ですね。その大事なものを簡単に壊すことには抵抗しないと…。 ◆周りの社会に関与し貢献するのが21世紀の協同組合◆ 竹本 これ以上壊してはいけないという歯止めはしっかりもたなければいけませんね。若い世代にはそれなりの価値観があると思いますが、安心して暮らせる健康な地域社会をつくるためには、個を超えて協力し合う間柄・絆が必要です。子どもの問題も、福祉の問題もすべてそこに帰着します。21世紀に子どもたちが本当に健全に育っていく社会をどうつくるか。私たちのコミュニティをどうつくるのか。避けて通れない時代が来たと思っています。 竹本 もう一ついま思うことは、20世紀の間に核兵器の廃絶を実現したかったな、という思いです。しかし、21世紀の早い時期に必ず実現すると思っています。 原田 生協運動には平和な社会の建設がテーマになっております。会長ご自身も広島での被爆体験がおありでしたね。 竹本 それもありますが、悲願です。しかし世の中変わりましたね。核抑止力の傘下という時代ではなくなりました。最大の暴力的な競争が戦争ですから、それを避けていく仕組みを人類は編み出すと思います。21世紀は、生きがいのある、やりがいのある時代だなと、生活者の場においても考えたいと思います。 原田 よいお話をありがとうございました。 インタビューを終えて 生協の事業の柱は、共同購入と店舗のどちらも競争の真っ只中で苦戦をされているが、単に生き残りのための競争ではなく、生協活動を「組合員が主人公」とする協同組合は何をする為にあるのかという高い志とロマンを基本に据えた運動をすることによって、いわゆる商業資本との差別化を図り、事業としての拡大を目指す方向が語られた。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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