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「21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を」
ルポ
合い言葉は「地元に一生懸命」
地域に必要とされ、愛されるJA JA周南 (山口県)

 島根県境の中山間部から瀬戸内海に浮かぶ島まで、その標高差はおよそ400m。瀬戸内に面した平野部は準工業地帯で、新幹線で徳山駅に降り立つと、無数のパイプが縦横に走るコンビナートが立ち並ぶ。一方、山間部に入ると、深い木立ちに囲まれて、手入れのよく行き届いた棚田が広がっている。農家1戸あたりの平均耕作面積は40a前後。山口県東部に位置するJA周南は、そういう環境の中で「地元に一生懸命」を合言葉に、「地域に必要とされるJA、地域に愛されるJAをめざして」(山本弘志組合長)さまざまな事業に取り組んでいる。



JAだからやるべき仕事――高齢者福祉活動

◆働きがいや健康管理――元気老人への活動

 JA管内(徳山市・下松市・光市・熊毛町・新南陽市・鹿野町)には65歳以上の高齢者が約4万9500人、そのうち介護を必要とする人は約6700人いると推定されている。JAでは「元気な高齢者から介護が必要な高齢者まで、住み慣れた家や地域で安心して暮らせるよう、各行政や社会福祉協議会などと連携し、地域に密着した事業」として積極的に福祉活動を展開している。
 その内容は、まず、もっとも人数が多い「元気な高齢者への福祉活動」だ。
 ここでは、営農・家庭菜園などの生産活動の支援と農業後継者の育成、後述する100円市ネットワーク活動の支援など「働きがい活動」。厚生連の協力による健康教室の開催、健康診断の実施と啓蒙、軽スポーツ・レクリエーション活動の支援など「健康管理活動」。そして、ボランティア活動、各種サークル活動、旅行・趣味などを支援する「生きがい活動」を、JA女性部や全事業部門の「協調と参加・参画により」実施している。

◆生活支援、ミニデイサービス――女性部の助け合い福祉活動

ゲームの商品をもらって思わず
笑みが(ミニデイサービス)
軽い体操で体もリフレッシュ
(ミニデイサービス)

 2つ目が、介護保険非認定高齢者や生活支援の必要な高齢者を対象とした「女性部『助け合い組織』による福祉活動」だ。
 管内4市2町の女性部支部に「助け合い組織」があり、15〜28名の協力会員が、声かけ・話し相手、食事づくり、洗濯・掃除、買い物・お使い、外出の介助・留守番、庭の草取りなどの生活支援活動と通所支援(ミニデイサービス)活動を行っている(いずれも有償)。
 生活支援では、もっとも早く助け合い組織ができた鹿野町では、「生活支援訪問サービス委託契約」をJAと町が締結し、利用者の個人負担を低廉に抑えているが、他の行政ともこうした委託契約について協議している。

 ミニデイサービスは支所の会議室などを利用して行われるが、厚生連の看護婦や行政の保健婦による血圧測定や健康診断、女性部員の手づくり料理による昼食とおやつ、軽スポーツやレクリエーションなどで、楽しんでもらおうというもの。
 鹿野町では月に1回、新しく助け合い組織ができたところでは年4回行われいるが、地域を狭めてJAの支所ごとにという話も出ている。また、いまは利用者負担が1000円だが、これも行政と連携することで個人負担を減らすことが検討され、鹿野町・下松市・新南陽市では行政との話し合いが進んでおり、近々実現する見通しだという。

◆介護事業、愛される「のうきょうさん」の活動

 福祉活動の3番目は、介護保険の認定を受けた「要支援・要介護高齢者への福祉活動」だ。
 JAでは、山口県の介護保険事業者指定(許可)を受けて、4月に「介護保険事業所」(愛称・のうきょうさん)を開設。指定居宅介護支援事業(ケアマネジメント事業)と、指定訪問介護事業(ホームヘルプサービス事業)を行っている。
 開設にあたっては、1500時間の経験をもつケアマネージャーを招へいするとともに、ホームヘルパーの資格をもつ約60名の女性部員のなかから、条件が合う人19名を介護職員として契約した。
 開所前から、池田芳晴所長とヘルーパーが「4月からJAもはじめますよ」と訪問活動をしたこともあって、開所と同時に15名の申し込みがあり、現在は約40件の利用があり、ヘルパーさんは大忙しだ。

 「のうきょうさん」の愛称は、訪問したときに「農協です」というと「ああ、のうきょうさんかい」といってすぐに戸を開けてくれるところから名づけられたと池田所長。「のうきょうさん」には、かつて日本農業と農協運動を第一線で支えてきた人たちの、信頼と愛情と親しみが込められているということだろう。
 そして「喜んでくれるサービスをトータルベースで提供し、内容が充実していけば、JAが地域の福祉を完成させる」ことができると考えている。山本組合長も「行政と連携し応分の負担をしてもらえればいい」し、「JAだからこそやるべき仕事だ」と言い切る。

小規模農家でも「やる気」が――地域活性化の100円市

◆バイヤーを養成、市場情報など積極的に売る努力を

毎日地域の人たちで
盛況な100円市

 福祉とともにいまJA周南で注目されているのが、「100円市」だが、その前に、この地域の農業の状況を簡単にみてみよう。
 冒頭にも書いたように、沿岸部はコンビナート地帯で耕作面積が小さく、「1畝、2畝という家もあり、農業だけでは食えないから兼業になる。山を越えると耕作面積は広くなるが、高齢化がすすんでいる地域」だと100円市を主催する周南フレッシュ100円市場みどりの会の近藤則昭会長(JAの理事でもある)。

