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「21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を」
農と共生の世紀をめざして
消費者と生産者が一体となって自給率の向上を

全国農業協同組合中央会会長
原田 睦民
聞き手:青森大学社会学部教授・ジャーナリスト
見城 美枝子さん
 第22回JA全国大会のテーマは「農と共生の世紀づくり」。21世紀を持続可能な循環型社会にするためには農業こそ大切になるとのメッセージが込められている。さらに原田会長は「人の循環」も重要だと話す。農村と都市、農業者と消費者、日本と世界などの「共生」をキーワードに新しい農業、農村づくりに向けた展望を語ってもらった。インタビュアーは青森大学社会学部教授の見城美枝子さん。


国民合意で成立した食料・農業・農村基本法

 見城 第22回のJA全国大会では「農と共生の世紀づくり」がテーマだと伺っていますが、今日はこの「共生」というテーマを通して新しい農業、農村のあり方やJAグループの取り組みなどについてお考えを聞かせていただければと思っています。

 原田 見城さんとは4年前にローマで開かれた「世界食料サミット」でお会いして以来、いろいろご意見を伺っていますが、私はあれから食料、農業をめぐる状況がずいぶん変わってきたなと思っているんです。
 食料サミット以来、われわれも海外に自らの考えを訴える機会を積極的に持つようにしていて、多くの人と意見交換をしてきているわけですが、お互いに集まって話し合うことによってそのなかから連帯と参画の新しい世界をつくっていこう、新しい地域社会をつくっていこうという気運がでてきていると感じますね。

 わが国では、「食料・農業・農村基本法」が成立し、それに基づいて基本計画が策定されました。そのなかで食料自給率目標については将来は50%が望ましいけれども、10年後には45%をめざすことになったわけですね。
 自給率が低下してきている状況で、向上させるには生産面と消費面の両面で相当な取り組みが必要になります。いずれにしても日本の食料確保は、まず国内農業生産の増大を基本にして、さらに農産物は天候に左右されますから不足に備えて備蓄し、その上で輸入も組み合わせて食料安全保障を達成しようということです。この考え方は、国民合意で成立した新たな基本法という法律に基づいているわけですから、国際交渉の場でも堂々と主張できます。ですから、WTO農業交渉では、政府、与党とわれわれが協議して食料の安全保障や農業の多面的機能を掲げ「公正で公平な貿易ルール」になるよう各国に働きかけています。

(はらだ・むつたみ) 大正13年広島県生まれ。大阪専門学校卒業。昭和29年広島市農協監事、32年同理事、38年広島県議会議員、57年広島市農協組合長理事、59年広島県社会教育委員会議長、平成元年広島県中央会理事、3年同会長・広島県信連会長理事・全中理事、5年全中監事、6年全中理事・広島県経済連代表理事会長・広島県厚生連代表理事会長・全農監事・全国厚生連理事、8年全中会長。

 見城 私は自給率は70%ぐらいが理想だと思っています。というのも、オリンピックを見ていても最後はみんな自分の国を応援しますよね。だから、共生という場合、それは他国とのもたれあいではなく自力があってこそできることで、自給率が向上しないとできないことだ思うんです。

 原田 わが国では、国土条件や農地の制約などから農産物の輸入はある程度やむをえませんが、これほど外国に頼っていていいのかと思います。日本の農地は500万haを割っているのに、1700万ha分の食料を食べているわけですから。

 見城 限られた食料なのに海外から吸い上げているのでは共生とはいえませんよね。外国では輸出によって貴重な緑と水を失っているということにもなりかねないから、いつまでも続く食料供給体制ではないと思います。

 原田 輸出に偏った生産をした場合、その国の主食を確保できない恐れもあります。8月末に横浜で開催されたFAOのアジア太平洋地域総会、NGO会合でも、インドネシアの代表から、通貨危機に端を発する経済的混乱とエルニーニョ現象により一時的に国内自給ができない状況となったが、持続的家族農業があったおかげで雇用の確保など社会の安定や秩序の維持が保たれたとの報告がありました。また、農業は、食料の供給のみならず洪水防止機能など多面的機能があるわけですが、この機能は輸入することも輸出することもできないわけです。

 EUでは、動物愛護や基本的人権の問題が重要視されるなどNGOの集まりではそれぞれの国の文化や伝統、宗教をそれぞれの国が認めあって、共生していかねばならないということに皆が共感しました。ですから、各国の農業が発展し食料を確保できるようにすることが食料危機を克服し、世界的な共生も確立することになると思います。

消費者との共生は農業にとってビジネスチャンス

 見城 これからのJAグループの役割が期待されると思います。具体的な取り組みについてお聞かせください。

(けんじょう・みえこ) 早稲田大学大学院理工学研究科修士修了。平成11年4月より同博士課程に在籍。日本建築の研究を進める。TBSアナウンサーを経て、フリーに。海外取材を含め53カ国以上訪問。現在、青森大学社会学部教授。建築社会学、メディア文化論、環境保護論を講義中。著作、対談、講演、テレビで活躍。

