「稲作経営の安定とJAグループの米穀事業改革」
特別インタビュー ごはんこそ力が出る 大切にしたい米、そして食を 第48代横綱 大鵬幸喜 親方
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私は終戦後、5歳のときに樺太の敷香という村から北海道に引き揚げてきました。そのころは日本全体が食料難の時代でしたからね。それをみんなが理解して、子どももぜいたくを言わないであるものを食べたし、親もいろいろ工夫して食べさせていたんだと思います。 昭和31年に相撲社会に入りましたが、当時は、巡業中、地方に行くと農家から鶏を1羽とか2羽分けてもらって、それを潰して鶏がらで出汁をとって「そっぷ炊き」を作りました。しかし、70、80人も相撲取りがいますから、2羽や3羽じゃ肉は足りないわけで下っ端が食べるときには汁しかないということになる。それをファンの人がテントの隙間からみて、相撲の世界はかわいそうだという噂になったんだと思います。けれども、今は肉の部分だけ食べるのは当たり前ですが、そのころはモツや皮も食べていたんです。モツといっても今考えれば肥やしにするようなものだったかもしれないが、それでもおいしかったね。 ●親の味、これこそ食の原点です● ■そういう体験からすると、今の日本の食生活はどうご覧になっていますか。 今は自分の食べたいものを言えば親は作ってくれますね。それは大人のための料理じゃなくて、業者も子どもの好きなものをどんどん作るから、大人も自然と子どもの味が好きになる。私には、お袋に作ってもらったカレーは辛かったという思い出があります。フーフー言って汗かいて水飲みながら食べたもんですよ。 ■輸入食料も増えていますが。 これだけ食べ物が溢れているわけですが、日本で獲れたものではなく外国から来たものを食べているわけでしょう。
相撲部屋は当然ご飯ですが、最近は、米をあまり食べないでおかずをたくさん食べろという人もいるようですね。私は反対なんです。おかずはあくまでおかずであって、おかずで腹一杯にするんじゃない、ご飯で腹一杯にしろと言っている。 ●入門前にすでに肝機能障害の子も● ■最近は入門したての若い力士がすぐに健康を損ねるという話も聞きますが。 これは相撲社会の問題じゃなくて一般社会の問題だと思っています。お相撲さんがお相撲さんを作っているわけじゃなくて、一般社会から入った人間を鍛えるわけでしょう。だから、今の若い力士がおかしいんじゃなくて、今の社会がおかしいと思うわけです。実際、相撲社会に入るときにすでに糖尿病になっている子が多いんですから。肝機能の数値をみるとびっくりする子もいます。 ●親がキチンと子どもに教えること● ■相撲社会は秩序や規律に厳しい世界だと思います。一方、日本全体では家庭でもそうしたことが薄れてきますがどうお考えですか。 今の日本はみんな自分のことで精一杯なんじゃないでしょうか。現役当時、私を鍛えてくれた滝見山関は、たしかに鬼軍曹と呼ばれていましたが、それはあくまで稽古場でのことであって、後は、おい、どこか飯食いにいくぞ、といろんなところへ連れていってくれた。やるだけのことをやったらあとは面倒をみるということです。仕事というよりも、やはりこいつも相撲社会にいる以上立派な人間に育ててやらなくてはいけないと指導してくれたわけです。非常に厳しい稽古でしたが、また明日から活力がでるようにしてくれた。 今は親も子どもを叱れない時代ですよね。それは親は自分のことばかりで子どもにちゃんとしたことをやっていないからでしょう。たとえば、食事もまともに作らずに適当に食べさせている親も多いのではないかと思います。 何年か前に米が不作の時がありましたね。自分たちは食べて体を作るのが仕事だから、高くても食べなきゃいけないし、食べさせなきゃいけない。しかし、米不足のときは、地方場所でその土地では米を売ってもらえないんじゃないかと思った。そのときは大阪でしたが、毎年買っている米屋さんは、売りますよと言ってくれたけど、悪いから国産じゃなくてタイ米を30キロ買った。炊いてみると、これなら中華丼にしたりカレーをかければ食べられるじゃないかと思いました。工夫すればたいしたことではない、自分たちはかぼちゃを食って育ってきた人間なんだから、これで十分ですよと。ところが一般の人はタイ米はいやだといったわけでしょう。米は日本人と切っても切れないものだと思いますがそれが分からなくなっているんじゃないでしょうか。 今は幸せなものです。これだけ食べるものがあるのですから。だからこそ、もっと大事にする、工夫するということを考えなくてはならないと思います。 インタビューを終えて 風格いまだに− |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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