愛知県のJAあいち知多(竹内寛幸組合長)は「農と食と健康」などの情報を消費者に発信する有機農業の田園空間を形成し、地域の農業復興(アグリルネッサンス)を起動させようという壮大な試みに挑戦している。エリアは220ha。名称は「グリーンライフビレッジ」。投入資金は35億円。ファーマーズマーケットなど強い集客力に期待のかかる数々の施設を建設中だ。文字だけではピンとこない「生産者と消費者の共生」(JA全国大会議案)を目のあたりにする安心システムの大パノラマが大府市内に広がってきた。
現地には有機農産物を直売するファーマーズマーケットやレストラン、それに天然温泉の浴場など消費者に新たなサービスを提供する施設が建ち始めた。知多半島には温泉脈があり、深く掘ったところ44度の湯が噴出した。成分はナトリウムなど。これでエリアの保健機能を一層充実させた。
このゾーンを「あぐりタウン」と呼び、周囲に生産ゾーンや交流農園、福祉施設、産業団地など合計7ゾーンを形成する計画だ。
いわゆるテーマパークではない。農業を核に地域の商工業や観光産業と複合した6次産業の構築を目ざす拠点なのだ。機能を高度化した営農拠点でもある。オープンは12月23日。年間70万人の来場者を見込む。
話題には事欠かない。あぐりタウンの電力はすべて環境にやさしい風力発電でまかなう。クリーンエネルギーで地球資源の浪費を避け、雨水も利用して循環型の地域づくりを追求する。
あぐりタウンの事業主体はJAだ。協同会社で運営する。総事業費35億円のうち5億円弱は国・県の補助事業だが、あとは「自己資金です」と深谷泰造副組合長は語る。「借金無しの仕事起こし」というのも話題だ。
JAあいち知多は3JAが合併、4月に発足した。旧JA東知多は剰余金処分のうち一部を目的資金として7年ほど前から積み立てた。それを投入した。
このアグリルネッサンス構想事業は「農業のあり方を変えなくてはだめだという強い変革の意識から出発し、名古屋市近郊の立地を生かした土地利用なども考えて消費者と直接交流するシステムの構築となりました」と深谷副組合長は構想策定の経過を振り返る。
◆あぐりタウン
生産ゾーンに隣接して、あぐりタウンがある。その正面は「あいち健康の森」という公有地で、病院や研究・研修センターなど国や県の施設が並んでいる。
そこへくる人は年間100万人。その一割があぐりタウンを訪れるとの相乗効果を見込んだ。また10km圏内は名古屋市南部や刈谷市など10市2町にまたがって人口は約61万8000人。
そこで商圏調査の結果、あぐりタウンの来場者は年間70万人とはじいた。買物や食事に通う地元民などのリピーターを見込むと、これはひかえ目な数字だ。
あぐりタウンは広さ6ha。「げんきの郷(さと)」とも呼ぶ。草花で縁どった500台の駐車場を前に和風建築がずらり。鉄骨造だが、風情豊かな日本屋根が「日本型食生活」の情報発信基地にふさわしい。味気ないビルばかりの「あいち健康の森」とは対照的だ。
また緑いっぱい、余裕たっぷりの地割で、家族連れがバーベキューなどを楽しむ場、地元彫刻家の作品展示空間、遊具のある子供広場、イベント広場などがある。
この事業のために買収した開発用地は対象面積の約1割。あとはすべて借地だ。農家に財産を売らせないで土地利用ができるようにした(中嶋専務)という。
(あぐりタウン「げんきの郷」完成予想図)
【はなまる市】
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建設中のファーマーズマーケット・はなまる市 |
あぐりタウンの中にあるファーマーズマーケットの愛称だ。売場面積約738uの大型店舗で約90品目もの品ぞろえをするが、量販店の通念を破った寄せ棟、四面破風の和風建築だ。
生産者が各自の売り台に商品を陳列し、売れ残ったら持ち帰る。その場合、なぜ売れなかったかを研究し、その後の生産に生かしてもらうという農家の意識改革を促す直売システムだ。
出荷農家の登録は今、580人だが、1000人を目標に生産ゾーンの周辺でも有機栽培への生産誘導を進める。店内には生産者の写真パネルを掲示する。
売り台は引き出し付き。上の商品が売り切れると下の引き出しから出して並べる。これは店員の仕事だ。 すべて売り尽くした台は1カ所に集中させ、カーテンで目隠しする。品ぞろえの少ない店を敬遠するお客の心理を読んだ心憎い演出だ。中嶋専務の考案だが、既存店に比べ、はなまる市のオリジナリティは満点だ。
商品は青果、卵、肉、今ずりの米や米飯加工品、漬物やお菓子の手作り加工品などで、正月3カ日を除いて年中無休。2001年度の供給計画は7億円だ。
その隣りのグリーンセンター「さんハウス四季」では花、花苗、資材などを直売し、花き生産者の育成を図る。ここも生産者が搬入、残荷を引き取る。またガーデニング教室も開く。
