21世紀の日本農業 20世紀の「暗」を繰り返させない哲学を
東京農工大学学長 梶井 功 |
私たちは、今年から食料の安定供給を確保するため食料自給率を引上げる「食料・農業・農村基本計画」の実施に取り組まなければなりません。とくに問題になるのは自給率の低い麦、大豆、飼料の増産ですが、そのためには当然のことながらこれら作物の価格=所得支持政策が必要になりますが、生産とのリンクを認めない「緑」の政策ではそれはできません。不足払い政策を認める「青」の政策を存続させることが、ある意味では自給率引き上げの成否をきめることになると思われます。EUも域内農業を守るために、この「青」の政策の存続を強く主張しています。EUなどと連携して、その存続をかちとらなければなりません。WTO農業交渉日本提案を実現させることは、「基本計画」を実施していくうえでの重要な条件になっているのです。 営農主体の劣弱化が営農活力を低下させる
ところで、これも昨年末に発表された2000年農業センサスの結果は、21世紀の日本農業が容易ならざる状況で自給率引上げの諸課題に取り組まなければならなくなっていることを明示しました。1、2の数字をあげておきましょう。 21世紀最初の年に当たって、私は21世紀の日本が平和国家として国際的にその地位を保っていくうえで、今年が重要な年になる、とりわけ平和国家の基底としての農業・農村の維持・発展にとって重要な年になると考えています。 昨年暮に、日本政府は“WTO農業交渉日本提案”を決定、発表しました。その前文で提案のよって立つ哲学をつぎのように説明しています。 “多様性と共存が確保され続けなければならない”とする哲学は、共生哲学と同義といっていいでしょう。この哲学に立つ提案は“農業者のみならず消費者を含む幅広い国民各層の支持を得ているものである”と前文でも書かれていましたが、私もこの哲学、そして提案には全面的に賛成です。21世紀がそういう世紀であるようにする責任を私たちは負ったといわなければなりません。 日本提案の実現は「基本計画」の重要な条件 提案は、“この共存の哲学の下、(1)農業の多面的機能への配慮(2)各国の社会の基盤となる食料安全保障の確保(3)農産物輸出国と輸入国に適用されるルールの不均衡の是正(4)開発途上国への配慮(5)消費者・市民社会への関心への配慮の5点を追求する内容になっていますが、それらを通して、 提案が各国の支持を得て全面的に実現することを、私は願っておりますが、とくに、ミニマムアクセスについて、この“システムは、輸出入国間の権利義務バランスの面で均衡を欠くという基本的な問題があるため、それを改善する”こと、わが国のコメのように関税化特例措置をとった品目を関税化しても、“加重されているアクセス数量が将来にわたり継続されるという問題があり、その改善を行う”ことは是非とも実現してほしいと思います。「緑」の政策の改善、農業の国内支持水準を“各国における農業の多面的機能の発現を損なうことのないように・・・・現実的なものとする”ことの重要性はいうまでもありませんが、今回の提案のなかで、国内農業支持政策のなかで、今のところは削減対象外ですが、それは2003年までの期限づきになっている不足払いなどの“「青」の政策は存続させる”としている点に私はとくに注目しておきたいと思います。 営農主体の劣弱化は、営農活力の低下をもたらします。耕作放棄地、不作付地の増加はそれを物語りますが、この5年間に前者は約30%、後者は78%も増加しました。センサス定義では不作付地は過去1年間作付しなかったが、今後作付する意志のある農地、耕作放棄地は耕作する意志のない土地ですが、作付する意志を当初もちつつも、数年作付しないうちにその意志をなくしてしまう、ということになるのが多いのです。耕作放棄地になれば農地としてのカウントからはセンサス上は消えます。そういう減少も含んで農家の経営耕地全体は5年間で11%減少しました。90〜95年は5.5%減だったのにです。 地域ぐるみの営農の活性化こそ必要 こういう状況のなかで、たとえば農業法人を含め40万程度の経営体に経営所得安定策を講ずるといったような経営体育成施策がことさらに強調されていますが、それでいいのでしょうか。私には疑問です。 この地域差など、吟味しなければならない問題がたくさんありますが、注意を要するのは5ヘクタール以上農家数もここへきて増加率が鈍化していることです。90〜95年は38%増でしたが、90〜95年は35%、そして95〜2000年は22%です。ということで経営体育成施策に傾斜することで、「基本計画」を達成するような生産増強が行われるとは到底考えられません。いまや過半を超えることになった高齢農業就業者も生産増強の担い手になれるような施策こそが必要なのです。地域営農の組織化こそを構造政策の軸にすえるべき、と私は考えます。 |
農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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