 2種兼業農家が多いこともあって、稲作が農業の中心となっているが、JAではホウレンソウ・イチゴ・千両ナスの産地化に力を入れている。
 こうした野菜の販売を強化するため「従来のように集荷して市場にただ出すだけではダメなので、バイヤーを1人養成し、市場の情報を把握し、生産と販売の連携をとり、積極的に売ることに取り組みたい」と、藤井巌経済部次長。
 コメについても、土づくりから指導し、地帯別品種誘導によって銘柄を4品種に絞り込んだり、モミの食味計を導入し、検査前に肥培管理の内容を添付した見本米を提出してもらい、事前に仕分けするなど、良食味有利販売をを行っているが、昨今のコメの状況下では「自分で売っていくしかない」と「地元産のコメは地元で消費」をしてもらう拡販運動に取り組んでいる。

◆地元の物を地元で――何でも試せる農業の練習台

 100円市も「地元のものを地元で」ということだが、そもそもは、耕作面積が小さいので、ロットがなく作った野菜を市場に出すことができない。出せたにしても規格を合わせるのに苦労し、規格に合わないものは廃棄しなければならないから、農業に「やる気が出ない」、だから、JAから生産資材などを購入しなくなる、という悪循環の構造になっていた。それを解決するには、「小規模農家でも生きがいを感じられる施策をつくらなければいけない。そのためには、まず農家を儲けさせろ」ということで始めたと近藤さん。

 100円市では、すべての商品が100円で売られるが、規格は一切なく、量も生産者が決める。例えば同じナスでも、自分の作ったものは品質が良いと思えば3個にするし、少し出来が悪いと思えば5個にする。後は消費者がどちらを選ぶかで決まる。100円市に出す人は、プロの生産者から趣味の家庭菜園で作っている人、企業を定年後、最近農業を始めた人などさまざまだ。
 規格がないから選別など余分な手間がかからないし、これから農業を始める人にとっては、いろいろな作物を試し、自分には何が向いているのか、どう作ればよいかを確かめる「練習台」にもなっているという。

◆チェーン化し、どこでも同じ野菜が買える

 売上がJAの口座に入るから、近藤さんはみどりの会の会員に「野菜で貯金しなさい」といっている。定期積立をする場合には、個人ではなくみどりの会でまとめて1口座にし、JAも通常よりも高い利率にしている。
 5年前36名で始まった100円市がいまは900名にまでなった。これを1〜2年のうちに、JA正組合員1万4000名の1割、1400名にすることを目標にしている。
 100円市は、当用買い用資材や日用雑貨を販売するJAの経済店舗(4市2町にある)に併設され、現在6店舗ある。他の朝市などと違うのは、この6店舗が1つの組織になっていて、例えば下松の野菜が、下松の100円市だけではなく、光でも熊毛でもどこででも買えるよう毎日配送していることだ。ネットワーク化、チェーン化したファーマーズマーケットになっているわけだ。

◆生産者・JA・消費者のトライアングルが儲かる

3つあった購買品配送拠点を統合し、翌日配送体制の強化と在庫圧縮を実現した経済センター

 みどりの会の今期(10月末決算)売上予想は、前年対比350%の2億円弱だ。ここまで伸びてきた理由は、地元産だから安心、安いとかいくつか考えられるが、「100円市は売る努力はするが、売れなかったら責任は生産者です」という厳しさにあるようだ。厳しさの理由は「製品をつくることは誰にでもできる。買いたいと思わせる良い商品をつくらなければ売れないし、儲からない」からだ。そして「良い商品をつくろう」という意欲が、JAの購買事業につながり、横ばいだった購買事業が上向いてきているし、併設された経済店舗の売上も上がるなどの相乗効果を生み出している。

 「100円市は誰にもデメリットがありません。生産者・JA・消費者のトライアングルが儲かる仕組みです。だから伸びる」。そして、「お互いに認め合い、尊重するのは協同組合の心ではないか」と近藤さんは考える。そしてそれが実現できたのは、国の政策や行政の指導にすべて委ねるのではなく、地域の特性をしっかりつかみ、地域に即した施策をJAも生産者も考えた結果の方法だったからではないだろうか。

ITで情報を一元化――有効に活用しJA改革を

 信用・共済・販売・購買事業はもとより、営農情報から組合員・利用者・世帯・耕作面積まで、JAに集まるすべての情報をIT(情報技術)で一元化(データベース化)し、その情報・データによって市場を分析し、市場に合った目標設定と事業展開をというIT革命がJA周南では着々と進行している(本紙3月8日号、5月25日号参照)。
 ITで「事業を縦・横に結ぶことで、トータル的に事業がみえてくるし、地域の農業もみえてくる」(金子光夫金融部長)からだ。
 まだ完成していないが、すでに一元化されたデータをもとに、支所機能の再検討がいま行われている。従来、支所や施設の統廃合は「総論賛成・各論反対」ということで進捗しないという例が多いが、それは誰にでも納得できるデータにもとづかない画一的な方法によったからだという反省に立っている。

 「年金を受取りに来る2〜3人のために職員を配置しても、クワもカマもなければ組合員は逃げる」(山本組合長)。その地域に必要な店舗はどういう機能をもつ店舗かを、データにもとづいてきちんと把握し、戦略をたてようという「地元に一生懸命」というJAの基本姿勢がここでも貫かれている。
 販売でも営農でもITにかける期待は大きい。ITを有効に活用することが、JAを改革し、組合員・地域住民に必要とされ、愛されるJAになれる道だと確信されているからだ。  



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