【できたて館】
地元農畜産物の付加価値を高める加工製造施設で総菜、パン・アイスクリーム、味噌、豆腐、漬物、米菓子のできたてを販売する。
総菜工房は地域の食文化を発信する女性起業家を登用。旬のタケノコご飯や栗ご飯、地元漁港水揚げのアジの塩焼き、ブリの照焼きなども量り売りする。
漬物工房の素材は、はなまる市で当日収穫した野菜を使う。味噌は地元大豆を使った赤味噌を製造する。
米工房も地元産米の米粉から「みたらし団子」などを作り、豆腐工房は小笠原諸島から直接仕入れた天然にがりで差別化を図る。
【食彩処だんらん亭】
外観が日本情緒たっぷりのレストランで、インテリアも凝っている。家庭料理の参考になる日本型食生活と旬の地元食材を使ったおふくろの味を提案するのが特徴で、合計152席。
食材は、はなまる市とできたて館からの仕入れが中心。名古屋コーチンや、ねぎ味噌カツなど地元の味が県外客を引き寄せそうだ。ご飯と味噌汁は食べ放題という「おかずバイキング」などメニューは豊富。
大広間では鍋料理、個室では懐石料理などの献立もある。テーブル席の夜間タイムは一品300円から。
化学肥料を使わない「れんげ米」のご飯もある。
【めぐみの湯】
神経痛、筋肉痛など効能の多い泉質だ。大浴場、バイブラ湯、露天風呂、打たせ湯、サウナが和風と洋風の2つずつという豪華な施設。和風の五衛門風呂、洋風にはジャグジーもある。
介護風呂もあり、健康器具を完備して、高齢者の健康講座などイベントを開くのも特徴だ。定員は408人。料金は大人700円、子供は半額。回数券も発行する。年6日のメンテナンス日以外は年中無休だ。
ウルグアイ・ラウンド対策費で温泉を掘り、マスコミが騒いだケースが、よそにあったため、「うちは補助を受けずに自前で温泉施設をつくりました。タイミングが悪かった」と中嶋専務が苦笑する裏話もある。
各施設が完成すれば、めぐみの湯、だんらん亭、できたて館、はなまる市などは回廊でつながれる。
【風力発電】
温泉施設の横の丘に巨大な風車をつくる。羽根を含めると高さ60mとあって知多半島全体のランドマークともなる。発電量は年間約80万kw。あぐりタウンの電力需要は50万kw弱なので余った分は売電する。
このほか雨水を貯めてトイレや散水に活用するなど環境保全の構想を貫く。
◆生産ゾーン
農地面積は120ha。1割ほどが水田、あとは露地野菜の畑だ。点在する雑木林や竹ヤブの緑は残す。地元農家約140人が、このゾーンで特別栽培から有機栽培への転換を急ぎ、栽培日誌などで消費者に安心システムをアピール。高付加価値農業を目ざす。
JAの農地保有合理化法人が作業の受委託あっせんや、耕作放棄地の管理に当たり、担い手育成に努める(深谷副組合長)。
また施設園芸への転換で通年供給の体制とする。面積の3割強をハウス栽培とし、太陽光や地熱を利用。重油は焚かない。さらに重量野菜が中心だった生産構造も多品目に転換し、多様な需要に応える。これは高齢者に農業を続けてもらう生きがい対策でもある。基本は土づくりだ。「化学肥料を多投する旧農基法の生産性向上政策で疲弊した土壌を再生させたい」と中嶋好夫専務は力説する。
生産ゾーンを拠点に土づくりを周辺に広げ、地域農業の再編と強化を進める。
◆土づくり拠点施設
管内畜産農家の家畜ふん尿をたい肥化し、有機質肥料を製造する「JA総合有機センター」を今年2月に建設して、耕種農家と連携させた。この施設はエリアの圏外に立地させた。
年間製造量4000t。さらに増設して土づくりをエリア周辺に広げる。現在、製品の約25%に土壌改良資材「ゼオライト」を混合。肥効の持続をねらう。
今後は製品の配送から散布までの一貫体系や農地集積で省力化を図り、低コスト農業を推進する。
また生ゴミのたい肥化もテスト中。さらにたい肥の過程で発生するメタンガスも活用する計画で、資源リサイクルを徹底させる。
◆その他のゾーン
「産業ゾーン」は健康関連産業の団地づくりで、20社ほどの進出を見込む。また「福祉ゾーン」には公的福祉施設ができるが、JAの施設も整備する。
さらに試験ほ場などの「土づくり・研究・教育ゾーン」、農と調和したまちづくりを目ざす「農住ゾーン」の形成を図る。これらは5年後をめどに形を整える予定。
最後に事業運営の人材について深谷副組合長は「協同会社への出向職員にはJAを退職する形で不退転の決意を示してもらい、また会社役員には学識経験者を迎えたい」と語り、「地域住民の期待に応える事業展開をすれば必ず支持されると確信しています」と見通しを語っている。
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