「21世紀に向けて
食料・農業・農村に新しい風を」 経営責任を問われる時代 生き残り戦略はチャレンジ精神で 農林中央金庫専務理事 橋本勝好 氏 聞き手:東北大学教授 両角和夫 氏
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◆経営責任が問われる時代に対応 両角 これからの系統信用事業をどう考えていけばよいのかということをおうかがいしたいと思います。まず信用事業を取り巻く情勢をどうとらえていらっしゃるか、お聞かせ下さい。 橋本 情勢への対応ということでは農水省も「農協系統の事業・組織に関する検討会」を設けており、そこでは、農業者がJAに対して何を求めているか、行政はJAにどういう役割を期待しているかといった議論が色濃く出ています。JA系統としてはJA全国大会議案が提起している課題について、さらに議論を実践的に深める必要があります。 両角 農協の社会的役割が変わってきておりますから、そこをどうするか、徹底的に議論すべき時期だと私も思います。
橋本 そこで情勢ですが、金融業界ではIT(情報技術)投資拡大などグローバル競争に勝ち抜くために大規模な金融機関再編の動きが加速しています。 両角 だいぶ減りましたね。
橋本 しかし債務超過などは社会への影響が大きいから、二度とそういうことがないようにモニタリング(経営監視)の制度をきちっとしなくてはなりません。私どもも全中と一緒に今、実態調査を進めており、問題のあるJAについては経営の健全化を進めています。 両角 IT戦略はどうですか。 橋本 これは大変コストがかかりますから、全国段階でツール(手段)を準備し、機能も開発してJA・信連が利用できるようにします。今後は決済一つにしてもIT機能がなければ金融機関として認められない時代になってきます。またIT化で金融機関のネットワークが変わってきますから、それに追いついていかないと信用事業としての社会的役割が果たせないのではないかと思います。 両角 次に金融商品の多様化についてはいかがですか。 橋本 これまでJAは投信に代表されるように元本割れになるような商品はほとんど提供してこなかった。しかし今後はハイリスク・ハイリターンの商品をも利用者自身に選んでもらう時代であり、商品の性格などをきちんと説明できる体制がJAに必要になってきます。 両角 情勢認識をおさらいしますと、第一はリテール分野の競争が激化すること。これは、もともと農協の分野で生命線みたいなところですね。第二は金融機関が本来持たなければいけない健全性を改めて要求されるということ。 ◆信用と共済を合わせた商品を組合員や利用者に提供
橋本 そうですね。次に新しい事業展開ですが、JAの事業の位置づけは組合員や利用者の営農と生活を守ることです。そこで信用事業では組合員のライフサイクルに合ったサービス・商品を共済事業と連携し、開発をすすめ提供していきます。 両角 金融、保険の再編・グループ化が進んでいますが、農協系統の内部には最初から両方があるんですからね。 橋本 非常にありがたい仕組みになっております。 両角 次にペイオフをひかえて、セーフティネット(安全網)の補強について、お聞かせ下さい。 橋本 ほかの金融機関の安全網は預金保険制度だけですが、私どもは、農水産業協同組合貯金保険制度(貯保制度)と相互援助制度(相援制度)という2つの安全網を持っています。相援制度は経営不振に陥ったJAの経営再建を支援するために資金援助をしたり、隣接のJAと合併させるなどの措置をとる制度です。事前に処理をすればコストが安くつきますから。 ◆組織整備では「効率化信連」など4パターンを打ち出す 両角 セーフネット確立は徐々に進んでいるということですね。次に組織二段を目ざす改革の中で信連をどうするかという課題がありますが。 橋本 現在、系統信用事業は三段階が各々機能を分担しています。例えば、県の指定金融機関としての信連は、その県の連合会だから指定されている。信連が金庫と統合して農林中金の支店になれば指定してもらえません。二段階になっても県域の機能は残るわけです。 ◆JAの経営にもリスクを取る体制をつくる必要が 両角 最後にJA系統の役職員に向けたメッセージというかお願いしたいことをおっしゃって下さい。 橋本 環境が大きく変わっています。当面は何とか経営できても将来的には大変厳しくなります。そのために自らが変わっていかないと生き残っていくことはできません。一般的に、これからは経営責任が問われる時代です。決めたことをやらないと出資者代表訴訟を起こされるようなケースも出てくるでしょう。会議などで、自分の意見をはっきりいわなければ経営者とはいえません。 両角 では、どうも貴重なお話をありがとうございました。 インタビューを終えて 今回のインタビューでは、橋本専務から当方が用意した信用事業に関する質問に答えるに先だって、今日の農協の社会・経済的役割に関する持論をご紹介下さった。時間的な制約を気にしていた私にとってやや意外な展開であったが、これはまさに望むところであり、有り難いことであった。農協系統がかつてない大きな転換期を迎えている今日、農協系統は今後どのような役割を担うべきか、果たしてそれに答える準備はあるのか、そのためには何が問題かなどの基本的な議論なくして、信用事業のことは論じられないはずである。専務のご主張は、社会的ニーズに的確に答えなければ農協系統の存在価値はない、系統組織は機能的にも意識的にも変わらねばならないなど、きわめて厳しい自己認識と変革の必要性を訴えるものであり、多くの点で私も同感である。また、始終率直で具体的な話を頂いたこと、回答の端々から変革に対する周到な準備と自信がうかがえたことは印象に残る。農協の地域金融への取組み、不良債権問題への対処など、聞いておきたかったことも少なくない。しかし、信用事業の今後のあり方を議論する上で必要な貴重な情報、ご意見は頂いた。大いに活用して頂ければ幸いである。(両角) |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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