◆緊急需給対策の背景
平成12年度の緊急総合米対策が9月28日に決定した。今年度の米対策決定の背景には、いくつかの要素が重なっている。
昨年、今後5年間の水田営農の枠組みを定めた「水田営農活性化大綱」をとりまとめた。また、豊作分の対応として従来の自主流通米の調整保管から、直接新米を主食用以外に処理する対策を17万トン実施し、自主流通米の価格下落の歯止め対策を講じるとともに、96万3000haの生産調整を3年目も継続実施することとした。
しかし12米穀年度末の在庫見通しは、当初計画を約60万トン程度上回る280万トン程度となることとなり、大幅な見通しの狂いが生じた。この主な要因は、200万トンをはるかに超える在庫状況の中で、卸、小売等の流通段階から消費者に至るまで、あらゆる段階での在庫が圧縮されたことがあげられる。
また、11年産の豊作分を17万トン別途処理し、価格下落の歯止めとなったものの、予想したほどの価格効果が薄かったことがあげられる。この対策が一方で、計画外流通米との不公平感を強くするとともに、県共計での負担増大という結果への不満を残すこととなった。
こうした中で、12年産米の豊作基調が明らかになる中で、本年8月の入札結果で対前年比8〜9%自主流通米価格が下落することとなり、緊急かつ総合的な米対策が必要となった。
◆取り組みの経緯
JAグループは9月7日、今年度における緊急米需給改善対策に関する政府への要請を決めるとともに、9月12日には日比谷公会堂で2300名が結集し、与党への要請集会を開催するなど、現場での危機感を反映した強力な運動を展開した。
水田農業対策本部委員会では、運動展開と併せ、政府・与党との折衡に向けた要請事項の考え方の整理や、自らの取り組みにおける検討課題の協議・議論を精力的に重ねた。
9月25日の都道府県中央会会長、全国機関会長会議では、現下の厳しい米の需要状況の下で、生産オーバー分のエサ米処理と緊急生産調整に取り組む前提条件として@当初計画を大幅に上回る政府米在庫の政府の責任による処理、A自主流通米の販売環境整備のための緊急的な政府買入れの実施、B計画流通米を出荷する生産者の所得の安定と公平性を確保するための稲作経営安定対策の充実・強化、C生産調整の緊急拡大にあたっての、拡大面積当たりの追加助成措置の実現をはかること。
また、12年産米の豊作に伴うオーバー分を一定量エサ米に別途処理するにあたっては政府の支援対策を充実・強化すること。などを柱とする重点要請を決定、確認するとともに、検討課題として@12年産生産オーバー分の処理数量については15万トン程度を基本とすること、A生産調整の緊急拡大については、前述の前提条件を前提に少なくとも5万ha程度の取り組みとする考えの整備を確認した。
◆緊急総合米対策 6つのポイント
@政府の見通しの狂いにより生じた計画を上回る政府米在庫対策については、緊急食糧支援事業による援助用として75万トンを別枠扱いで市場隔離する。
A平成14年10月末の持越在庫水準を125万トン程度に縮減する。
B12年産の豊作分26万トンのうち15万トンについては配合飼料用に処理する。この取り組みに対し、政府は古米売却の値引きと全国共計への助成と合わせ約100億円を支援する。
C13年産の米の生産調整規模は25万トンの需給改善のため5万ha程度の緊急拡大を行う。また、作況100を超える場合の対応として5万haの需給調整水田(仮称)に取り組む。この取り組みのメリット措置として、25万トンの特例的な政府買入れを行う(生産オーバー分15万トンの買入れと合計すると40万トン)。緊急拡大分の5万haと需給調整水田については、(ア)青刈り、ホールクロップサイレージ、そば等の転作の取り組みに2万円/10a(ただし青刈りはさらに2万円を加算)、(イ)麦・大豆、タバコ、景観形成水田等の取り組みに10万円/10a、(ウ)永年性作物、調整水田等の取り組みに5000円/10aの助成を実施する。さらに、ホールクロップサイレージに対する畜産農家の不安を解消するため2万円/10aの給与実証事業も併せて措置された。
D稲作経営安定対策の充実・強化としては、(ア)12年産補てん金交付後の資金残高の範囲内で補てん基準価格の1%以内の特別支払を行う。(イ)13年産補てん基準価格は、生産調整の緊急拡大への取り組みと、その着実な達成や適切な入札での価格形成への取り組みを前提として、12年産補てん基準価格と同額とする。(ウ)稲経への追加助成として、生産調整の緊急拡大への取り組みとその着実な達成を前提として、生産者の選択により、生産者拠出0.5%、政府助成1.5%を措置する。
E11年産自主流通米の約20万tの販売残のうち、販売見込みのないものについては、政府米と交換のうえ加工用等に処理する。また、12年産米については24万t程度を当初から、自主流通法人による一元的な調整保管を実施するとともに、需給事情に応じ政府米と差し替えて加工用等に処理する。
という内容を柱とする、思い切った需給改善へ向けた緊急的な総合対策が措置されることとなった。
JAグループは、今回の米の総合対策を契機として、自給率向上に向けた基本計画の実践・推進に取り組み、麦・大豆、飼料作物等の生産振興や、米の計画的な生産と自主流通米の価格の安定に行政、関係機関と一体となって取り組む必要がある。
また、国産米の需給に大きな影響を与えているMA輸入米については、WTO農業交渉において、その取扱いの見直しをはかるべく、国民の合意形成や理解促進に向けた強力な取り組みをつづけていく必要がある。
◆今後の取り組み課題
今回の総合対策を受け、当面の課題として早急に取り組まなければならないこととしては、@13年産の生産調整拡大分5万haの配分方法と12年産政府買入枠の配分、A需給調整水田の登録方法や管理、発動方法等の仕組みの構築、B12年産米豊作による生産オーバー分15万tの都道府県別配置、1500円基金からの補てん等財源の使い方、C13年産補てん基準価格の取扱いや追加資産造成の仕組み、D11年産自主流通米在庫対策、E12年産自主流通米の調整保管の仕組みや計画的な販売対策、等があげられる。
これらの課題については、考え方の整理や具体的な仕組み、運営のやり方、政府助成も含めた助成水準や、支援対策をとりまとめていかなければならない。
また、13年産に向けては@自主流通米価格形成センターの実施している入札取引のあり方、A備蓄の効果的運営を図るため、備蓄水準や買入れ・売戻しのルールの再構築等、備蓄機能発揮のための必要な事項について検討することが迫られる。
さらに、自給率向上や農家の経営安定、所得確保の観点から水田営農のあり方の検討を深める必要があるし、稲作経営安定対策のような価格変動に対する経営安定措置をふまえながらも、新しい経営所得安定対策の構築へ向けた検討も極めて重要な取り組み課題となってくる。
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