2001年 新年特集
「21世紀を農と共生の時代に」 経営所得安定対策は裾野を幅広いものに 全国農業協同組合中央会 専務理事 山 田 俊 男 氏 (インタビュアー)東京農業大学国際食料情報学部教授 白 石 正 彦 氏 |
「『農』と『共生』の世紀づくりに向けたJAグループの取り組み」と題したJA全国大会決議の具体化が本格的にすべり出した。すでに多くの課題で方向が定まり、力強く改革が進行している。JA全中の山田俊男専務は東京農業大学の白石正彦教授の質問を受け、それぞれのテーマごとに今後の取り組み展開や考え方、そして現状などを詳しく語った。白石教授は生産現場の例証も挙げながら、意見も打ち出した。論点は▽地域農業戦略▽農業経営所得安定対策▽ミニマムアクセス米▽生産資材費の低減▽参加・参画▽セーフテイネット▽経営委員会▽ゾーニングなど多岐にわたった。 |
白石 私は「農の持つ力を最大限に発揮する」というテーマが第22回JA全国大会決議の最大の特徴だと考えますが、この具体化について、どのようなイメージや展望をお持ちですか。 山田 大会で議案を提案した時にも「わが国の農業を取り巻く3つの危機と3つの潮流」ということを申し上げましたが、危機は@食の危機A担い手の危機B農地の危機です。
地域農業戦略は内発性がカギ 白石 危機はチャンスである、ともいわれます。どのように危機をチャンスに切り替えるかというところにJAの役割があると思います。 白石 戦後の農協は上からの制度主導の流れで進んできたけれども、21世紀はむしろ地域農業戦略をベースに、内発的な力を軸にして運動を展開していくことになるわけですね。 山田 担い手がいる畜産地帯や野菜地帯もあるし、一方、水田中心の地帯のように大規模な受託農家の法人ができていても、地域全体をカバーするまでには至っていない地域もあります。担い手グループでは請け負えない条件の悪い地域ではJA出資の農業生産法人が役割を果たすということが必要です。 白石 そのためには、地域住民との交流の仕組みをつくることや、自治体との連携が非常に大事になります。 ますます重要になる営農センターの役割 山田 そこで、JAの営農センターを行政をはじめ地域の農業諸機関の集まりの場所にしていこうと大会決議で示しました。JAだけで地域農業戦略をつくるのはむりですからね。行政、普及センター、試験場、農業委員会などとの連携を強めていきます。
白石 私が関わっている神奈川県相模原市の農業政策は環境保全型農業を目ざし、低農薬の安全な農産物の生産、畜産廃棄物と都市の生ゴミを循環型で処理する仕組み、市民との交流を活発にする景観や農地保全の三課題を議論中ですが、消費者も積極的に参加しています。 山田 どういう地域農業をつくるかの意思統一が必要です。今度、自民党から所得政策の提言があり、谷津義男・新大臣も重要な政策として、経営全体を通じた経営所得安定対策をつくり上げようといっています。 白石 大規模農家ほど米価低落や輸入野菜急増の打撃を受けるといいますが、その辺はどうお考えですか。 山田 例えば現行の稲作経営安定対策で経営が安定するのかという議論があり、やはり経営全体を通じた所得安定対策でないと効果が出ないことが明らかになっています。早急に大規模農家の経営安定をはからないといけません。 白石 ミニマムアクセス(MA)輸入米についてはいかがですか。 山田 今回まとめられた世界貿易機関(WTO)に対する日本提案に、われわれの主張したMA米の大幅な圧縮がきちんと盛り込まれました。制度の改善をはかり、最近の米消費数量や関税化などを踏まえて、できるだけゼロに近づける取り組みが必要です。 白石 生産資材をもっと安く供給するというJAの役割については、どう考えておられますか。 山田 大会決議の大きな特徴は、その面で、担い手に思い切ったサービスを供給しようということです。大口取引のメリットを価格や利用形態によっても還元できる仕組みをつくります。 白石 JA独自の環境保全型農業を支援するための営農センターの役割はますます大きくなりますね。 次に決議の中では、男女共同参画の取り組みも注目されますが。 山田 JAグループ自らが取り組む3つの基本の1つが、参加型組織であるJAの特性を生かすことです。 白石 私の現地調査では、例えば農家の女性たちが農産物の多様な販路開拓を担っている所もあります。 山田 女性が運営するファーマーズマーケットの盛況も話題です。Aコープ店舗なども女性の感性をもっと活かすべきですね。それに地域貢献では助け合い組織の活躍も期待されます。 白石 本来、JAは食のノウハウを一番持っています。それを女性の感性で前面に打ち出す生活店舗、農と共生の時代にふさわしい生活店舗のあり方が問われていますと思います。 山田 学校給食でもね、地域の伝統食を取り入れるとか母親の思いやりを活かした運営が望まれますよ。その意味でJAに女性の参与や理事がもっといればとよいのだがと思います。 危機管理方策は整備中 白石 最後に事業と組織の改革の到達点と課題をお聞かせ下さい。 山田 20世紀の後半は信用事業がJA経営を支えてきましたが、大競争時代に入って、その信用事業の利ざやが圧縮され、また他の金融機関と同じようなリスクを負う時代になりました。そこでリスクを小さくし、また破たんが生じかねないような場合、それを処理する仕組みとして今回「JAグループの自主ルールによる破綻未然防止策」をまとめました。制度的な整備はこれからで、来年の通常国会にかけられる予定です。 白石 危機管理の備えですね。あと組合員参画について補足して下さい。 山田 組織運営では今度、制度上の課題として経営管理委員会の活用を掲げました。私はもっとイメージのよい名称にできないかなと思います。 白石 少数が執行するというイメージですか。 山田 いや、経営管理委員会を設けた場合、常勤理事会は少数の執行体制にしますが、経営管理委員会そのものは多様な人材のみなさんで構成します。 白石 ゾーニング廃止については? 山田 規制緩和の中で、すでに他の協同組合、信金や信組はゾーニングを持っていません。農協だけの制度であり、もはや行政的に維持し切れないという事情です。われわれは反対しましたが、どうしても廃止するなら、それに代わる対策が必要だと主張しています。 白石 原則は自由ということですね。 山田 そうなっても、昭和29年の農林省経済局長通達で維持している現状よりは、主体的に判断してゆける形になります。 白石 本日は、ご多忙中のところ貴重なお話をありがとうございました。 インタビューを終えて
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農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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