 原田 「農と共生の世紀づくり」といっても、そのためには担い手が必要です。現在の基幹的農業従事者は234万人(平成11年)ですが、10年後には後継者不足や高齢化などで50万人ほど減ると予測されています。これにともなって農地がこれ以上減少したり、耕作放棄地が増えると農業の多面的機能の中の重要な機能である国土保全・水資源の涵養・環境の浄化などの機能を低下させることになりますね。
 そこでJAでは多様な担い手の育成と支援に力を入れることにしています。そのひとつが、集落単位で営農集団をつくることです。さらに法人化することも支援しようと考えていますし、大規模農家や農業生産法人についてもJAの事業とのつながりを深めて支援することにしています。

 本当の精農というのは、土を掴んだ瞬間に、何を播き、どう育てたらいいか分かる人だと思います。私は、こうした人が地域の農業にとってのよき内科医だと言っているんです。そういう内科医が増えて、しかも営農技術をオープンにすれば地域全体の技術も向上して適地適作もできると思うんです。

安全・安心な食料を安定的に供給する

 見城 人と人とが話を交わし合うコミュニティーというものが、まだ農村にはあります。その意味で生産者の間だけでなくて消費者との関係も大切だと思います。
 たとえば、日本の米はおいしいと思いますが、売られているおにぎりやお弁当であまりおいしくないご飯のことも多いですよね。日本の米はおいしいといいながら、実は日本全体がいい加減に扱ってきたんじゃないか、だから若者の米離れということになってしまうのではないかと思うんですが。これからは生産者の方々も消費者の口に入るところまで直結するといいますか、それをビジネスチャンスとしてとらえて日本中どこへ行ってもご飯はおいしいと言えるような供給までできないかなと思います。
 消費者との共生という場合、農業にとってビジネスチャンスがたくさんあるんだという捉え方もできると考えていますが。

 原田 多様な担い手が育てば、多様な営農だけでなく、生産から加工、販売までに取り組む形態も出てくると思いますね。その基本は安全・安心な食料を安定的に供給することです。これまでも産直に取り組んできましたが、今度のJA全国大会議案では生産方法や生産工程に関する情報を開示して、しかもその農産物を検査認証することによって安全・安心を供給する「安心システム」を構築をすることにしているんです。

 それからJAはファーマーズマーケットの設置にも取り組んでいきますが、これは「地産地消」ということにもなります。「身土不二」という言葉がありますが、地元で獲れたものを地元で食べるというのが健康にとってもいいことだといわれているわけです。
 こうした消費者と生産者、都市と農村が一体となった取り組みによって自給率が向上することになると思います。新たな基本法は生産者のためだけではなく国民全体のための基本法なんですから。

都市計画法に匹敵する環境を重視した農村整備法

 見城 そのためにも農業者に誇りを持ってもらいたいと思いますし、実際、すばらしい農業者に出会うとなんと力強く地に足がついて、本当に実業だなと感じるんですね。こういうことをもっと都会の人たちに知ってもらいたいです。
 そこで私が提案したいのは、農村が「環境都市・農村」という宣言をしてはどうかということです。今までの農村整備は、都市化という形で都市に追随するようなことが中心だったと思うんです。しかし、21世紀に向けては、農村にしかないものが貴重になっています。たとえば里山を開発するのではなくそれを残しながら地域づくりをするとか、そうした環境をつくるという近未来の社会のあり方として農村こそがいちばん新しいんだと宣言をする、また、そうした農村にしていくことが必要だと思います。

 原田 そうですね。21世紀が環境に優しい循環型の持続社会になるためには、農業を抜きにしては考えられません。次世代との共生もJAグループは課題にしていますが、これは次の世代が農村に住まなければ持続的に農業の持つ力を発揮できないからですね。これまでは国土の均衡ある発展としての施策が行われてきましたが、都市が栄え農村は過疎化してきました。ですから、これからは都市計画法に匹敵するような環境を大切にし循環型社会を実現するような農村整備法を作っていくべきだと考えています。

 それから、見城さんが提案された「環境都市・農村」を実現するには、多様な知識と経験、人脈を持つ人材が農村に住むことも必要だと思うんですね。「農と共生の世紀づくり」というテーマは環境に優しい循環型社会の実現を念頭においていますが、実は、人の循環ということも含んでいます。
 農村から都会に出て進学、就職した団塊の世代はそろそろ定年を迎えますね。私はぜひその後は田舎に帰って、培った経験や人脈などをふるさとのために役立ててほしいと思っているんです。IT革命と言われていますが、これは時間や場所の制約から解放されることで都市の機能を農村に住んでいながらも受け取ることができ、また情報を発信することもできるわけですし、そういう世代がふるさとに戻ってくれば、都会に住む孫たちもときどき田舎を訪れて農業と自然を満喫できます。

 このような定年帰農という人の循環型社会ができれば、農村も活性化する。こうなれば、他産業に従事する人もむやみに農業を批判することなく、むしろ農業のサポーターとしてまさに「共生」が可能になると考えています。

 見城 多様な人材がいることは大切ですね。単体では弱いですから。

 原田 そうです。JAでも多様な人材が必要で4番バッターばかりではなく、ポジションごとにふさわしい人材が必要なのだと私は言っているんです。

 見城 21世紀を前に土地神話も崩れ、土地とは何か、作物を実らせる力があるんだ、という本当の価値があぶり出されていると思います。ぜひ、新しい農業、農村づくりに大きな役割を発揮していただきたいと思います。ありがとうございました。



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